劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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凄い集客率だ……


客寄せパンダ

 達也に買ってもらった服を着ている響子は、普段より表情が明るく、また綺麗だった。普通の男子高校生だったら耐えられないだろう笑みも、達也には効果は無い。

 

「今度は達也君の服を見に行こうよ」

 

「俺のですか? 今日は響子さんの為に一日空けたので、響子さんの買い物をしましょうよ」

 

「でも、私だけ買ってもらうのはちょっとね……」

 

「この前のお礼ですし、響子さんは気にしないでください」

 

 

 達也も変なところで頑固なのだと、響子も重々理解している。だが大人の女として、年上としてこのまま達也に奢ってもらってばかりだとさすがに気になってしまうのだ。

 

「それじゃあ昼食は私が払うわ!」

 

「今日は食事がメインのはずでは?」

 

「うん。だから夜は達也君に奢ってもらうわ。そういう約束だから。でもお昼はその約束に含まれてないでしょ?」

 

「まぁ、少佐が強引に決めたスケジュールですからね」

 

「そ。だから気にしないで」

 

 

 そういって響子は達也の腕に自分の腕を絡めた。何だかんだ言っても響子はこの一日を楽しむつもりなのだと、達也は苦笑いを浮かべながら思っていた。

 響子が選んだ店は、極普通のパスタハウスだ。達也も響子も好き嫌いはないので何処でも良いという事になり、最も手近にあった店を選んだだけなのだが……

 

「いらっしゃいま……せ」

 

 

 二人を出迎えた女性店員が、達也の顔を見て固まる。店員としては失格なのだろうが、見蕩れてしまったのは彼女だけの責任では無いだろう。

 だがマジマジと見つめられて、達也も良い思いはしないのだ。踵を返そうとした気配を掴み取り、店員は我を取り戻した。

 

「えっと、二名様でよろしいですか?」

 

「ええ」

 

「それではご案内いたします」

 

 

 何処でも良いと思っていたので、これ以上無礼が無いなら店を変える必要も無い。達也はそう思いそのまま店員に案内されたのだった。

 案内された席まで移動し、達也は響子の背後に回った。響子は心得ていたかのように軽く会釈をしてから、達也の引いた椅子に腰を下ろす。そして向かいの席に腰を下ろした達也は、店員に軽く視線を向けメニューを受け取り、店員に会釈をして下がらせる。その一連の動作にまったく無駄が無く、高校生が出来る動作ではないと、響子は思っていた。それ以外の客、店員を含め達也が高校生だと分かるはずも無く、だがそれほど年齢を重ねてる訳でも無さそうな達也の動作に感心し、一部の女性客は、連れの男性客に視線を向けため息を漏らしていた。

 

「達也君、やっぱり君年齢を偽ってるでしょ?」

 

「こういうのは年齢では無く経験ですからね。実家のおかげでいろいろと経験してきましたから、昔からね」

 

「……そうだったわね」

 

 

 無頭竜殲滅に向かう前にした会話とほぼ同じ、だが今回達也に経験を積ませたのは独立魔装大隊では無く四葉だ。その事も知っている響子は、気まずそうに視線を下に向けたのだった。

 

「気にしないでください。別に嫌だった訳でも無いですし」

 

「それは達也君が……」

 

「それは言ってもしょうがない事ですので」

 

 

 達也の感情が希薄な理由も、響子は知っている。だから達也が嫌だと思わなかったのは、ホントに嫌だった訳では無くそう思えなかっただからだろうと響子は考えている。実際達也もそうだったのだろうと分かっているし、その時から達也にベッタリだった真夜もそうではないのかと思っていたのだ。

 

「ところで、さっきからこのお店混んでない?」

 

「窓際ですからね、この席は。響子さんが客引きにでもなってるんじゃないですか?」

 

「私じゃなくって達也君じゃない?」

 

 

 そんな会話をしていると、背後から声を掛けられた。声を掛けてきた相手の事は、達也も響子も知らない、まったくの無関係の相手だった。

 

「僕はこういう者なんだけど、貴女映画とか興味ありませんか?」

 

 

 如何やらタレント事務所の社長なのだなと、達也は響子に差し出された名刺を見て声を掛けて来た男の顔を改めて確認する。

 若く成功した男のようで、自分が偉いと思いこんでいるタイプなんだろうなと、達也は少し観察しただけで男をそう位置付けた。そしてこの男は、所属している女優を見せびらかすように街を歩き、優越感に浸ってからその女優と行為をするタイプだとも見抜いていた。

 実際男の連れは、最近人気が出てきている女優だ。周りの人が話してるのを聞いて知っただけで、達也はそれまでその女優を見た事は無かった。

 最優先で守るべき深雪が傍にいないので、達也が優先的に守るのは響子という事になっている。だからその社長が響子に手を伸ばした瞬間、達也はその社長の腕を取り捻りあげていた。その行為が如何いう意味を持とうが関係無く、自分の連れに手を出されるのを嫌ったのだ。

 

「お引取り願おうか」

 

 

 達也の言葉は、果して社長に届いたのだろうか。激痛で床に這いつくばっている男に、達也は鋼の視線を向けた。その視線は並みの人間では失禁してもおかしく無いほどの殺意が込められている。だから失禁しなかっただけこの男の胆力は素晴らしいと言えるのだ。だが彼の連れの女性はそうは思わなかったらしく、一緒に居るのが恥ずかしいと考えてさっさと店から出て行ってしまった。

 そうこうしてる間に、社長の男は店員に連れられ店から追いやられた。その時何か喚いていたようだが、達也は一切興味を示さずに席に戻った。

 そして達也が席に戻ったのを見計らったようなタイミングで、この店のオーナーが達也たちのテーブルにやって来た。

 

「このたびは不快な思いをさせてしまい、まことに申し訳ありません」

 

「いえ、騒ぎを起こしたのは此方ですから、謝るべきは自分です。ホントに申し訳ありませんでした」

 

 

 達也がそういうと、オーナーは表情を改め、達也の手を取り数回上下に振った。そして達也と響子に不快な思いをさせたのは紛れも無いのだからと、サービスでデザートをご馳走してくれると言ってきた。

 

「如何します?」

 

「せっかくのご好意ですから、もらっちゃいましょ」

 

 

 響子に判断を委ね、そして響子はオーナーの好意を受けると言って来た。達也もその意見に従い、オーナーにもう一度頭を下げてから再び席に座るのだった。

 

「達也君と居ると面白い事が起こるのね。でも守ってもらえて嬉しかったな」

 

「響子さんなら、俺が守らなくても大丈夫でしょうけどもね」

 

「如何いう意味かな~?」

 

「俺何かよりも強力な後ろ盾が居るじゃないですか」

 

「でも、この場で守ってくれなきゃ危ないでしょ?」

 

 

 達也が言っている事を完全に理解しながらも、響子は達也に守ってもらった事を嬉しく思っていた。実際に助けてくれたのは達也なのだから、後ろ盾があろうが無かろうが関係無いと響子は思っているのだった。




映画に出たら凄い人気者になるでしょうね……

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