劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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名のある一年生がいない……


新人戦一日目の結果

 新人戦一日目が終わり、一高は想定内の結果で終わった。さすがに想定以上の結果を残す一年生はいなかったが、想定外の酷さでもなかったので水波と詩奈は安堵していた。

 

「この調子で行けば、新人戦の三位以内は確実ですね」

 

「本戦で想像以上の結果を残しているので、新人戦に過度な期待をかける必要が無かったのも、この結果に繋がっているのかもしれませんね」

 

「何処の学校も本戦は厳しいからせめて新人戦だけでも、って思いが強いのかもしれませんね。特に三高の気合いの入り方はちょっと異常ですよ」

 

 

 本戦でもそうだが、ここ数年三高は優勝候補と言われながらも一高に敗れ続けている。なので目ぼしい一年がいない今年こそは、総合力で上回る三高が有利だと言われているので、三高新入生たちは特に気合いが入っているのだ。

 

「その事も織り込み済みでの作戦ですから、私たちは確実に三位以上を取れるように準備してきたじゃないですか。それに、目立ちすぎると狙われますから、三高は明日以降厳しくなるかもしれませんよ」

 

「確かに、今日は三高の独壇場でしたからね……明日以降他校の生徒が躍起になって三高を叩きに来るかもしれませんね。そうなれば、ウチにとっても有利な状況になるかもしれませんし」

 

 

 他の学校の生徒が三高の生徒を撃破、ないしは疲弊させてくれれば、それだけ一高の生徒が勝てる可能性が高まるので、作戦スタッフである詩奈はそう考えた。水波も同じように考えていたので、詩奈の考えに笑みを浮かべながら頷く。

 

「こういった人の悪い考えは達也さまの影響を受けているのかもしれませんね」

 

「司波先輩でしたら、最初から相手を倒す方法を見出してるでしょうから、こんなことを考えないのではありませんか?」

 

「いえ、女子クラウド・ボールでは、香澄さんと泉美さんの二人で一色さんを倒すという方法をとっていますし、必ずしも一人で倒す必要は無いと考える時もあるのですよ」

 

「なるほど……確かにあの試合は、どっちか一人では愛梨さんを倒せなかったでしょうし」

 

 

 詩奈は本戦女子クラウド・ボールの準決勝、決勝の試合を思い出し、水波が言おうとしていた事を理解した。確かに達也ならそういった考え方もするのかもしれないと思えたのだ。

 

「とりあえず達也さまにご報告をしておきましょう。まぁ、本部に詰めていたのでしたら、既に今日の結果はご存じでしょうけども」

 

「でも、報告せずに帰るわけにもいきませんよ?」

 

「分かっていますよ。それに、本部には深雪様もいらっしゃるでしょうし、そのまま部屋まで護衛するつもりですから」

 

「そういえば、侍朗君は何処にいるんだろう?」

 

 

 午前中は一緒に行動していたが、午後からは作戦スタッフとして水波と行動していた詩奈は、自分の護衛――自称ではあるが――である侍朗が何処にいるのか気にしだす。

 

「達也さまに気配を探っていただいては如何ですか? この程度の会場なら、すぐに見つけてくれるでしょうし」

 

「この程度って……かなりの広さですよね?」

 

「達也さまなら造作もない事でございます」

 

「相変わらずですね……凄い人だって分かってるのに驚いちゃいますよ」

 

「達也さまの凄さはまだまだこの程度ではありませんが、その全てを話すわけにもいきませんから」

 

「色々と事情があるんですよね? 私だって十師族の一員として、そのくらいの事は分かります」

 

 

 本当は四葉家だけの事情ではないのだが、詩奈が勘違いしてくれたのをいいことに水波はそのいう事だという感じでこの話を打ち切った。

 

「お疲れさまです、達也さま。新人戦一日目の結果報告に参りました」

 

「ご苦労様。詩奈も疲れただろ」

 

「い、いえ……私は午後から桜井先輩のお手伝いをしてただけですから……」

 

「あら? 水波ちゃんからは詩奈ちゃんは優秀で助かっているって聞いてるけど?」

 

「そ、そうなんですか? 光栄です……」

 

 

 深雪から水波に認められていると知らされ、詩奈は恥ずかしそうに視線を逸らす。照れた詩奈をからかうような人の悪い事をしようと深雪が何かを言おうとしたが、達也が視線でそれを制したのでそれ以上の追い打ちは無かった。

 

「ところで司波先輩。侍朗君が何処にいるか知りませんか?」

 

「矢車なら午後からはエリカたちに連れられて観戦してたと思うから、そろそろ戻ってくるんじゃないか?」

 

 

 そう言って達也は視線を詩奈から外し遠くを見る。侍朗の存在を探っているのだろうと深雪と水波には瞬時に理解出来たが、詩奈は急に虚空を見詰めだした達也に驚いてしまう。

 

「矢車くんの気配を探ってるのよ」

 

「あっ、そういう事ですか……司波先輩が疲れておかしくなったのかと思いました」

 

「それはどういう意味かしら?」

 

「い、いえ! 特に深い意味はないですよ……私たちが司波先輩に頼り過ぎて疲れちゃったのかと思っただけです」

 

 

 深雪の機嫌が急速に傾いたのを感じ、詩奈は慌てて言い訳を始める。深雪の機嫌が傾けばどうなるか、それは新入生の詩奈も耳にしているので、出来るだけ深雪の機嫌を損なわないように行動していたのだが、先ほどの発言は失敗だった。

 

「こちらに向かって来ているようだな。報告は水波から聞いておくから、詩奈は矢車を迎えに行ってやれ」

 

「は、はい! お疲れさまでした!」

 

 

 達也から助け舟が出たので、詩奈はそれに全力で乗っかり、一礼して天幕から逃げ出したのだった。




気にしてないフリをしてるが……

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