劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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目立っちゃうのは仕方がない……


目立つのは

 達也たちがいる一高テーブルは、三高以外の学校からも注目されていたが、彼らに直接声をかけるような猛者はいない――と思われたが、四高の双子が達也の側にやってきた。事情をよく知らない人間が見れば命知らずと思うかも知らないし、中途半端に事情を知っている人間が見れば、去年の物好きな双子かと興味を失っただろう。

 だがある程度の事情を知っている人間が見れば、四葉の分家の一つである黒羽家の姉弟が本家次期当主に挨拶に向かったように見えるだろう。実際は普通に会話を交わそうとしただけで、文弥たちに本家次期当主に対する挨拶だという自覚は一切ない。

 

「達也兄さま、ご無沙汰しております」

 

「直接会うのは久しぶりだな、文弥」

 

「はい」

 

「達也さん、貴方がどのように対策を練ったかは分かりませんが、絶対に負けませんわよ?」

 

「確かに亜夜子の魔法は驚異的だが、その特性は知っているからな。対応策を考えるのはそう難しいものではない。それは文弥、お前にも言える事だがな」

 

 

 現在文弥と亜夜子のCADの調整を担当しているのは、黒羽家お抱えの技士ではなく達也だ。彼が調整したCADの真価を知ってしまった今、高校生程度の調整技術で実力を発揮出来るとは考えにくい。それに加え、達也には双子のデータが頭にインプットされているので、どの程度の力を発揮するか把握出来ている。厄介な魔法特性ではあるが、情報が全く無いわけではないので達也にとって脅威にはならなかったのだ。

 

「まぁ僕も達也兄さまと戦って勝てるとは思いませんが、無様には負けないようにしたいです。せめて、七宝家次期当主くらいは倒してみせますから」

 

「私も、深雪お姉様には仕方がないとは思いますが、光井先輩には勝ってみせますから!」

 

 

 それぞれ達也と深雪には勝てないと理解しながらも、せめてこの相手にはと思う相手がいるようで、亜夜子は側にいるほのかに挑戦的な視線を向けてからこの場を去って行った。

 

「ほのかったら、亜夜子ちゃんにライバル視されて大変ね」

 

「何で私なのよ……同級生なんだから、泉美ちゃんにすればいいのに」

 

「亜夜子さんのあの言い方、私なんてまるで眼中にないような感じでした……こうなれば、嫌でも私を意識させて見せますわ」

 

 

 亜夜子としては、泉美よりもほのかの方が倒し甲斐があるという意味でほのかを指名したのだが、別に泉美が眼中にないわけでは無かった。だが彼女の魔法特性上、並みの相手ならミラージ・バットで負ける要素が無いのだ。

 

「それにしても、技術の四高と言われていたはずだが、今年は強気だな」

 

「文弥君と亜夜子ちゃんがいれば、それなりに戦えるはずですからね」

 

「でも、あの二人だけじゃ優勝できないと思うけど」

 

「そもそも四高の生徒たちは、達也さんの技術力を見に来てる節もあるって噂されてるくらいだから」

 

 

 一昨年の九校戦の時から、達也の実力を素直に認めていたのは四高だ。技術力に重きを置いている学校だけあって、達也の実力は彼らの目から見ても素晴らしい物だと評価されたのだろう。

 達也がトーラス・シルバーの片割れだと発表された今でも、達也の技術力を少しでも吸収出来たらという目をしている生徒は少なくないように見受けられる。

 

「まぁ、達也さんが高校生の競技に参加するなんておかしいって文句を言いたがる気持ちも分からなくはないけど、達也さんだって高校生だから参加しても何の問題もないわけだし」

 

「それで割り切れない程、達也さんの実力が突出してるんだよ。スバルやエイミィだって、達也さんが調整してくれたCADじゃなきゃ実力を発揮出来ないってぼやいてたし」

 

「今年は応援席にいるって言ってたけどね」

 

 

 新人戦に参加したメンバーの内、殆どは今年の九校戦に参加していない。一年生だけで編成される新人戦とは違い、本戦は三年の他に二年生も組み込まれている。その分新人戦より参加するのが難しくなっており、エイミィとスバルは今回のメンバーに含まれなかったのだ。

 

「エイミィはスピード・シューティングのメンバーとして選ばれてもおかしくなかったけど、香澄ちゃんがいるしね」

 

 

 もう一人二年生が選ばれ、来年重視の選出をしたため、エイミィは最後の最後で選考から漏れたのだ。本人は少し残念そうにしていたが、純粋に九校戦を楽しめると最後は笑っていたのを思い出して、ほのかと雫は深刻そうな表情を改め笑みを浮かべた。

 

「ところで達也さま、先ほどから女生徒は達也さまと一条将輝殿、男子は深雪様と愛梨様に視線が分散しているように見受けられますが」

 

「数字付きで最上級生だからな。それなりに注目されても不思議ではないと思うが」

 

「それ以外の理由だと思われますが」

 

「達也さんの鈍感は、相変わらずなんですね」

 

「というか、これ以上増えたら大変。威嚇しておいた方が良いと思う」

 

「あらあら雫ったら。達也様が人気なのは仕方がない事よ? でもまぁ、色欲に塗れた視線を達也様に向けるなど万死に値すると思い知らせておいた方が良さそうね」

 

「……ほどほどにしておけよ」

 

 

 止めても無駄だという事を理解している達也は、行き過ぎない限りは放置する事にし、幹比古と最終確認を始めるのだった。




深雪が物騒だな……

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