劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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勝てる確率が上がるから歓迎はされそう


一高生の反応

 達也が真夜に報告している頃、一高内でも達也のモノリス・コード参加で意見が割れていた。割れていたと言っても、反対しているのは一部の男子――はっきり言ってしまえば三年一科生の男子の一部だけで、大半は歓迎ムードなのだ。

 その理由として、達也がいろいろと『普通』ではない事を知っている後輩からは、一緒に戦ってみたいという意見が出たり、一昨年の新人生モノリス・コードの戦いを間近で見た同級生たちからは、達也が参加してくれるのであれば、今年のモノリス・コードも安泰だという意見が上がっているのだ。

 そして表立って反対意見が出ていない理由として、深雪の耳にその事が入ればどうなるか、それを知っている人間がいるからだろう。

 

「達也様から直接お聞きしたかったのですが、叔母様に呼び出されたのですか」

 

「そうみたいだよ。達也さんを迎えに、若い執事さんが来てたし」

 

「あぁ、あの人ね」

 

 

 雫から聞かされた特徴で、達也を迎えに来たのが花菱兵庫であると理解し、彼なら達也の事を軽んじたりしないととりあえず安心して、再び愚痴を零す。

 

「本来であれば、大々的にお祝いしたいところですが、叔母様がどのような判断をなさるか分からないから、準備しようがないのよね」

 

「何で? 達也さんのお母さんって、達也さんの事を溺愛してるんだよね? もしそうなら、達也さんが活躍するところを見たいって思うんじゃないの?」

 

「達也様なりにいろいろと秘密にしなきゃいけない技術があるから、それを知られる恐れがある今回の件を叔母様がどう判断なさるか、私にも分からないのよ。まぁ、達也様が秘匿技術を人前で披露するはずがないって、一昨年の新人生モノリス・コードで分かっているのだから、叔母様もそこまで厳しい意見は仰らないとは思うけど」

 

「そもそも達也さんは、こんな大々的に発表されるとは思って無かったみたいだよ? 私たちが話してるのを聞いて驚いてたし」

 

「確かに……達也さんが聞いた時は決勝だけって話だったらしいし」

 

「そうなの?」

 

 

 その現場にいなかった深雪は、達也が驚いた表情を浮かべたところを見れなかったことを内心で悔やみながら、そんな事を表に見せる事無く別の事に驚いてみせた。深雪とそれなりに長い付き合いになっているほのかと雫も、深雪がそんな風に思っているとは見抜けなかったようで、表面上の疑問に答えた。

 

「達也さんが藤林さんに電話してるのを聞いた限りでは、だけどね」

 

「どうやら老師が勝手に話を進めたらしい」

 

「そう、老師が……」

 

「み、深雪? 笑顔が怖いんだけど……」

 

 

 雫から事の顛末の一部を聞かされ、深雪は底冷えするような笑みを浮かべた。その表情を間近で見ていたほのかが一歩距離を取ってその表情に対してのツッコミを入れると、深雪は浮かべていた笑みを消して難しい表情を浮かべた。

 

「老師が勝手に話を進めたとなると、叔母様も賛成はしないかしら……そうなるとまた、達也様が悪者にされてしまう可能性が……」

 

「そもそもが見切り発車だったんだから、達也さんを責める人がいるとは思えないけど?」

 

「私たちは冷静に物事を見れる立場にあるからそう思えるでしょうけども、マスコミの方たちはそうは思わないんじゃないかしら? せっかく盛り上がるネタが出てきたのにって」

 

「あり得そう」

 

 

 他の学生よりマスメディアに近い存在である雫は、彼らがどのように報じるか想像し、深雪の不安が決してあり得ない物ではないと感じた。

 ほのかもここ数ヶ月の騒動で、達也に対して否定的に報道してきたメディアに嫌悪感を懐いているので、再び達也の事を酷く報道するようなメディアが出て来たら黙っていられる自信が無いという表情で二人の事を眺めていた。

 

「そもそも、達也さんが参加したら試合にならないんじゃないの?」

 

「そうね。達也様の力は、二年前とは比べ物にならない程になっているし、普通の高校生が達也様の動きを捉えられるとは思えないわ」

 

 

 八雲との修行の成果もあるが、一昨年はまだ達也の力は封じられていた。だが今はその封印は完全に解かれており、達也の魔法技術は飛躍的に上がっている。今はまだ完全にコントロール出来ないと達也は言っているのだが、深雪は既に百パーセントコントロール出来るのではないかと疑っていた。

 もし深雪の考えが事実だった場合、高校生のお遊び程度で対抗出来るレベルではない程の実力差がある事になり、他校から再びクレームが入る要因になりかねないのだ。

 

「まぁ、ルールがある大会だし、直接攻撃は禁止されてるわけだから、文句を言われる筋合いでは無いんだけど」

 

「なに?」

 

「いいえ、何でもないわ。まぁ、達也様が参加した場合、他校はモノリス・コードは捨てるしかなくなるんじゃないかしらね。そうなると、花形競技だというのに盛り上がりに欠けてしまうかもしれないわね」

 

「三高の一条君は参加するだろうから、次期十師族当主の戦いって事になるだろうから、盛り上がりに欠けるという事は無いと思うけど」

 

「他の学校は、最初から三位狙いになるって事?」

 

「大袈裟に言えば、そうなるかもね」

 

 

 雫の質問に、ほのかは苦笑いを浮かべながら答えた。将輝の実力も、高校生程度で太刀打ち出来るレベルではないので、達也と将輝が同時に参加するモノリス・コードを他校がどう感じるか、少しだけ考えたのだろうと、深雪はそんな事を考えていた。




盛り上がればいいのかよ……

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