新人戦を観戦していた真由美は、思わずため息を吐き隣の摩利に視線を向けた。ちょうど摩利も真由美の方を向いたようで、二人はバッチリと視線を合わせて、同時にため息を吐いた。
「今年の新人戦は、去年、一昨年と違ってレベルが高くないわね」
「一昨年は特に高かったから、今年もと期待していたんだがな」
「お二人が期待していたのは知っていますが、その期待が外れたからと言って新入生を責めるのはお門違いだと思いますが? ここ数年がハイレベルなだけで、過去の新人戦から考えればこのくらいが妥当です」
摩利とは反対側の隣に座っていた鈴音が、真由美と摩利を若干非難するような視線を向けてそういうと、真由美と摩利は同時に苦笑する。
「それくらいはあたしたちだって分かっているさ。だが達也くんが関わっているなら、もう少しまともな戦いが見られるんじゃないかと思ってしまうのも仕方が無いだろ? お前もだが、あたしたちは達也くんの凄さを間近で見てきたんだから」
「新人戦は来年を見据えて参謀は達也さんではなく桜井水波さんで、その補佐は一年生の三矢詩奈さんだと聞いています」
「詩奈ちゃんは自分が戦うよりもそっちの方が合ってるから仕方ないけど、首席だったんだしやっぱり競技に出てもらった方が良かったんじゃないかな? スピード・シューティングでもクラウド・ボールでも勝てたと思うだけど」
「私は詳しくは知りませんが、詩奈さんは特殊な耳をお持ちだそうで、こういった人が多い場所で冷静な判断が出来るかどうか怪しいと聞いています。普段使っているCADが、大会のレギュレーション違反を取られる恐れはないとはいえ、他校といらぬ軋轢を生みかねないと達也さんは言っていましたが」
詩奈が普段使っているイヤーマフは、外部からのいらぬ雑音を軽減させるためだけのもので、競技には一切関係ない。だが彼女の事情をよく知らない他校の生徒からクレームが入れば、大会運営側が詩奈に「外せ」と言い出すかもしれない。そうなれば詩奈はこの場に留まる事すら難しくなってしまうので、達也は詩奈を選手としてではなく作戦スタッフとして取り立てたのだ。
「達也くんも面倒なことまで考えての選出というわけか……アイツの事情を考えれば当然なのかもしれないが、一高校生が考えるような事じゃないだろ」
「摩利が言ったように、達也くんの事情なら仕方ないでしょ? 大人よりも大人な考えが出来ないとやっていけない世界で育ったんだから」
「そもそも真由美は達也くんと同じ家で生活してるんだから、三矢が選手として選出されなかった理由を聞いてたんじゃないのか?」
「詳しい事は教えてくれなかったから。というか、リンちゃんは何処で聞いたの?」
「泉美さんと香澄さんが話しているのを偶々耳にしただけです。あの二人も三矢さんはどっちで選出すべきか悩んでいたようですし」
鈴音は嘘は吐いていないが真実を語っているわけでもない。確かに偶々話を聞いたのだが、その場にはもう一人、達也がいたのだ。泉美と香澄は詩奈がこのように大勢の人の前で何かができるタイプでは無いと知っているが、彼女の実力からすれば選手として選ばれても不思議ではないという事も良く知っている。だから達也にどっちで選ぶのかを尋ねていたところに、偶々鈴音が通りがかって話を聞いたのだ。
「あの二人は私以上に詩奈ちゃんと仲が良いから、心配してたんでしょうね。もしかしたら、達也くんに進言したのかもしれないわね」
「今年はアイツが中心となって選んだんだろ? まぁ、何の因果か自分が選手として出場する羽目になるとは思ってなかったかもしれんがな」
「そもそも達也くんが選手として出場したら、その競技はもう達也くんの勝ちで決まりだからね。能力の低さを知識と技術で補って余りあるんだから」
「その能力も、一年の時と比べれば雲泥の差なんだろ? 詳しい原理は良く分からなかったが、一対一で、しかも真正面から十文字と戦って勝ったわけなんだから」
摩利は例のプロジェクトの件で克人が達也の許を訪ね、そして決闘した場面に立ち会っている。そして克人が何も出来ずに達也に負けたのも見ているので、それを考慮しての発言だ。真由美と鈴音も心得ているので、摩利の配慮に乗っかって返事をする。
「達也くんは元々高いレベルの魔法師として生まれたらしいんだけど、家の事情で封印されていたそうよ。今はまだ完璧に扱えていないようだけど、本来の魔法力を完全に扱えるようになったら、私や摩利、そして十文字くんが束になって挑んでも勝てないくらいの実力らしいわよ」
「それ、誰が言ってたんだ?」
「前に深雪さんと夕歌さんが話してるのを偶々聞いた」
「その夕歌さんというのがどういう人か良く分からんが、司波が言ってたのを鵜呑みにするのはどうかと思うんだが……アイツは達也くんが絡むと常識の範囲外に思考が飛んでいくから」
「まぁ深雪さんは仕方ないとは思うけど、夕歌さんはある程度冷静な判断が出来る人よ? というか、摩利だって面識あるでしょ?」
「面識はあってもあまり深い関係じゃないから、詳しくは知らない」
摩利の言葉に、真由美も仕方がないといった感じで頷き苦笑した。彼女も深雪だけなら信じなかったという思いがあるので、摩利の気持ちが理解出来たのだろう。
達也が本気になれば、ねぇ……