劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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やってる方は真剣です


参加者と観客のズレ

 三者三様の視線を受けても、達也の表情は変わらない。この程度の視線で動揺するようではやっていけないような人生を歩んできたのもあるが、三人からこのような視線を向けられるのに慣れてしまったというのも多分にあるだろう。真由美からは面白がっているのを隠そうともしない視線を。摩利からはいったいどのような考えが出てくるのだろうと楽しみにしている視線を。そして鈴音からは申し訳なさそうにしながらも、興味を隠しきれていない視線を。

 

「去年は競技が違うので除外しますが、確かに一昨年と比べて新人戦のレベルは下がっていると言えるでしょう。今日の結果を見れば分かるように、スピード・シューティングでパーフェクトを出した選手は一人もいません。バトル・ボードのタイムを比べても同様です。ですが過去のデータと照らし合わせれば、この程度が平均――むしろ平均以上だという事が分かります。先輩たちが物足りないと感じてしまうのは仕方ないですが、決して今年の一年生たちのレベルが低いというわけではありません」

 

「もちろん、達也くんが言っている事も理解出来るわ。それを踏まえたうえでも、やっぱり物足りないって感じてる人は多いと思うのよ。例えば、大会本部の中にも」

 

「もともと去年の競技変更が軍との癒着じゃないかと言われて、開催も危ぶまれたのですから、その辺りは我慢するべきなのではないかと思いますが。観客が物足りないと思うのは自由ですが、大会本部がそんな事を口にすれば、マスコミがこれ幸いと脚色して記事にしますよ」

 

「もちろん表立って口にする輩はいないだろうが、腹の中で何を考えているかまではマスコミにも分からないだろう? 内々の会話ではそんな話題が上がっているかもしれない」

 

「たとえ大会本部の方々がそのように思っていようと、選手たちは自分が持てる最大限の力を発揮して大会に臨んでいるはずです。周りがどう思おうが勝手ですが、選手たちの耳に入らないよう配慮をお願いします」

 

 

 今年の新人戦が物足りないと感じさせてしまっている一端は間違いなく自分たちにあるという事を理解しているので、達也は真由美たちが文句を言っても注意だけで済ませた。もちろん、新人戦に参加している一年生たちの耳に入ればこの程度では済ませなかったが、ここには一年生はいないので本気で注意する気になれなかったというのが本音だろう。

 

「深雪さんや水波さんだって、達也くんが活躍した一昨年の新人戦と比べれば、今年の新人戦はちょっと味気ないって思うわよね?」

 

「達也様とその他大勢を比べるつもりはありませんが、確かに一昨年の新人戦は大いに盛り上がっていましたね。不慮の事故など様々な条件が重なったとはいえ、達也様がモノリス・コードに参加し、当時唯一の十師族次期当主であった一条君を真正面から倒したのですから」

 

 

 厳密に言えば、もう一人次期当主として克人がいたのだが、彼は新人戦には出ていないし、事実上当主として動いていたので間違いとも言えないので、真由美たちもその事に対してツッコミはいれなかった。

 

「私は四葉の屋敷で見ていただけですが、確かに盛り上がっていたように感じました」

 

「でしょ? そりゃ今年の新人戦が盛り上がってないとは言わないけど、盛り上がりに欠けるって思っちゃうのも仕方ないわよね?」

 

「まぁ今年の九校戦の目玉は、君が参加する本戦モノリス・コードなんだろうから、新人戦が盛り上がりに欠けていたとしても仕方がないのかもしれんがな」

 

「そもそも俺は、最初から参加するつもりなど無かったのですがね。九島閣下と大会本部の人間が勝手に話を進め、マスコミが騒ぎ立てた所為でそうなってるだけです」

 

「事情はお聞きしていますが、今回九校戦を開催するに当たっては、そのくらいの目玉を用意しなければいけなかったのではないでしょうか?」

 

 

 鈴音の言葉に、達也以外のメンバーが同意する。達也も大会本部の思惑は分かっているし、烈から事情を聞いているので言われるまでもなく分かっているのだが、それでも納得いかないという気持ちは払拭されない。

 

「楽しみは最後まで取っておいた方が良いんだろうが、中だるみは避けるべきだと思わないか?」

 

「勝手に中だるみしているだけではありませんか? 選手たちはいたって真剣ですし、技術スタッフも同様です。どのように思われるかは自由ですが、あまり口を挟まれると余計な不安を生み、想定外の事態が起こる可能性だってあるのですから、大人しくしていてください」

 

「達也様の仰る通りですね。私たち選手一同、どの競技にも真剣に取り組んでいるのですから、見てる側の気持ちまで考慮する必要は無いと思います」

 

「そこまで怒らなくても良いじゃないの。私たちだって、みんなが真剣にやってるって事くらい分かってるわよ。ちょっとそんな風に思っただけだから、明日からどうにかしろだなんて言わないわよ」

 

 

 達也の態度に便乗するように不機嫌さを増した深雪に対して、真由美は苦笑いを浮かべた。達也がこの程度で本気で怒るとは彼女たちも思っていなかったが、まさかそこに便乗して深雪が態度を悪化させるとは思っていなかったので、真由美たちは素直に天幕から退散したのだった。




深雪を怒らせたら真由美でも無理……
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