男女のアイス・ピラーズ・ブレイク決勝が終わり、九校戦本戦前半は終了となった。もちろん新人戦期間中も気を抜くことは許されないのだが、明日からの三日間は上級生にとってちょうどいい息抜きとなるだろう。そういう事情もあり、つい先ほどまでアイス・ピラーズ・ブレイク決勝で戦っていた深雪と雫、バトル・ボード決勝を終えたばかりのほのかは達也を捕まえてカフェにやってきていた。
「まずは深雪、そしてほのか。優勝おめでとう」
「ありがとうございます、達也様」
「達也さんが言っていた通り、最後の最後にあの戦術を使ったお陰で勝てました！」
「ほのかの実力なら、あんな小細工使わなくても勝てただろうが、念には念を入れてと思ってな」
今にも抱き着かん勢いで達也に詰め寄るほのかに、達也は苦笑い気味の表情でほのかを宥める。その光景を深雪と雫は面白く無さげに眺めていたが、ほのかの性格を考えればこの行動は仕方がないと思ったのか、生暖かい視線を向けるだけで堪えた。
「雫は惜しかったな」
「最初から守りを捨てて攻めてれば勝てたかな？」
「どうだろうな。ＣＡＤを二個同時に使うというで深雪の奇を衒った結果があれだから、最初からフォノン・メーザーを使っていたら深雪の圧勝だったかもしれないぞ？」
「というか雫、いつの間にあんなスムーズにＣＡＤの二個使いをマスターしたの？」
「深雪に隠れて特訓してたんだよ。達也さんにフォノン・メーザーの起動式を改良してもらって、より使いやすくしてもらったお陰で出来てるだけで、他のＣＡＤだったら使えない」
「やっぱり達也様は本気で私を倒しに来たんですね」
「深雪だって手を抜かれたら怒るだろ？ 俺は双方に出来る限りの手を尽くしただけだ」
似たようなやり取りを見た記憶があるほのかと雫は、顔を見合わせて笑みを浮かべた。
「十七夜さんには共振破壊と普通のフォノン・メーザーだけで何とかなったのに……」
「結構ギリギリだったけどね、私も雫も」
「栞も実力者だからな。簡単には勝たせてくれないと分かってたんじゃないか？」
「それはそうですが。ですがこちらは達也様が調整してくださったＣＡＤでしたので、もう少し楽が出来ると思っていたのも確かです」
「相手の実力を下に見積ってたら、何時か痛い目に遭うぞ？」
達也に注意されて、深雪は頭を下げて謝罪をする。雫も似たような考えを持っていた事を自覚し、深雪に続き頭を下げた。
「ほのかの方も結構な接戦だったんだよね？」
「幻惑作戦を最後まで使わなかったから、純粋なレースでは勝ちきれないよ」
「四十九院さんも古式魔法と現代魔法の二つを使ってくるから、かなり厄介な相手だったんでしょ？」
「ＣＡＤの二個同時使いをマスターしてるけど、あれは固有のスキルだって自分で言ってたし」
「そもそも普通の魔法師は二個一緒に使おうだなんて考えないよ」
「それは俺が普通じゃないと言いたいのか？」
達也の言葉に、三人は顔を見合わせ、そして達也に視線を向け頷いた。
「達也様は特別な魔法師ですから」
「達也さんの事情を考えれば、汎用型を使うより特化型を使ってストレージを多数持っていた方が有効だしね」
「そもそも達也さんなら、ＣＡＤが無くても魔法を使えるんじゃないですか？」
ほのかのセリフは、周りの耳を気にしてかなり遠慮した聞き方になっているが、三人は達也がＣＡＤを使わなくても魔法が使える事を知っている。だがその事を大勢の耳があるこの場所で断言するつもりは無かった。
「まぁ、無系統魔法なら割かし問題なく使えるが、他の魔法はやはりＣＡＤがあった方が良い。そもそも一条を相手にしなければいけないのだから、無系統魔法だけじゃ勝てないだろ」
「そうかな？ 達也さんなら無系統魔法だけでも十分に勝てると思うけど」
「前に十三束君に使った魔法もありますし」
「徹甲想子弾は九校戦では使えない。あれはＣＡＤを介しない魔法だからな」
「そういえば達也様、七宝君は何の魔法を使う予定なのですか？ ミリオン・エッジは殺傷力が高く使えないはずですが」
「改良というか、威力を押さえた魔法を提案してあるから、七宝にはそれを使ってもらう予定だ。草原ステージや岩場ステージなら、弾となるものが沢山あるから、七宝の活躍は期待できる」
「ですが同時に、一条君にも都合が良いステージとなるのではありませんか？」
「遮蔽物が少ないステージは確かに一条に有利だが、こちらも大人しく負けるつもりは無いから安心しろ」
「そもそも達也さんが負けるはずありません！」
身を乗り出して断言するほのかと、彼女の横で頷く雫。言葉こそ発していないが、雫も似たような事を言いたげな表情をしている。
「達也様はご自身のお力を過小評価し過ぎなのです」
「そんな事ないと思うが……」
「ご事情があるから仕方ありませんが、もう少しご自身に自信を持たれた方がよろしいと思いますよ。達也様はそれだけのお力があるのですから」
「そうですよ。本来なら達也さんが普通に選手として選ばれてもおかしくない実力なんですから」
「うん、私もそう思う」
さすがにこの状況での三対一は分が悪いと思ったのか、達也は素直に三人に頭を下げこの話題を切り上げたのだった。
数で攻めれば何とかなる……（戦闘では無意味だが）