劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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また余計な手間が……


四葉家へ出頭

 本来なら電話で済ませる予定だったのだが、真夜から四葉本家への『出頭』を命じられ、達也は兵庫が運転する車で四葉の隠れ里へとやってきた。授業が免除されている事は真夜も知っているので、学生の特権を使う事も出来ずに達也は大人しく真夜の命令に応じたのだった。

 

「達也殿、平日の朝から申し訳ございませぬ」

 

「いえ、葉山さんが悪いわけではありませんから」

 

 

 到着した達也を出迎えた葉山が、本気で申し訳なさそうに頭を下げたのを見て、達也も同じように頭を下げる。達也としては、葉山に連絡を入れ、後日説明しに行くと告げるだけで済む話だろうと思っていたのだが、運悪く葉山が電話を受けた場所は真夜の書斎で、達也からの電話だという事で通信端末を真夜に奪われたのだ。達也としても、真夜が知ればこうなるとは思っていたので、全面的に葉山が悪いとは思っていないが、自分の不注意さを嘆いたのは確かだった。

 兵庫から葉山に案内が変わり、達也は真夜が待っている書斎へと向かう。その途中で数人の使用人とすれ違ったが、あまり良い顔はしていないように感じられた。

 

「相変わらず俺は、ここでは受け入れられていないようですね」

 

「達也殿が深雪様のガーディアンでしかなかったことで未だに達也殿の事を次期当主だと認めない輩は少なからず存在しておりますので。また、私がこのような話し方をしている事も、達也殿の価値を貶めているのではないかと」

 

「葉山さんのそれは、俺が許可している物ですので。そもそもかしこまった話し方をされたら、俺の方が困ってしまいますので」

 

 

 達也としては、使用人たちにへりくだってもらいたいわけでも、自分に仕えろと強制するつもりは無い。もちろん四葉家から他家に移られてはいろいろと不都合があるので、正式に当主に就任したらさすがに看過できない、といった感じのスタンスを取っているのだ。

 だが真夜と、何より深雪が達也の事を下に見ている使用人たちに対して良く思っていないのだ。現に深雪の父親の側付きとなりつつある青木は、この屋敷に簡単に戻ってくることが出来なくなっているくらいだ。

 

「奥様、達也様をお連れ致しました」

 

『どうぞ、入ってちょうだい』

 

 

 扉越しに入室の許可を得て、葉山は書斎の扉を開け達也を中に案内する。葉山があえて達也の事を『様付け』で呼んだのは、これが私的な呼び出しでではないからか。

 

「わざわざこんな時間に、ゴメンなさいね達也さん」

 

「いえ、自分も説明しておく必要があるとは思っていましたので」

 

「そう。とりあえず、座ってちょうだい」

 

「失礼します」

 

 

 何時もの馴れ馴れしさは無く、真夜は当主としての顔で達也を出迎える。達也の方も息子ではなく、一人の四葉の人間として真夜と対峙する。

 

「さて、今朝の電話の内容だけども」

 

「あれは自分の意思ではありません。自分が聞かされていたのはあくまで『決勝で一条と戦う』という事でした。ですが九島烈が世間に発表したのは『自分がモノリス・コードに参加する』という事でした。事情を知っているであろう藤林響子さんを問い詰めたところ、彼女もこんなことになるとは思っていなかったそうです。どうやら九島烈と九校戦運営委員会が暴走したそうで」

 

「それじゃあ、達也さんが参加しないという事に出来るのではなくて?」

 

「既に大々的に発表されていますし、今年の九校戦は例年以上に注目されています。そしてその原因の一端である自分を使う事で、九校戦開催の正当性を主張したいのではと響子さんは言っていましたので、ここで自分が不参加を表明する事は、四葉家の為にならないのではないかと考えます」

 

 

 ただでさえ悪目立ちし過ぎたのだ。ここでまた目立っては自分たちの――延いては四葉家の為にはならないと達也は感じていた。その考えは真夜も同じのようで、彼女も難しい表情で顎に指を当てて考え込んでいる。

 

「たかだか高校生のお祭りくらいで四葉家の地盤が揺るぐことはないでしょうが、無用な敵を作りかねないというのは同感ね……まして閣下は達也さんの実力をある程度知っているお方、ここで達也さんの秘密を暴露されるのは四葉家としてもいただけないのは確かね……」

 

「自分にはまだいろいろと秘密にしている事がありますからね」

 

「仕方がありません。達也さん、四葉家は達也さんの九校戦モノリス・コード参加を許可します。ですが、達也さんの秘術を知られるような事は避けるように。くれぐれも大観衆の前で達也さんの『特異魔法』を使わないよう心掛けなさい」

 

「分かりました。そのような展開に持ち込まれるようなら、大人しく負け犬に甘んじるつもりです」

 

「分かっているのであれば、これ以上の問題はありません」

 

 

 そこで一度言葉を区切って、真夜は表情を当主としての物から母親としての物に切り替えた。

 

「まぁ、私個人の思いを言わせてもらうのならば、たっくんが負けるところなんて見たくないから、『分解』だろうが『再成』だろうが使っちゃっていいとは思うんだけど」

 

「……母上、分解も再成も世間に知られれば俺の自由が更になくなる事になりかねません。それでも良いのであれば、使いますが」

 

「たっくんを研究所に縛り付けるなんて出来るはずないけど、たっくんに余計な苦労を強いる事になりかねないもんね。分かってるとは思うけど、十分気を付けてちょうだい」

 

「分かってます」

 

 

 それが合図だったのか、達也は腰を上げ一礼して書斎から出て行き、真夜は引き止める理由が見つからず、ただただ達也を見送ったのだった。




学生のスケジュールじゃないな……
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