劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1655 / 2283
単純に驚かない人たち


周りの反応

 順当に勝ち進んでいる一高の選手たちを見て、他校の生徒たちは頭を悩ませている。ただ悩ませているだけでなく、納得している風でもあるので、ある程度は想定内なのだろう。

 そんな中、一高の選手が勝ち進む度に喜んでいる他校の人間もいた。その中の二人、四高の黒羽文弥と亜夜子姉弟は、幹比古の試合を見ながら感心していた。

 

「達也兄さんが調整したCADを使ってるという事もあるんだろうけども、普通に五ヵ所同時照準は凄いよね」

 

「ですが、何かを狙ってるような感じがするのよね……それが成功してる風ではないから、まだ何か隠してる事があるわよ」

 

「姉さんがそういうなら、恐らくそうなんだろうね」

 

 

 アイス・ピラーズ・ブレイクでは直接対戦する事は無いが、モノリス・コードでは幹比古と戦う可能性がある文弥は、熱心に幹比古の戦い方を見ていた。五ヵ所同時照準だけで驚いていてはいけないと亜夜子に言われ、文弥はもう一度冷静に幹比古の戦いの映像を眺める。

 

「確かに、五ヵ所同時照準に成功したというのに、吉田選手の表情は曇ってるね……何に不満を感じてるんだろう」

 

「発動速度なのか、威力なのかは分かりませんけど、これで納得していないという事は確かでしょうね。一高内でも、吉田先輩の評価はかなり高い物のようですし、この程度ではないという事なのでしょう」

 

「姉さんは、一高に通ってみて何か情報は得てないの?」

 

「外から得た情報以上のものは、そう簡単に手に入らないわよ。元二科生で達也さんのお陰で自信を取り戻し、かつての神童が蘇った――いえ、一皮むけたという事は、文弥だって知ってるでしょう?」

 

 

 さすがに黒羽家の人間を高校のお遊びに投入するわけにはいかないので、二人は周囲に知られている以上の情報を持ち合わせていない。もし知っていれば、幹比古が何に不満を懐いているかなどという事で頭を悩ませたりはしなかっただろう。

 

「達也兄さんの事だから、別の隠し玉を用意しているんだろうけども、それは僕たちが考えても分からない事なんだろうね」

 

「達也さんの考えを完全に理解出来るはずがありませんから。あの人は私たちとは違う次元で戦っているお人。ご当主様にだって全て理解出来ているとは思えない程の策略を巡らせているのですから」

 

「やっぱり一条選手と戦えそうなのは、吉田選手だけ――その裏にいる達也兄さんだけって事かな」

 

「比べては可哀想じゃなくて?」

 

「どっちが?」

 

「どっちも。達也さんを一条さん如きと比べるのは失礼で可哀想な事ですし、達也さんと比べられなければならない一条さんもまた、可哀想だと思いますけど」

 

「姉さんのその言葉が一番可哀想だと思うよ……」

 

 

 将輝に聞かれないことをいい事に随分な事を言っているなと思いつつ、文弥もまた将輝の実力では達也に勝てないだろうなと思っているので、あまり強い否定の言葉は出せなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒羽の双子がそう考察を進めているのと同じ頃、二高の本部では光宣が楽しそうに幹比古の試合映像を眺めている。

 

「(幹比古さん個人の実力もそうだけど、やっぱり達也さんは凄い人だ……僕の中にいる周公瑾を倒しただけの事はあるな……)」

 

 

 自分も周公瑾討伐に力を貸したとはいえ、実際に周公瑾を倒したのは達也と将輝だ。その時の光景を周公瑾の亡霊を取り込んだ時に見ているので、光宣はその二人を特に警戒しているのだ。

 二人を警戒しているといっても、同列に見ているわけではない。光宣は達也が戦略級魔法師であることも、研究所内でしか成功していない実戦魔法『術式解散』を使える事も知っている。将輝とは比べ物にならないくらいの警戒心を懐いている。

 

「(僕がどうにかする前に水波さんを治した事も、警戒する要因になっているんだけどね……いったいどうやって治したんだろう)」

 

 

 光宣は周公瑾の亡霊から、水波を治す為にパラサイトと融合して、その治癒能力を利用しようと考えていた。だが光宣が自分の身体を使って実験するよりも早く、達也は水波を日常生活に復帰させたのだ。いったいどうやって魔法演算領域に負った傷を治したのか、光宣はその事が気になっていた。

 実際達也は治したのではなく、精神干渉魔法を応用した技術で元々の魔法演算領域を封印し、それに劣らない人工的な魔法演算領域を水波の中に創り出したのだ。劣らないといっても、慣れるまでは制限がかけられるので、今回の大会に水波は参加していないのだが。

 

「(達也さんが担当した選手を相手にする時はかなり苦戦を強いられるし、今回は達也さん自身が出場するから、そこでもかなりの苦戦が予想される……というか、勝てる見込みははっきりって薄い……)」

 

 

 自分の身体が達也程強固だったら、恐らくは勝てるかもしれないが、生憎虚弱体質は治っていないので、光宣はモノリス・コードで達也に勝てる自信が無かった。そもそも達也と当たる前に負けるかもしれないとさえ思っているのだ。

 

「(あまり他の人に迷惑を掛けたくないから、モノリス・コードだけにしたけど、本当ならアイス・ピラーズ・ブレイクにも参加したかったな)」

 

 

 自分の魔法特性ならこの競技で活躍出来ると考えている光宣は、もう一度幹比古の試合映像を再生しながら、もし自分だったらどうしたか、などという妄想を始めたのだった。




光宣は兎も角、亜夜子もかなりの観察眼だ……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。