風紀委員会本部に呼び出された七宝は、何の用件で呼び出されたのかがさっぱり分からなかった。部活連の一員として活動しているとはいえ、風紀委員とはあまり交流もなく、精々香澄と偶に話すくらいの関係しかなかったのだから仕方がないかもしれない。
呼び出した相手は部活連会頭の五十嵐。だが場所が部活連本部ではなく風紀委員会本部なのが気になったが、断るという選択肢がない以上、七宝は大人しく風紀委員会本部前にやってきた。
「うわっ、七宝。アンタが何でここにいるのよ」
「七草か……五十嵐会頭に呼び出されたんだ」
「何で会頭がこっちにアンタを呼び出すのよ」
「俺だって分かんないが、呼び出されたのは事実なんだから仕方ないだろ」
「ふーん……まぁいいわ。僕も本部に用事があるから、アンタもついでに入ったら?」
香澄が風紀委員会本部の扉を開け、七宝は多少抵抗がありそうだったがそのまま香澄の後に続いた。部屋の中で待っていたのは、呼び出した五十嵐以外に、風紀委員長の幹比古と、生徒会書記長の達也だった。
「えっと……私、出直してきますね」
「ゴメンね、七草さん」
ただ事ではないという空気を感じ取った香澄は、そそくさと本部から出て行き、扉が閉まる前に幹比古が謝罪の言葉をかけた。
「悪かったな七宝。わざわざ出向いてもらって」
「い、いえ……それで、何故風紀委員会本部なのでしょうか?」
入学当初はいろいろとやらかした記憶はあるが、ここ最近は大人しくしていたはずなので、風紀委員会本部に呼び出される覚えはない。まして幹比古と達也を交えて話す事など、七宝は心当たりがない。
「九校戦の事で、お前に話しておくことがあって、わざわざ五十嵐に呼び出してもらったんだ」
「司波先輩が俺に何の用でしょうか?」
「今朝のニュースは見たな」
確認の形をとっているが、達也は七宝がニュースを見たと確信して視線だけで返答を求め、七宝も視線で頷いて達也に先を促した。
「不本意ではあるが、モノリス・コードに参加しなければならなくなって、残りのメンバーを俺が決めて良いと校長に言われた」
「その事も校内メールで知っています」
「ならば話は早い。七宝、最後の一人はお前にしたいと考えているが、参加する意思はあるか?」
「………」
達也の言葉は、七宝にとって予想外でしかなかった。確かに去年の新人生モノリス・コードに参加はしたが、結果は四高に負けた。相手が文弥だったから仕方がないのかもしれないが、当時の七宝はまだ文弥が四葉分家の人間だったという事を知らなかった。たとえ知っていたとしても、勝敗が変わったとは七宝自身も思っていないが、もう少しまともに戦えたんじゃないかとは思っていた。
そんな自分が今年のモノリス・コードに参加出来るなんて、彼はそんな自惚れは懐いていなかったのだ。ただでさえ実力者の多い現三年生だったに、そこに達也が加わったとなれば、二年生の自分が参加出来るはずもないと。
「幾つか質問させてもらっても宜しいでしょうか?」
「あぁ、構わない」
「先程司波先輩は『最後の一人』と仰いましたが、司波先輩ともう一人は何方なのでしょうか?」
「お前の目の前にいるだろ。風紀委員長の吉田幹比古だ」
達也の答えに、七宝は納得したように頷く。彼の中で幹比古は間違いなく実力者だ。ましてや実力で二科生から一科生に転籍した猛者、ある意味で達也以上にイレギュラーではないかと感じさせる程なのだ。
「ではなぜ二年の俺なのでしょうか? 三年生の先輩たちにも、実力者は大勢いるはずでも。俺なんかよりも活躍出来る方は探せばすぐに見つかるのでは?」
「三年生だけで固めても問題は無いが、来年に繋がらないだろ。今年だけ勝てばいい、というわけではないようだしな」
達也としては、今年だけでも問題は無いのだが、一高全体としては、今年で終わりではないので、出来る限り来年に繋がる戦いをしたいと思っている。それは達也たちが入学した時から続いている――つまり、連覇が続く限りその傾向は残るのだろう。
「……吉田委員長は、もう一人が俺でも問題無いのですか?」
「七宝くんの実力はある程度知っているつもりだし、何より達也の選出だからね。問題は無いと思ってるよ」
「そうですか……」
幹比古が達也の事をそこまで信頼している理由を、七宝は知らない。だから何故「達也が選んだから」という理由だけで納得出来るのか彼には分からない。だが達也がそれだけ信頼に値するだけの結果を残してきたからだろうという事だけは理解出来たので、これ以上の質問は切り上げる事にした。
「先輩たちにそこまで評価していただき、光栄です。自分で良ければ、喜んで最後の一人として参加させていただきたいと思います」
「ありがとう」
「これで残るは一年生だけだね」
どうやら他のメンバーは大方決まっていたようだと、七宝はここにきて初めてその事に知った。開催されるか微妙だったとはいえ、メンバー選考は水面下で行われていたのだろうと、彼は深く考えずに風紀委員会本部を辞す事にした。
「では、俺はこれで」
「わざわざすまなかったな」
「いえ、自分にとっても有意義な事でしたので」
直属の上司である五十嵐の労いにそう答えて、七宝は一礼して風紀委員会本部を後にしたのだった。
名のなる二年生男子で出れそうなのが七宝だけですし……