劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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優勝間違いなしですから


ずば抜けた実力

 大会初日の朝、雫は選手控室で達也がやってくるのを待っていた。新人生の時と同じく、達也はスピード・シューティングに出場する三選手全ての調整を担当している為、せわしなくテントを移動しているのだ。

 雫は事前に達也に相談して、彼が自分の為に開発してくれたアクティブ・エアー・マインを使う事に決めている。国際的に問題になった魔法ではあるが、達也が考案したのはあくまでも自分の為であり、この魔法は競技用として誕生した事を改めて世間に教える為、雫はどうしてもこの魔法を使いたかったのだ。

 その事を達也に話した時、彼は少し困ったような表情を浮かべたが、最終的には自分の考えを受け容れてくれた、と雫はそう思っている。実際達也は一昨年よりも改良したアクティブ・エアー・マインを用意してくれたのだ。

 

「(初めて見た時は驚いたけど、達也さんならこれくらい出来て当然だよね。というか、戦争で使われた事で更なる改良を施すなんて、転んでもただは起きないって事なのかな)」

 

 

 一昨年使用した時は、少し負荷が強かった魔法だったが、練習期間の時に使ったアクティブ・エアー・マインは、それを感じさせない程スムーズに発動した。雫自身の魔法技能が高まったという事を差し引いても、そう感じさせるほどの改良を達也が施したのだと、彼女はそう確信している。

 

「(何をどうしたのかは私には分からないけど、私は用意された魔法を使うだけ。難しい事は達也さんに任せて、私は私に課せられた事をちゃんとこなす。役割分担はしっかりしておけばいい)」

 

 

 雫のスタンスは変わってなく、難しい事は専門家に任せて、自分は用意された魔法で最大限の結果を残す、それを今年も実行するだけだと、試合前だというのにかなり落ち着いていた。

 

「待たせたな」

 

「達也さん、お疲れ様。……大丈夫?」

 

「あぁ、問題ない」

 

 

 自分より先に二人の選手を担当している為、達也が疲れているのではないかと心配した雫ではあったが、この程度で達也が力を発揮出来なくなるとは思っていないので、必要以上に心配はしなかった。

 

「何だかこのやり取り、一昨年もしたような気がする」

 

「そうだな。あの時はまだ、二科生でしかなかった俺だが、雫たちは信頼して俺が調整したCADを使ってくれたな」

 

「だって、達也さんの技術力を見せられれば、誰だって素直に使うって」

 

「そんなものか?」

 

「だって、二年生の二人だって、達也さんに担当してもらえて嬉しそうだったし」

 

 

 雫の他は二年生がエントリーしているのだが、その二人も何の抵抗もなく達也が調整したCADを使っている。去年その実力を目の当たりにしているという事もあるが、それ以上に達也が調整したCADで練習してその真価を直に味わったという事もある。

 

「水波が参加出来ないのは達也さんにとって計算違いかもしれないけど、彼女の穴を埋めてくれるくらいの実力はある二人だし、二年生には泉美と香澄がいるから、女子の方は問題ないと私も思うよ」

 

「試合前に他の選手の心配をするだけの余裕があるなら大丈夫だな。頑張ってこい」

 

「うん。あっ、ところで達也さん。航がまた達也さんに会いたがってたから、今度時間がある時にでもあってくれないかな?」

 

「俺に? 何の用で?」

 

 

 達也としてみれば、年頃の男子が自分に会いたがる理由が分からない。幾ら彼が姉の為に魔工師を志しているとはいえ、企業連合の跡取りとして期待されている航だ。実際に魔工師になれる確率などゼロに等しいのだ。

 

「少しずつだけど、魔工師としての勉強をしてるらしい。お母さんは止めさせたいみたいだけど、お父さんは乗り気で、会社の方は当分自分一人で何とかするって張り切ってる」

 

「あの人らしいな。会うのは構わないが、九校戦が終わったら俺は当分巳焼島の方に篭る予定だから、会えたとしても九月以降になるだろう」

 

「別に何時でも構わないよ。達也さんが忙しいのは航も分かってるだろうし」

 

 

 そんな雑談をするほど余裕だった雫は、予選をパーフェクトで通過し、再び控室に戻ってくる。やはり物足りなかったのか、彼女は少し不満げだった。

 

「相変わらず拍子抜け。本戦なんだから、死角を狙ってくるかと思ってたのに」

 

「他の選手の結果を見れば、それなりに高いプログラミングがされているんじゃないのか? 雫以外でパーフェクトは栞ただ一人だし」

 

「そうなのかな? 練習で達也さんが組んだプログラムの方がレベルが高かった気がする」

 

 

 それは達也の性格の悪さが反映された結果でもあるのだが、確かに雫が言うように練習の方が苦戦していたと達也も感じている。準備期間がそれほどなかった事が良い方に作用したと、達也はそんな人が悪い事を考えた。

 

「これなら、男子もそれなりに活躍出来るかもね」

 

「吉祥寺がいるから優勝は無理かもしれないが、二位くらいならなれるかもしれないな。まぁ、森崎の精神状態が乱れていなければの話だが」

 

「それくらいは調整してきてるんじゃない? 態度は兎も角実力は確かなんだから」

 

 

 風紀委員として一緒に活動している雫は、森崎の実力だけは評価している。だがそれ以外はあまり関わりを持ちたくないと思っているので、あまり興味は無さそうだった。




森崎も名前が出るだけありがたいだろう……

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