劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1657 / 2283
強敵を一人で倒そうとはしない


クラウド・ボールの結果

 測定を終え、天幕で作業している達也を見ていた幹比古と美月の許に、深雪たちと一緒にエリカがやってきた。二人を見てエリカは納得したような表情で一つ頷いてから、人の悪い笑みを浮かべた。

 

「何処に行ったかと思ってたけど、ミキのところにいたんだね~。もしかして、あたしたちはお邪魔だったりするかしら?」

 

「そ、そんな事ないよ! というか、エリカちゃんには何処に行くか言ったでしょ?」

 

「そうだっけ? 聞いてないような気もするけど……」

 

 

 自分の記憶に自信が無いのか、エリカは視線を宙に彷徨わせながら答える。そんなエリカを見て、美月は盛大にため息を吐いてからエリカを見据えた。

 

「エリカちゃんがクラウド・ボールの会場に行くとき、丁度達也さんに誘われて私は控室に行くことになったでしょう? その時にちゃんと言ったよ」

 

「う~ん……言われてみればそんな事を言われた気もするんだけど……まぁ、結果的に合流で来たんだし、細かい事は良いでしょ」

 

「エリカちゃんが言い出したんじゃないの……」

 

 

 大雑把なエリカの態度に、美月はもう一度ため息を吐いてから、何故エリカが自分を探していたのかが気になり、その事を尋ねる事にした。

 

「それで、何か用事があって私の事を探してたんじゃないの?」

 

「そうそう。深雪と雫、ついでにミキの決勝リーグ進出を祝って、ケーキでも食べに行かないかなって誘いに来たんだ。ミキもどうせ達也くんの作業を見てるだけなんでしょ? 一緒に来ない?」

 

「僕の名前は幹比古だ! それで、僕は遠慮しておくよ」

 

 

 このメンバーの中に、男一人で加わる度胸がないのか、それともエリカの考えを見破ったのかは分からないが、幹比古はエリカの誘いを断り、達也の作業を見学し続ける事を選んだ。

 

「そもそも、エリカちゃんがケーキを食べたいだけじゃないの?」

 

「それもあるっちゃあるんだけどね~。まぁ、クラウド・ボールは結局泉美が優勝したし」

 

「あれ? 一色さんが優勝候補筆頭だって言われてたのに、負けちゃったんですね」

 

「香澄との死闘の所為で、愛梨は疲れ切ってたみたいよ? それで、決勝まで楽に勝ち進んでた泉美が、そのまま愛梨を倒して優勝。愛梨は準優勝で香澄が三位。達也くんの目論見通り、二人一殺でウチが優勝したってわけ」

 

「そうだったんですか」

 

 

 他校の生徒ではあるが、四月から一緒の学び舎で生活しているからか、美月は愛梨に同情的だった。エリカも知り合いが負けたという事で美月の気持ちは理解出来るようだが、彼女程愛梨に同情的ではなかった。

 

「まぁ、愛梨と香澄の試合が、事実上の決勝戦だったと思えば、愛梨も結果に納得してるんじゃないの? さすがに七草の双子を相手にして、両方に勝てるとは思って無かったでしょうしね」

 

「運もあったと思う。準決勝以前に香澄か泉美と戦っていれば、愛梨が優勝しててもおかしくは無かった。あの二人と連戦になったのは、運が悪かったとしか言いようがないよ」

 

「雫の言う通りね。香澄ちゃんも泉美ちゃんも確かに実力者だけど、連戦でもない限り一色さんに勝てたとは思えないわね。こればっかりは、二人の運が良かったのか、一色さんの運が悪かったかのどちらかとしか言えないわね」

 

 

 クラウド・ボールの参加者の実力を見比べれば、愛梨がずば抜けて実力が高い事は誰もが認めるだろう。それこそ、出場する香澄や泉美だって、愛梨の実力は認めている。だからこそ二人一殺の覚悟で挑んだのだ。そして運よく双子が続けて愛梨と当たる組み合わせになったお陰で、泉美は優勝出来たのだと、深雪や雫も思っている。

 

「それじゃあ深雪さんたちだけじゃなくて、泉美さんや香澄さんも呼んだ方が良いんじゃないかな? 泉美さんの優勝と、香澄さんの三位をお祝いして」

 

「それもそうね。深雪、泉美に電話してくれない?」

 

「何で私が?」

 

 

 深雪としては、立案者のエリカか、二人を呼ぼうと言い出した美月が電話をするべきだと思っていたので、何故自分に振られたのかが分からなかったが、次のエリカのセリフで納得した。

 

「だって、深雪が呼べば泉美は来るでしょ? 泉美が来れば香澄も来るでしょうし」

 

「そういう事」

 

「それに、あたしは泉美のも香澄のも連絡先知らないしね」

 

 

 生徒会役員でも風紀委員でもないエリカは、泉美や香澄との付き合いはそれ程ない。顔見知りではあるが、連絡を取り合う仲ではないのだ。

 

「とりあえず、ここにいては達也様の作業の邪魔になってしまうでしょうから、そろそろ移動しましょう」

 

「今更な気もするけどね」

 

 

 既に散々お喋りをしていたのだ。今更達也が自分たちの事を邪魔だとは思わないだろうし、そもそも達也が深雪の事を「邪魔だ」とは思わないと雫は思っている。自分もそう思われているだろうとは思っているが、それを言葉にできる程自惚れてはいないのだ。

 

「それじゃあ吉田君、美月を借りるわね」

 

「な、何で僕に断りを入れるんですか?」

 

「だって、恋人でしょ?」

 

 

 

 深雪の「何当たり前な事を聞いているんだ」と言わんばかりの態度に、幹比古と美月は同時に顔を赤らめ視線を彷徨わせ始める。そんな初心な態度を見せられ、深雪たちはやれやれと肩を竦め、美月の手を取って天幕から移動するのだった。




深雪のからかい方が凄い事に……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。