劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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自分が参加しない時は冷静な幹比古


客席での会話

 スピード・シューティング会場から足早に移動してほのかのCADの最終調整を済ませた達也は、プール脇からほのかのレースを見学している。

 一方の深雪たちは、客席からほのかのレースが始まるまでの時間を過ごしていた。客席にいるのは深雪とエリカ、泉美と香澄、美月と水波、そして幹比古とレオの八人だ。水波は作戦参謀補佐として達也の側にいても良かったのだが、達也がこちらに来られない以上、深雪の護衛として彼女の側を離れるわけにはいかないのだ。

 

「今年も水面に干渉して相手の目くらましをするのかしら?」

 

「でもその作戦は既に見せてるし、どこの学校も警戒しているんじゃない?」

 

「達也さんならそこまで計算して、あえて使ってきたりするかもしれませんね」

 

 

 相手の裏の裏をかいて、あえて一昨年と同じ作戦を使うかもしれないと美月が分析し、幹比古とレオも美月の意見に賛同した。

 

「達也ならありえそうだな」

 

「そうだね。人の裏をかくのが上手い達也なら、一度使った作戦を使ってこないだろうという相手の思考を読んでるかもしれないし」

 

「練習の時ですが、光井先輩はより自然にプールに明暗を造れるようにしていました。閃光魔法による目くらましは無いと思われます」

 

「でも水波ちゃん。達也様なら人目に付かないところでほのかに作戦を授けているでしょうから、見えるところで練習していた事だけがほのかの切り札とは限らないわよ」

 

 

 深雪の指摘に、水波が少し考え込む。確かに達也の性格からすれば、味方すら騙す可能性は十分にあるだろうが、自分が知る限り達也がほのかになにか耳打ちをしたという光景は無かった。もちろん、住まいが違うのでそこで何か話していれば水波が知らなくてもおかしくはないのだが、達也なら兎も角ほのかはあまり隠し事が上手な方ではないので、そんな事があれば何かしらの変化があって当然だと思っていた。

 

「もしかしたら、四十九院さんと戦うまで切り札は取っておくかもしれないね。光井さんも、正攻法だけで十分に勝ち抜ける実力はあるんだし」

 

「ありえるかもしれねぇな。光井はあまり戦闘向きじゃねぇけど、魔法力は幹比古以上だもんな」

 

「そこで何で僕を引き合いに出すのかは聞かないけど、魔法力が高いのは間違いないよ」

 

 

 実際防諜第三課相手にほのかの魔法が大いに役に立った実績があるし、あれと同じような事をしろと言われても、幹比古には難しい。それだけほのかの魔法力が高いのと共に、エレメンツ特有の力が働いたという事もあるだろう。もちろん、レオはそんな事を加味して発言したわけではないので、深雪も余計な事は言わなかった。

 

「光井先輩の実力は兎も角としても、他の学校の選手を見る限り、既に消化試合の雰囲気なんですが」

 

「まぁ、司波先輩の実績は、一高内部よりも他の学校の方が衝撃的ですからね。光井先輩の実力だけでも厄介なのに、司波先輩が担当していると知れば、勝ち目が薄いと思ってしまっても仕方がないのかもしれませんね」

 

「でもさ、そんな相手に勝とうって思わないのかな?」

 

「香澄ちゃんは好戦的ですけど、他の皆さまがそうとは限らないのではありませんか?」

 

 

 泉美にそう指摘され、香澄は反論しようとして諦めた。生まれた時からずっと一緒の相手に、今更嘘を言ったところで意味がないと香澄も分かっているからだ。反論する代わりに、香澄はムスっとした表情でほのか以外の選手を眺めている。

 

「普通に戦えば十分に勝てそうな実力はありそうな人たちだけどね」

 

「それだけ光井先輩の実力と司波先輩の実績が凄いという事なのでしょう。光井先輩以外なら、苦戦は免れなかったでしょう」

 

 

 泉美も他校の選手の実力がそれなりに高い事は分かっているので、香澄の言葉に同意しながらも仕方がないという考えは変えていなかった。

 

「先輩たちはどう思います? 戦う前から負けを認めるなんて、光井先輩にだけじゃなくその学校の他の選手たちにも失礼だと思いませんか?」

 

「香澄ちゃんの気持ちも分からなくはないけど、ほのかの実力は確かだし、何より達也様が担当なさっているのですから、戦意喪失してしまっても仕方がないとは思うわ」

 

「そうね。既に達也くんの連勝記録は伸びてるわけだし、参加選手を見る限り、バトル・ボードでその連勝記録を止められそうなのは三高の沓子くらいでしょうしね」

 

 

 一科と二科ではあるが、エリカは三高メンバーとそれなりに交流がある。一緒に住んでいるというのもあるが、それ以外でもコミュニケーションを取ったりしているのだ。

 

「確かに深雪さんやエリカの言うように、光井さんの実力と達也の技術が合わさっていると考えるなら、戦意喪失は仕方がないと思うよ。もちろん、だからといって手を抜いていい理由にはならないだろうけど」

 

「その辺りはあいつらだって分かってるんじゃねぇの? だから、勝てないにしても恥になるレースはしないと思うぜ」

 

「そうだと良いですがね」

 

 

 既に香澄の気持ちはスピード・シューティング本戦に向けられているのか、興味なさそうにほのかのレースを眺めていたのだった。




一年の時ならテンパってただろうが……

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