劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ラッキースケベが発動


幹比古へ向けられる期待

 予選を無事に突破して、幹比古はホッと一息ついていた。彼の実力からすれば、予選で負けるはずもなく、また達也が調整したCADを使っているので、何時も以上に調子が良いのだ。だが彼の性格上、それだけで過信出来るはずもなく、試合中は常にドキドキしていたのだった。

 そして試合後、彼は今、別の意味でドキドキしていた。

 

「さすがです、吉田君! 始まるまでは不安でしたけど、やっぱり吉田君は凄いですね!」

 

「う、うん……ありがとう、柴田さん」

 

 

 幹比古が控室で休んでいると、達也についてくる形で美月がやってきて、彼女は達也が見ているのも厭わず幹比古の手を掴み、興奮気味に身体を寄せている。

 

「その、柴田さん……当たってるんだけど」

 

「当たってる? ……っ!?」

 

 

 幹比古に指摘されて漸く気が付いたのか、美月は顔を真っ赤にさせてが、それでも幹比古から離れようとはしなかった。

 

「お邪魔なら、俺は時間を改めるが?」

 

「た、達也さんっ!? そ、そんなんじゃありませんからね!?」

 

 

 達也が見ている事を思い出して、今度こそ美月は幹比古から身体を離した。美月が離れてくれた事でホッとしながらも、少し残念な気持ちになった幹比古は、複雑な思いを込めて達也に視線を向けた。

 

「実戦で使ってみてどうだった?」

 

「悪くなかったよ。今回はあえて五ヵ所同時照準で戦ったけど、それくらいならスムーズに発動出来るようにはなってるから」

 

「だが一条を相手にするなら、五ヵ所同時照準では勝てないだろう」

 

「それは分かってる。僕だって、十師族の次期当主に真正面から戦って勝てるなんて思って無いよ。練習でも八ヵ所までなら確実に照準を付けられるようにはなってる。後は明日までに練習を重ねられれば――」

 

「いや、今日の幹比古の魔法力を反映させれば、もう少し魔法式から無駄を削ぎ落せる。すぐにでも調整をしたかったんだが、後でも構わないぞ?」

 

 

 達也と幹比古の、丁度間で二人の事を交互に見ていた美月に視線を向け、達也は幹比古に「どっちが良い?」と視線で尋ねた。

 

「測定と調整で、どのくらいかかるんだい?」

 

「二つ合わせても一時間あれば終わるだろう。今日はもう、担当してる競技もないし、クラウド・ボールは水波と詩奈が記録してくれているだろうし」

 

「一色さんは良いのかい? 達也が見てくれていると思ってるんじゃないのかな?」

 

 

 香澄は仕方がないと諦めているが、愛梨は一高の内情は知らない。だからクラウド・ボールも達也が見てくれていると思っていても不思議ではない。幹比古はその事が気がかりだったのだが、達也は左右に頭を振った。

 

「愛梨にも、クラウド・ボールは担当していないという事は伝えてある。だから俺が見てなくても文句は言わないだろう」

 

「そうなのかい? それじゃあ、今から調整をお願いしようかな。柴田さんも一緒に来るかい?」

 

 

 幹比古としては特別な意味はない、単なるお誘いだったのだが、美月は何故か顔を真っ赤にさせた。

 

「そ、その……調整ってどこでやるんですか?」

 

「測定は一高本部の天幕で簡易的なものだが出来るし、調整は端末があればどこでも出来る。まぁ、他校の目がある所ではさすがに出来ないから、部屋か天幕の中だろうな」

 

「それなら行きます」

 

「何処でやると思ってたんだ?」

 

 

 達也に問われて、美月は視線を逸らした。恐らくはおかしな想像をしていたのだろうと達也は理解し、美月の名誉の為にもこれ以上掘り下げないでおこうと自分を納得させた。

 

「それじゃあ行くか」

 

「そうだね。ところで達也、一条選手の担当は吉祥寺君なんだよね?」

 

「そうだろうな。あいつが吉祥寺以外に担当させるとは思えないし、確実に点数を稼ぐなら、その組み合わせが最高だろう」

 

「達也には申し訳ないけど、男子は相変わらず苦戦を強いられているから、僕くらいはしっかりと貢献出来るように頑張るから」

 

「一昨年辺りから、一高の点数計算は男女逆転しているから気にしなくて良いだろう。それに森崎も、スピード・シューティングではしっかりと三位に入っているんだから」

 

「準決勝で吉祥寺君に当たっちゃったのが惜しかったよね……彼の実力なら、二位以上は確定だと思ってたのに」

 

 

 幹比古から見ても、森崎は十分に実力のある魔法師だ。ただ相手が悪かっただけで、運が良ければ優勝だって狙えるとさえ思っていた。だが運悪く準決勝で吉祥寺と戦い、そして敗れたのだ。

 

「バトル・ボードの方も、男子は苦戦してるし、モノリス・コードに懸けられる期待は、相当なものになってるだろうし……」

 

「幹比古だって出場するんだから、他人事のように言ってる場合ではないんじゃないか?」

 

「それはそうだけど……」

 

 

 達也が期待されるという事は、それだけモノリス・コードが注目されるという事であり、幹比古も出場選手である以上期待される。その事を忘れていたのか、幹比古は顔を蒼ざめて緊張し始めた。

 

「今からそんな事を考えるな。明日の試合の事を考えろ」

 

「うん……というか、僕は二回以上一条選手と戦わなければいけないのか……」

 

「頑張ってくださいね、吉田君」

 

 

 美月の、幹比古が勝つに決まっているという視線を受けて、幹比古は困ったように顔を引きつらせて達也に助けを求めたのだが、達也は何も言わずに天幕へと移動を始めてしまったのだった。




美月もムッツリだな……

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