達也たちが風紀委員会本部で話し合いをしているのと同じ時刻、生徒会室では深雪たちが既に九校戦モノリス・コードの話題で盛り上がっていた。
「達也様が出場なさるのならば、もう勝ったも当然ね」
「達也さんはエンジニアとしても参加してくれるそうだし、私たちも油断しなければ苦戦する事も無いかもね」
「でも今年は三高の吉祥寺真紅郎も本気で挑んでくるって一色さんたちが言ってたし、彼女たちも私たちに負けるつもりは無いって意気込んでた」
「同じ教室で授業を受けてると忘れちゃうけど、九校戦では敵同士なんだもんね」
「一色さんたちには悪いけど、私たちだって負けるつもりは毛頭ありません。達也様が調整してくださる以上、無様な試合は出来ません」
「深雪様、盛り上がるのはよろしいのですが、まだ達也様が何方を担当するのか――もっと言えば、達也様がエンジニアとして参加するのかどうかも決まっていませんが」
水波の指摘は泉美や詩奈からしてみれば当然のものだったが、三年生たちにはその当然は通用しない。達也がエンジニアとして参加しないという選択肢が、そもそも彼女たちの中に存在しなかったのもあるが、達也が自分を担当しないという考えも無かったのだ。
「水波ちゃんは、達也様が私たちを担当しないって思うのかしら?」
「いえ、そうではありませんが、去年千代田先輩が仰ったように、皆さんなら達也様以外のエンジニアの方でも十分実力を発揮出来ると思う方がいらっしゃるかもしれませんので」
「私たちはもう、達也さんが調整してくれたCADじゃないと十分に実力を発揮出来なくなってきている」
「確かに、授業用のCADとかだと、ちょっとやり難さは感じるよね」
「いっその事授業用のCADも達也様に調整していただけないか学校に掛け合ってみようかしら」
深雪の提案を、ほのかと雫は賛同したが、水波は難色を示す。彼女も達也に調整してもらった方が力を十分に発揮出来るとは思っているのだが、学校全体のCADを調整するとなると、その手間が大変ではないかと考えたのだ。もちろん、達也が深雪に頼まれて断るとは思えないのだが、彼には学校のCADの調整をしている暇など無い事を、水波は従者として知っているからだ。
「深雪様たちも残り半年でご卒業なのですし、そのくらいは我慢した方がよろしいのではないでしょうか? 達也さまのご負担を考えれば、我慢なさった方が達也さまのお役に立てると思いますが」
「……確かに何処かの国の所為で、達也様が大変な思いをしているのは事実ですものね」
「ここ最近は大人しくなってるけど、何時また仕掛けてくるかも分からないしね」
「達也さんのご迷惑になるところだったわね」
水波の思惑通り、三人は達也に学校用のCADを調整させるのを断念してくれたので、水波は彼女たちに見えない角度でホッと一息ついて、隣に座っている泉美に向けて苦笑いを浮かべた。
「大変ですわね、水波さんも」
「お三方のお気持ちも分かるのですが、達也さまの都合を考えれば、ここで断念させておいた方が良いと判断しただけです」
「確かに司波先輩はお忙しそうにしていますし、九島老師の計画の所為でさらに忙しくなってしまったようですしね。お姉さまがまたぐちぐちと文句を言う光景が目に浮かびますわ」
「あ、あはは……泉美さんのお姉さんって、真由美さんだよね? あの人だって司波先輩が忙しいのは知ってるはずですよね? それでも文句を言うんですか?」
「お姉さまはただ司波先輩に構ってもらいたいだけなのかもしれませんが、その所為で司波先輩や鈴音さんのご迷惑になっているという事を自覚していないご様子……香澄ちゃんもお姉さまを止める事は出来ないようですし、ますます司波先輩がお忙しくなられ、深雪先輩のご機嫌が損なわれてしまう結果になってしまうかもしれません」
珍しく達也の心配をしているのかと思ったが、結局はそこに落ち着くのかと、水波は内心泉美に呆れかえっていた。一方の詩奈も、泉美が相変わらず少しホッとしたのと同時に、何故そこまで深雪に心酔しているのだろうかと首を傾げたのだった。
「ところで詩奈ちゃん。貴女は選手として参加するのですか? それとも作戦スタッフとして参加するのですか?」
「私自身、あまり戦闘魔法は得意じゃないですし、司波先輩から作戦スタッフとしての心得を学ぼうと思ってます」
「確かに詩奈ちゃんはこういった競技に参加するよりも、裏方でお手伝いの方が良いかもしれないわね。大勢の前に出るという事は、それだけ詩奈ちゃんの魔法の影響が大きくなるかもしれませんし」
「イヤーマフをしてれば問題ないんですが、これがルールに抵触しないかどうか分かりませんし……」
九校戦で使用するCADには大会が定めたレギュレーションが存在し、詩奈のイヤーマフはたとえ競技用ではないにしてもルールに抵触する可能性がある。それを考えれば、詩奈は選手としてではなく作戦スタッフとして参加した方が貢献度は高いだろう。
「では、詩奈ちゃんが考えた作戦、楽しみにしてますね」
「わ、私はあくまでお手伝い程度しか出来ないと思いますよ」
深雪から思わぬプレッシャーを掛けられ、詩奈は身体を縮こませて大袈裟に首を振ったのだった。
詩奈は戦うような感じしないし……