劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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レオの考え方は嫌いじゃないです


幹比古へのお祝い

 深雪たちが達也を連れて一息ついている頃、幹比古の部屋にレオが遊びに来ていた。彼は大会中も厨房の手伝いなどをしているのだが、この時間はちょうど休憩時間のようで、幹比古の試合を観戦しており、その後こうして部屋を訪ねてきてくれたのだ。

 

「さすが幹比古だな。一瞬だったけども見ごたえがあったぜ」

 

「そうかな? まぁ、達也が僕の為に改良してくれた魔法のおかげだよ。普通に雷童子を使ってたら負けてただろうしね」

 

「達也の力が確かにあったかもしれねぇけども、優勝したのは幹比古だろ? そんな卑屈になる必要はねぇと思うけどな」

 

「レオ……君のそういう考え方、たまに羨ましいって思うよ」

 

「それって褒めてるのか?」

 

 

 幹比古の言い回しに引っ掛かりを覚えたレオだったが、彼はそれ以上追及してくることは無かった。こういった気遣いが出来るのも、レオの良いところの一つだと幹比古は思っているが、レオ本人は意識してやっている事ではないので、その事が友人から評価されているという事に気付いていなかった。

 

「エリカのヤツ、遅いな」

 

「えっ、エリカも来るのかい?」

 

「あぁ、美月も来るって言ってたぜ」

 

「そ、そうなんだ」

 

 

 急に気まずい雰囲気になった幹比古を、レオは心配そうに見つめる。普通の人間関係ならそれなりに悟れるレオではあるが、男女のソレは別問題で、幹比古が気まずそうにしている理由が良く分かっていない。だがそれでも徒に聞こうとしないのが、エリカとレオの違いだろう。

 

『ミキ、開けて』

 

「僕の名前は幹比古だ!」

 

『細かい事はどうでもいいでしょ。そんな事より、さっさと開けなさいよ』

 

 

 扉越しからエリカに命じられ、幹比古は渋々部屋の扉を開ける。ちなみに、彼のルームメイトは今の時間出払っているので、こうしてバカ騒ぎをしてもクレームは入らない。

 

「お祝いのケーキを持ってきてあげたわよ」

 

「お、お邪魔します」

 

 

 尊大な態度のエリカとは違い、美月は気恥ずかしそうに部屋へと入る。この反応を見て分かるように、美月が付き合い始めてから幹比古の生活空間へと踏み入るのは初めてなのだ。そもそも一緒にいられるだけで満足している二人が、互いの部屋を行き来するような事をしているはずがない。

 

「とりあえずミキ、優勝おめでとう。一瞬で終わるとは思って無かったから驚いたわよ」

 

「だから僕の名前は幹比古だ! というか、開始直前にも僕の事をそんな風に呼んだだろ」

 

「あら、聞こえたの? 結構な喧噪の中だったから絶対に聞こえないと思ってたんだけど」

 

「エリカと柴田さんの声ははっきりと聞こえたよ」

 

「そ、そうなんですか……ちょっと恥ずかしいですね」

 

 

 幹比古のセリフに照れ始めた美月を見て、幹比古も恥ずかし気に視線を彷徨わせる。そんな二人の雰囲気にエリカとレオは顔を見合わせ、同時に肩を竦めた。

 

「相変わらず初々しい空気ね~」

 

「え、エリカだって達也と二人きりになったりしたら恥ずかしいだろ?」

 

「もう慣れてきてるわよ、いい加減。そもそも同じ敷地内で生活してるんだし、その程度で恥ずかしがってたらあっという間に後れを取るわよ。七草先輩とか愛梨とか、アピールが凄いんだから」

 

「七草先輩は何となく分かるけどよ、一色の奴もなのか?」

 

「それだけ競争率が凄いのよ。全員同じ立場だけど、同じように扱ってもらえるわけじゃないしね」

 

「構われると逃げるくせに」

 

「何か言った?」

 

「別に」

 

 

 エリカに鋭い視線を向けられ、幹比古はすぐさま視線を逸らす。伊達に付き合いが長いわけではないので、エリカの性格上達也に構ってもらうと恥ずかしくてどうしたらいいか分からなくなる、という事が分かるだけに指摘したのだが、ここでエリカに蹴りを貰って恥ずかしい思いをしたくなかったので誤魔化したのだ。

 

「エリカちゃん、今は吉田君のお祝いをしにきてるんだから」

 

「そうだったわね。達也くんのお陰も多分にあるでしょうけども、ミキが大勢の前で輝けたんだし、今は素直にお祝いしましょうか」

 

「素直に祝われてる気がしないんだけど?」

 

「気のせいじゃない? というか、男がそんな細かい事を気にしてるんじゃないわよ」

 

「オメェが大雑把なだけじゃね?」

 

「うっさい!」

 

 

 レオのツッコミに、エリカは素早く彼の脛を蹴り上げた。レオの脛は達也程ではないが鍛えてある為、蹴ったエリカの方もダメージを負うのだが、それが分かっていながらも蹴らずにはいられなかったのだ。

 

「えっと……」

 

「エリカちゃんもレオ君も相変わらずだね……」

 

 

 脛を蹴られた事で悶絶するレオと、レオの堅い脛を蹴って足先にダメージを負い飛び跳ねるエリカを見ながら、幹比古と美月は互いに呆れた表情で苦笑する。

 

「とりあえず、優勝おめでとうございます、吉田君。真剣に氷柱を見詰める吉田君は、なんだか何時もよりカッコよかったです」

 

「そうかな? 何だか恥ずかしいけど、ありがとう、柴田さん」

 

「い、いえ……」

 

 

 急に気恥ずかしさがぶり返してきたのか、二人の顔が一気に赤くなった。何時もなら常に冷静な達也がいてくれるお陰でここまで気恥ずかしくなる事は無いのだが、今は無駄に煽ってくるだけのエリカと、フォローになっていないフォローが多いレオしかいないので、二人の気恥ずかしさはその後も続いたのだった。




何時までも初々しいなぁ

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