女子クラウド・ボールの結果を受けて、三高では緊急の作戦会議が開かれていた。会議と言っても、将輝と真紅郎が会議室を使って話し合っているだけなので、他の作戦スタッフたちはこの会議の事は聞かされていなかった。
「完全に計算外だな……まさか新人戦も一高がクラウド・ボールを取るなんて」
「それだけ優勝した選手の実力が高いとは思えなかったが、またアイツが関係してるのか？」
「いや、優勝した選手を担当していたのは彼じゃないよ。彼を尊敬している二年生が担当してたと調べがついてる。もちろん、その二年生の実力がずば抜けてるわけじゃない事もね」
「新人戦を落とすと、本戦での優勝が厳しくなってくる。前半でも思っていたほど点数を稼げなかったから、新人戦に期待していたんだが」
「今年は何処の学校も一年生の実力に差が無いから、厳しい戦いになるとは思っていたけども、まさかここでも一高が一歩抜け出すとは」
本戦では相変わらず一高有利の見立てだったが、新人戦はそうではなかったので、そこで点数を稼げれば本戦優勝も見えてくると考えていた将輝と真紅郎にとって、今の結果は完全に想定外。加えて本戦アイス・ピラーズ・ブレイクで将輝が幹比古に負けたことも想定外なので、真紅郎は頭を悩ませているのだ。
「一度一色たちと話し合いを持ってみるか？」
「九十九崎も同じような見立てをしてたわけだし、話し合いをしたところで有益な結果が生まれるとは思えない。それに彼女たちは彼の婚約者。こっちが頭を悩ませている事を彼に告げ口するかもしれない」
「いくら婚約者とはいえあいつらは三高の生徒だ。今は立場を弁えるんじゃないか？」
「そうだと良いけど……彼女たちは一高の選手に負けて悔しがってはいるけど、彼が担当した選手に負けたのだから仕方がないという感じだって後輩の女子から聞いてる。本気で勝ちに行ってはいるんだろうけども、僕らのように彼に勝ちたいと本気で思っていないんじゃないかな」
「本戦ミラージ・バットには司波さんが参加するから、ここでの優勝も難しいだろうし、やはり新人戦を何としても取らなければ本戦での優勝はあり得ない」
「そうはいっても将輝、今更何が出来るって言うんだい？ メンバー変更は出来ないし、戦術を変えるにしてもすぐに対応出来るとも思えない……」
「一度全員を集めて、もう一度気合いを入れ直すくらいしか出来ないか……それも、あまり効果があるとは思えないが」
自分たちの前に立ちはだかる達也に対して、将輝と真紅郎は本気で頭を悩ませている。達也としては別に立ちはだかっているつもりは無いだろうが、彼らにとって達也は高い壁となっているのだった。
将輝と真紅郎が会議室で頭を悩ませている頃、愛梨たちは彼女の部屋に集まって談笑していた。
「新人戦は混戦が予想されていましたが、二日目が終わって一高がやや有利の状況になってきましたね」
「達也殿が裏に控えているから、一年生たちものびのびと戦えているのじゃろう。新人戦の作戦参謀を任されている水波嬢も、達也殿の教えを引き継いでおるじゃろうから、この結果はある意味当然と言えるじゃろうな」
「吉祥寺たちは本気で達也さんに勝とうとしてるみたいだけど、そもそものレベルが違い過ぎるんだから、挑もうと思うだけ無駄」
「栞さん、それを言っては吉祥寺たちが可哀想ですわよ。いくら本当のこととはいえ」
真紅郎たちをフォローするようでトドメを刺した愛梨に、三人は苦い表情を浮かべた。
「香蓮さんから見て、水波さんの作戦指示はどの程度なのでしょうか？」
「達也様の関係者だけあって、相手の弱点を見抜く力も高く、その都度的確なアドバイスをしているように思えます。水波さんの補佐として参加している三矢家の詩奈さんも、観察眼に優れているようですし」
「つまり、来年以降も一高は強敵となり得るわけですね。七草家の香澄さんと泉美さんもいますし、七宝家の琢磨さんもいるわけですから、順当に行けば来年も一高有利という事ですか」
「だが達也殿や深雪嬢、雫嬢たちが抜けた穴は相当大きいはずじゃから、有利とはいえ簡単ではないじゃろうな。そこを突ける人間が他校にいれば、の話じゃが」
「九島家の光宣さんや四高の黒羽姉弟などが出来そうですが、彼らだけですべてを相手にする事は不可能ですからね」
「やはり一高有利は揺るがない。来年は私たちは選手じゃないし、純粋に一高を応援できる立場になってる」
「そこは母校を応援せぬか。まぁ、姓が『四葉』に代わっていたら、それも仕方がないかもしれんが」
「沓子さん、随分と気が早いですわよ。達也様が当主の座に就かれるまでは『司波』姓を名乗ることになるでしょうから、苗字が代わっていたとしても『四葉』では無いと思いますわ」
「もしかしたら、お腹に子供がいるかもしれない」
「栞、そういう事はもう少し恥ずかしそうに言わんか。真顔で言われたらワシたちが恥ずかしいじゃろうが」
「来年の事を言えば鬼が笑うと言いますし、今はこのくらいにしておきましょう」
「そうですね。そろそろ食事の時間ですし、移動しましょうか」
香蓮の言葉が合図となり、談笑はお開きとなり四人は食事を摂る為に移動するのだった。
ぶっ飛んだ考え方をしてる子も……