劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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倒れる事が無い柱ですから


精神的支柱

 女子クラウド・ボールの結果を聞いて、達也たちが率直に思った感想は、応援する側の気持ちも馬鹿に出来ないものだ、というものだった。

 雫が香澄を連れて応援に行っている事は達也たちも知ってたし、香澄が相手の為にいろいろ考えられるという事も分かっていたが、まさか優勝するまで相手のポテンシャルを引き上げるとまでは思っていなかったのだ。

 

「順当に行けば四高の選手が勝つと思っていたのだが、香澄の思いも馬鹿に出来ないな」

 

「香澄ちゃんの応援だけじゃないと思いますよ。香澄ちゃんが本気で応援してくれていたから、この一年生もその気持ちに応えたいって思ったんだと思います」

 

「そうだね。この子は風紀委員の後輩だし、香澄さんが応援するのは当然だけど、まさかあそこまで熱くなるとはこの子も思ってなかったんじゃないかな。途中から、隣にいる北山さんが困った表情をしてたのが気になるけど」

 

「恐らく香澄ちゃんが本気になったので、北山先輩はどう扱えば良いのか分からなくなったのではないでしょうか」

 

 

 泉美は深雪にではなく達也に視線を向けて問いかける。彼女はこの場に香澄がいない理由は、雫が香澄を誘ったからではなく、達也が雫に誘わせたからだと思っている。

 

「何故そう思う?」

 

「司波先輩が香澄ちゃんに仰るより、北山先輩が仰った方が香澄ちゃんの心に響くと思いました。ですが、響き過ぎて北山先輩では制御できなくなり、とりあえず隣で応援していたのではないかと感じました」

 

「そうなのかい、達也?」

 

 

 泉美の考えに納得出来た幹比古も達也に問いかける。彼の中では「達也ならその程度出来そうだ」という考えがあるので、泉美の疑問に対して何ら疑いを持たなかったのだ。

 

「確かに雫に香澄を誘わせたのは俺だが、俺だってまさかここまで効果を発揮するとは思っていなかった。だから正直に応援も馬鹿に出来ないと思ったんだ」

 

「近しい人に応援してもらえれば、人は実力以上の力を発揮出来るのでしょうね」

 

「私も深雪先輩に応援していただければ、何時も以上の力を発揮できると思いますわ」

 

「そう。でも残念ながら、ミラージ・バットでは私と泉美ちゃんはライバルだから、応援してあげられないわね」

 

 

 深雪と一緒の競技に出る事だけを考えていた泉美は、自分が深雪と戦う可能性を完全に失念していたようで、深雪の言葉に衝撃を受けている。

 

「わ、私が深雪先輩のライバル……畏れ多いです! 私など深雪先輩の足元にも及びませんので」

 

「あくまで競技の話よ? それに、泉美ちゃんだって戦う前から負けを認めるような性格じゃないでしょ? 戦うからには全力で戦いましょ?」

 

「は、はい! 不詳七草泉美、全力で深雪先輩のお相手を務めさせていただきます!」

 

 

 今度は泉美が熱くなりすぎているのを見て、達也と幹比古は「やっぱり双子なんだな」と感じていた。そんな二人の視線など気にせず、泉美は深雪に全神経を傾けている。

 

「今日の結果はこちらが想定してた以上だ。これで少しは楽な戦いが出来るな」

 

「最上級生が楽をしようだなんて考えてるなんて、後輩たちには聞かせられないね。ましてその最上級生が、今回の目玉と言われてる選手だなんてね」

 

「俺だって好きで参加してるわけじゃないんだ。少しくらい楽をしたいと思っても不思議じゃないだろ?」

 

「僕は裏事情を聞いてるから分かるけど、後輩たちは全てを知ってるわけじゃないんだし、絶対的柱がそんな事を思ってるなんて知れば、彼らの精神を乱すかもしれないし」

 

「俺は精神的支柱になった覚えはないんだがな」

 

 

 いつの間にかそんなものにされていたと知り、達也は結構本気で嫌そうな表情を浮かべた。その表情は、達也と付き合いがそれなりに長い幹比古でもあまり見た事が無いものだった。

 

「まぁ俺よりも侍朗の気持ちが軽くなったんじゃないか? アイツは変なところで気負ってたからな」

 

「矢車君は三矢さんにみっともない姿を見せられないって思ってただけじゃないかな? 彼らは付き合ってるわけだし、三矢さんは矢車君の主でもあるわけだから、その人の前で無様な戦いは出来ないって」

 

「吉田君が美月の前で無様な試合は出来ないって思っているのと一緒ですね」

 

「ぼ、僕はそんな事考えてないですよ?」

 

 

 深雪のからかいに、幹比古はあからさまに動揺する。まさか自分の考察からそこに繋げられるとは思っていなかったのだろうと、達也は慌てふためく幹比古を見ながらそんな事を考え始めていた。

 

「と、とにかく達也。後輩たちの前であんなことは言わない方が良いよ。いくら達也がなった覚えがないとはいえ、君は間違いなく僕ら一高選手の精神的支柱なんだから」

 

「安心しろ。幹比古の前くらいでしか言わないから」

 

「そう言ってもらえて光栄だけど、僕だって達也を精神的支柱にしてる一人なんだから」

 

「おいおい……」

 

 

 幹比古の冗談とも本気ともとれる発言に、達也は本気でため息を我慢出来なくなった。幹比古レベルでも精神的支柱が必要だとすれば、本気で全選手が自分の事を精神的支柱にしているのではないかと思ったのだろうと、深雪は達也が顔を顰める横で嬉しそうに微笑んだのだった。




幹比古は美月に応援されたらな……
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