劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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横浜騒乱に向けての伏線を仕込みました


夏休み明け

 夏休みも終わり、達也は生徒会室で作業していた。何故生徒会室でかと言うと、深雪と真由美に強引に留まるように言われたからだ。そして達也を迎えに来た摩利もそのままおしゃべりに興じているので、無闇に生徒会室から移動するのは良く無いと達也が判断したからだ。

 

「それで、市原は如何したんだ?」

 

「もう少し雰囲気がよければ良かったのですが、そのまま寝てしまいました」

 

「リンちゃんも結構過激なのね」

 

 

 作業してる傍で、こんな話をされているのに、達也はまったく興味を示さずに黙々と作業をしている。深雪も同様に作業をしているのだが、その表情は若干赤らんでいる。そしてあずさは顔を真っ赤にしながらも興味津々に三人の会話を聞いていた。

 

「そういえば私たちも引退か~」

 

「いきなり話題が変わったな。だがもうそんな時期だよな」

 

「私は論文コンペディションの時期って気分ですけどね」

 

「リンちゃんが代表候補筆頭だもんね」

 

「達也君は参加しなかったのか?」

 

 

 急に話題をふられ、達也は作業の手を止めた。

 

「俺は二科生ですし、これ以上悪目立ちしたく無いのですが」

 

「大丈夫だって。達也君なら狙われても対処出来るでしょうし」

 

「風紀委員期待のエースだからな」

 

「渡辺委員長はもう少しご自分で本部の掃除をしたら如何でしょうか?」

 

「……苦手なんだ。市原だって知ってるだろ」

 

 

 鈴音の本気なのか冗談なのか分からない指摘に、摩利は割かし本気で焦った。如何やら自分でも片付けを達也に押し付けているのは自覚してるようだった。

 

「あーちゃん、生徒会長になってくれないの?」

 

「私には無理ですよ……服部君のほうが相応しいですし……」

 

「じゃあ今度の会長は久しぶりに主席以外から選ばれるのね」

 

「だが十文字が自分の跡を服部に任せるという噂を聞いたが?」

 

 

 再びおしゃべりを開始した三人を横目に、達也はあずさを見ていた。正直彼女が主席だという事を知らなかったのだ。

 

「そうだ! 達也君、カウンセリング部が君のことを呼んでいたぞ」

 

「カウンセリング? 特に使用した覚えは無いのですが……」

 

「というか、小野先生が呼んでるって感じだったわね」

 

「お兄様、私もお供します」

 

「いや、深雪はまだ仕事が残ってるだろ。委員長、これ終わったのでここに置いておきます」

 

「ん、ご苦労」

 

 

 すでに作業を終わらせていた達也は、摩利に提出してカウンセリング室へと向かった。

 

「達也君も忙しいわね。夏休み全然捕まえられなかったし」

 

「何だ真由美。何でお前がアイツを捕まえようとしてたんだ? 正直に言え」

 

「ちょっと摩利! 貴女だって修次さんが居ないから達也君を誘おうとしてたでしょ!」

 

「んなぁ!? 何故それを知っている!」

 

 

 摩利と真由美の言い争いを微笑ましく見ていたあずさだったが、斜向かいの席から冷気が流れて来てるのを感じ、そのまま部屋の隅に移動したのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カウンセリング室にやって来た達也を待っていたのは、カウンセラーの小野遥だった。若干不機嫌そうだが、その事に触れるのは止そうと、本能的に理解した達也はさっさと本題に入ることにした。

 

「何か御用でしょうか」

 

「三年生の平河小春さんを知ってるわよね?」

 

「面識はありますが、そこまで親しい訳では……それが何か?」

 

 

 わざわざ呼びつけて自分と平河の関係を聞きたい訳では無いと、達也も分かっている。そしてあまり長時間拘束されると、生徒会室で深雪が暴走した場合面倒になるとも理解しているから、さっさと終わらせたかったのだ。

 

「彼女、論文コンペディションの代表候補なんだけど、最近精神が不安定でね。九校戦のあれが原因らしいんだけど」

 

「小早川先輩は何とか魔法を失わずに済んだのでは?」

 

「でも、前みたいに即戦力って感じじゃ無くなっちゃってるしね」

 

 

 本戦ミラージ・バットでの事が原因で、小早川は前ほど上手く魔法を使う事が出来なくなっていた。達也が回復させたとはいえ、恐怖を完全に取り除く事は出来なかったのだ。

 脳に焼きついた恐怖は取り除けても、心の恐怖までは、達也は元に戻す事が出来ないのだから……

 

「それで君に平河さんの説得を手伝ってもらいたいのよ」

 

「説得? すみませんが話が見えないんですけど」

 

「論文コンペティションの代表候補なんだけど、平河さん学校を辞めるって言い出してね」

 

「……平河先輩が責任の全てを被る必要は無いと言ったんですけどね」

 

「うん。それは平河さんも言ってた。でも誰もが君みたいに強い訳じゃないのよ」

 

 

 遥の言葉に、達也は困ったような表情を浮かべた。達也としては、自分は強いのでは無く鈍いんだと思っているからだ。感情の殆どを実の母親に奪われたので、そう思えないのだと理解しているから、達也は遥が強いといった事に違和感を覚えていたのだった。

 

「それで、何故俺なんですか? 俺はカウンセラーの資格も無ければ、平河先輩と懇意にしてる訳でも無いんですよ?」

 

「ほらでも、君なら何とか学校を辞める事だけは止めてくれそうじゃない? 私は例の件で忙しいのよ」

 

 

 遥は、あえて何の事か言わなかったが、達也には遥が何で忙しいのか理解している。何せ忙しくなった原因の一旦は間違いなく達也にあるのだから。

 

「上手く行かなくても文句言わないでくださいね」

 

「大丈夫よ。カウンセリング部としても、司波君でも駄目だったら手の打ちようが無いって思ってるわけじゃないしね」

 

「……何か考えがあるのなら、先にそっちをしたら如何です? 素人の俺に任せるより確実だとは思うのですが」

 

「良いじゃない。とりあえず平河さんの話だけでも聞いてあげて。彼女、君の事信頼してる感じだったしね」

 

「はぁ……それで、平河先輩はどちらに?」

 

「多分お家だと思うけど……電話の方が良いかしら?」

 

「いえ、時間が出来次第伺ってみようと思いますので、可能なら住所を教えていただければ」

 

「個人情報なんだけどね。君に任せるって決めたからしょうがないわよね」

 

 

 そういって誰に言い訳するでもなく、遥は小春の家の住所が書かれた紙を達也に手渡した。もちろん他の誰かに見せるようなことはしないようにと釘を刺したのだが。

 

「それじゃあお願いね。今日はカウンセリング室はこれで終了です」

 

「……外に誰か居ますけど?」

 

「えー、しょうがないわねー」

 

 

 公安の仕事で忙しいのだろうけども、自分でカウンセラーが本業と言い張っているので、ここで帰る訳にも行かず、遥はそのまま悩み相談を始めるのだった。

 一方達也は、戻ってきた生徒会室で見たくない光景を目の当たりにして頭を押さえるのだった……




小春さんメインの話を考え中……

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