大会一日目が終わり、深雪と水波の部屋でささやかながら祝勝会が開かれた。参加者は、スピード・シューティングを制した雫と、バトル・ボードで予選を突破したほのか、部屋の主である深雪と水波、そして香澄と泉美の六人だ。達也にも参加を申し出たのだが、夜の遅い時間に女子の部屋を訪ねるのは避けた方が良いという正論で断られたのだ。
尤もらしい理由で断った達也だったが、実は同時刻に人と会う予定が入っていたため、深雪と水波にのみ真実を告げ、食い下がるのを諦めさせたのだった。
「普通の家だったら問題なかったんだろうけど、さすがにこういう場所では達也さんが言ったように周りの目があるもんね」
「私たちの殆どが達也さんの婚約者であることは周知の事実なんだから、気にしなくても良いと思うけど」
「達也様は今、いろいろと注目されていますから、余計な火種を生まないようにと考えているのかもしれないわ」
「いくらマスコミだって、ホテルの中まで忍び込んでこないと思いますけど」
深雪の憶測に、香澄が不満そうに呟く。彼女は明日のクラウド・ボールに参加するのだが、同時刻に行われるアイス・ピラーズ・ブレイクに参加する深雪と雫、そして幹比古の担当を達也が務めるために、自分は担当してもらえなかったと不満を抱えているのも相俟って、今くらいは一緒にいたかったとここにいる誰よりも思っているのだ。
「仕方ありませんよ、香澄ちゃん。司波先輩のご指摘は尤もでしたし、深雪先輩もお目立ちになるお方ですから。こうして深雪先輩のお側にいたいと思う輩がいてもおかしくはないくらいに」
「ボクからしてみれば、泉美の方がよっぽど危ないと思うけどね」
今にも息を荒げそうな双子の妹を見ながら、香澄は顔を引きつらせる。彼女の中では、達也よりも泉美の方がこの部屋にいるに相応しくないんじゃないかとすら思えているのだろう。
「まぁいろいろと思うところはあるかもしれないけど、とりあえず雫、優勝おめでとう」
「ありがとう」
雫はあの後順当に勝利し優勝、栞は雫との激闘の影響なのかは定かではないが、三位決定戦でミスが目立ち四位に終わった。結果、達也が担当した選手の不敗記録は更新され、その事でも達也は今注目を集めているのだ。
「ほのかも順当に決勝に進んだし、明日は私たちの番ね」
「アイス・ピラーズ・ブレイクで注意すべき相手は、スピード・シューティング同様三高の十七夜栞選手ですね。クラウド・ボールで注意すべき相手は、こちらも三高の一色愛梨さん。どちらも皆さまと同じく、達也さまの婚約者でございます」
「私は違いますけどね」
水波の説明に、泉美が一応の断りを入れる。彼女は達也よりも深雪のシンパなので、達也の婚約者として一括りにされたのが気になったのだろう。水波もその事に対して頭を下げてから、説明を再開した。
「十七夜栞様ですが、一昨年の新人戦で明智英美様と死闘を演じられた事は、我々二年生より三年生の皆さまの方がご存じかと思います。あの時は達也さまの技術と知恵を合わせてもギリギリの試合だったようですし、今回も苦戦が予想されます。そしてクラウド・ボールの一色愛梨様ですが、こちらは一昨年の新人戦で無双の結果を残した実績があるお方です、香澄さんや泉美さんでも勝てるかどうか微妙なところです」
「お姉ちゃんなら勝てるかもしれないけど、ボクや泉美では厳しいよね」
「司波先輩も一色さんの実力はご存じでしょうから、私たちをクラウド・ボールに当てたのではないでしょうか?」
「どういう意味さ」
「勝つのは難しい上に、勝ったとしても消耗が激しいものになるのは分かり切った事です。ここで他の競技で勝てる主力を使うよりも、この競技にしか参加しない香澄ちゃんや、後半戦のミラージ・バットに参加する私を使うのは実に合理的だという事です」
「……確かに。三年生はエントリーされてないもんね」
エントリーされているもう一人も二年生で、この競技を担当するエンジニアは女子は千秋、男子は十三束だ。もちろん達也が全く関わっていないわけではないが、クラウド・ボールでは最低限の点数の確保しか期待されていないように思えても仕方がない布陣である。
「私と香澄ちゃん、どちらかが一色さんの体力を奪い、どちらかが倒せればいいという事なのかもしれませんが」
「水波はどう思ってるの?」
「私としては、先ほど泉美さんが申し上げたように、二人で一勝をもぎ取れれば十分だと考えますが、達也さまはお二人なら勝てるかもしれないと考えているのかもしれませんね。同じ二十八家の人間ですし、魔法力に大きな差は無いわけですし」
「期待されているのは嬉しいけど、ボクだって愛梨さんに勝てるなんて自惚れは持ち合わせていないよ。せめて泉美が先に当たって、消耗させてくれてれば分からないけどさ」
「香澄ちゃんはこれだけしか参加しないのですから、全力以上の力を発揮してみては如何ですか?」
「そんなの無理に決まってるじゃん。達也先輩が調整してくれたCADなら分からないけど、平河先輩じゃ百パーセントなら兎も角、百二十パーセントは無理だと思うよ」
千秋の腕もそれなりに高いのだが、やはり達也と比べてしまうと数枚落ちる。その事はここにいる全員が思っている事なので、泉美も千秋に失礼だというツッコミはいれなかった。
「兎に角、一色様と当たる前に負ける、などという事の無いようにお願いします」
参謀補佐としての注意をして、水波の説明は終了した。その後は雫の祝勝会なので、明日の話題はせずに盛り上がったのだった。
締める時はちゃんと締めます