女子スピード・シューティング準々決勝の試合を見て、摩利はため息を吐いた。一時期魔法というものを兵器として見られる原因となった魔法を、雫が平然と使ってのけたのと同時に、そんな魔法を使わせた達也に呆れたのだ。
「これが本来の使い方だとアピールしてるんだろうが、相変わらず豪快な魔法だな」
「達也さんとしては、別の魔法を用意していたらしいのですが、北山さんがアクティブ・エアー・マインを使いたいと志願して、達也さんもそれを承諾した形だそうです」
「北山が？」
摩利の中で雫は、そこまで我を通すような性格ではないので意外に思ったのだろうが、真由美は鈴音の説明で納得したように頷く。どうやら彼女は鈴音程後輩たちの動向に目を配っていなかったようだ。
「達也くんが面倒事に発展しそうなことをするとは思って無かったから不思議だったけど、北山さんが使いたいって言ったわけか……達也くんも婚約者からのお願い事は断れなかったって事かな」
「それはどうか分かりませんが、達也さんもさらに改良したアクティブ・エアー・マインを用意したのを見れば、北山さんの願いを叶えたかったという事でしょう」
「しかしまぁ、相変わらず達也くんが調整したＣＡＤを使っている選手は負けないんだな」
午前中の予選、更にはバトル・ボードのほのかと、ここまで達也が担当した選手は負けていない。一昨年の新人戦から数えれば、かなりの数勝利に貢献していると誰もが認める程だ。
「でも次の準決勝、北山さんの相手はあの十七夜さん……」
「一昨年の新人戦スピード・シューティング準決勝のカードと同じですね」
「もう一組の準決勝は一高同士の戦いだから、ここで確実に一人は敗退か」
「三位決定戦がありますし、敗退という表現が適切かは分かりませんがね」
鈴音の言葉に、摩利も確かにと言ったような表情で頷き、表示されているスコアを見てもう一度ため息を吐く。ここまでパーフェクトを続けてきている雫だ。次の試合でもそれなりの結果を残すだろうと摩利も確信しているが、それなりでは勝てない相手だという事も理解しているので、雫にどれだけ余力が残っているかが気がかりなのだろう。
「あの魔法はかなり体力を消耗する。その事を考えて達也くんは一昨年、汎用型に補助システムを繋いでそれを補ったが、もう相手に手の内を知られてしまった以上、それでは補いきれないのではないか？」
「北山さんも基礎体力はつけてきていますし、手の内を知られたからと言って対処出来るほど、達也くんの技術力は低くないわよ？」
「それは…そうかもしれないが……」
自分以上に達也の能力を間近で見てきている真由美が言うのだから大丈夫なのかもしれないと、摩利は一応は納得したような表情を見せたが、どうやら彼女の不安はぬぐい切れていないようだと鈴音は見抜いていた。
「摩利さんは達也さんにＣＡＤを調整してもらった事は無かったのでしたっけ？」
「本格的な調整は無いが、それがどうかしたのか？」
「達也さんはトーラス・シルバーの片割れとして活躍していたのもありますが、毎週深雪さんのＣＡＤを調整していたのですから、他のエンジニアとは踏んできた場数が違うのです。たとえ強敵相手であろうと、エンジニアの腕が数枚劣る相手ですから、こちらが有利であることには変わりません。もちろん、選手の腕が拮抗していればしている程、エンジニアの腕で優劣が決まるわけですし」
「そうよ摩利。幾ら吉祥寺君がいるって言っても、彼は高校生レベル止まり。魔工師の中でもトップクラスの達也くんとじゃ、勝負にならないわよ」
「そうだと良いんだが……過去二年の九校戦を見る限り、達也くんは別の事件に巻き込まれてきているだろ？ 今回もそうかもしれないじゃないか」
去年のパラサイドールの件は公にされてはいないが、摩利も独自ルートでその事を知っている。もちろん真由美や鈴音も知っているので、摩利の心配も仕方がないという表情で頷く。
「確かに達也くんは事件に巻き込まれやすい体質だけど、今年はその心配はないんじゃない？ もうすでにいろいろと巻き込まれて解決してきたんだし」
「私もそう思いたいですが、以前達也さんが『一つの期間に起こる事件は一つとは限らない』と言っていたようですし、既に巻き込まれたからと言って何も起こらないとは限らないのでしょう」
「嫌な事言わないでよ、リンちゃん……」
先ほどまでのお気楽さはなくなり、真由美も神妙な面持ちで鈴音を見詰める。今年の九校戦はいろいろと大人の都合で中止になり掛けたり、結局開催したりと危険を孕んでいるのだ。過激派が襲ってきたりしても不思議ではない程、今の状況での開催は危ぶまれているのだ。
もちろん達也や他の学生だけでも十分に対処出来るとは分かっているのだが、撃退してそれで終わりだとは考え難い。最悪、九校戦自体が中断してそのままになる可能性すらあるのだ。
「後で達也くんに電話して聞いてみるわ」
「それが一番早いな……あたしたちだけで話したところで、達也くんの現状が分かるわけじゃない」
「結局は達也さんに聞くしかないのですね……」
どことなく情けなさを感じた鈴音がそう呟くと、真由美と摩利も気まずげに視線を逸らしたのだった。
結局は達也頼み……