劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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いい先輩してるなぁ


侍朗からの相談

 幹比古に相談するために、侍朗は詩奈と一緒に一高の天幕へやってきた。いくら参加選手とはいえ、この場にはなるべく近づきたくないという思いだったのだが、相談したい相手がここにいるのだから仕方がないだろう。侍朗は恐る恐る天幕の中を覗き込み、達也と話している幹比古を見つけ、視線を詩奈に向けた。

 

「どうやって話しかければいいんだ?」

 

「普通に話しかければ良いじゃない。司波先輩も吉田先輩も、相談しに来た下級生を無碍にするような人じゃないんだし、二科生だからといってバカにする人でもないって事は、侍朗君だって知ってるでしょ?」

 

「そりゃ、あの二人は元二科生なわけだし、首脳部として、そんな区別もしてないだろうって事は分かってるが……それ程接点があるわけじゃないんだし、話しかけるタイミングとかあるだろ?」

 

「そんな事考えてたら、何時まで立っても話しかけられないでしょ? 侍朗君は、変なところで臆病なんだから。入学当初、生徒会室内の会話を盗み聞きしようと魔法を使った度胸は何処に行ったの?」

 

「そ、それとこれとは話が違うだろ」

 

 

 その事が原因で、達也に目を付けられ、そして何も出来ずに撃退された事を思い出し、侍朗は顔を真っ赤にして詩奈に反論するが、侍朗の顔が赤くなればなるほど、詩奈の視線は冷たい物へと変わっていった。

 

「侍朗君が話しかけられないなら、私が声をかけてあげるよ。その後は侍朗君が自分で何とかすれば良いよ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 自分で話しかけるから」

 

 

 詩奈にそこまで面倒を見てもらうのは恥ずかしいと感じたのか、侍朗は一度大きく息を吐いて天幕の中へ歩を進めた。

 

「よ、吉田先輩。少しよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、構わないよ。それじゃあ達也、また後で」

 

「あぁ」

 

 

 侍朗が声をかけると、幹比古は分かっていたかのような反応を見せ、達也との会話を中断した。達也の方も心得ていたように、すんなりと会話を打ち切り、一度だけ侍朗に視線を向けて、すぐに端末へ視線を落とした。

 思ってた以上にすんなり幹比古と話を出来る状況になったので、侍朗は面食らってなかなか切り出す事が出来くなっていたが、幹比古が黙って自分を見ている事に気付き、もう一度息を吐いて切り出した。

 

「吉田先輩は、前日にモノリス・コードに参加しろって言われた時、どう思いました?」

 

「正直、何かの冗談であってほしいとは思ったよ。だけど、達也がそんな冗談を言うはずもないって分かってたから、事実なんだろうなって」

 

「緊張とかしなかったんですか?」

 

「正直、してる暇が無かったかな。僕が参加したのは、モノリス・コードで事故があり、十文字先輩が大会本部と交渉して特例が認められたからだしね。事故があった夜に達也が十文字先輩と七草先輩に参加を打診され、達也が僕とレオを推薦して参加する事になったわけだし」

 

「何故自分が、とか思いませんでしたか?」

 

「思ったよ。そりゃ思うよ。当時の僕はまだ二科生だったし、僕よりも上手に魔法が使える人は沢山いた。だけど達也は、僕の実力を評価してくれて、推薦してくれたんだ。僕が上手く魔法を扱えるよう、起動式をアレンジしてくれたり、僕の実力を十分に発揮出来るような作戦を立ててくれたりしてくれた。僕を推薦した以上、達也は僕やレオに無様な試合をさせないようにしてくれたんだ。だから僕も、必要以上に気負う事も無かった」

 

 

 幹比古から話を聞き、侍朗は自分が参加を打診された時の事を思い返していた。確かに達也は、自分の魔法特性ならモノリス・コードで十分に活躍する事が出来るという事を言っていたし、例え負けたとしても誰も自分を責めないという事も言っていた。実際一科生からではなく二科生から選出するという事で、それなりの文句は出ただろうが、達也や幹比古が実力を認めているならという事でその騒動が収まったとも聞かされている。

 そこまで期待されているという事を思い出し、侍朗は漸く覚悟を決める事が出来たのか、力強い眼差しを幹比古へ向けた。

 

「吉田先輩に話を聞かせていただいて、漸く覚悟が決まりました。俺個人では自信なんて持てませんが、司波先輩や吉田先輩、西城先輩や千葉先輩が信じた俺の力を、信じてみようと思います」

 

「それでいいと思うよ。自分に自信が持てる人間なんて、実はそんなに多くないと思う。大抵は他の人が評価してくれているからって事で、自分を納得させてるんだし」

 

「本当にありがとうございました。これで明日、緊張で動きが硬くなって無様に負けるなんて事にはならなさそうです」

 

「矢車君のお役に立てたならよかったよ。正直、僕なんかより達也やレオに相談した方が良かったんじゃないだろうかって思ってたから」

 

「あの二人は、いろいろと特殊ですから」

 

「そうだね。達也は緊張とは無縁な性格だし、レオも結構いい加減な性格だから、緊張してなかったし」

 

 

 当時の事を思い出し、幹比古は苦い表情になる。参加を打診され、作戦を立て、達也にCADを調整してもらった後、レオはCADに慣れる為にエリカと訓練所に走り出したのだから、緊張していたとは思えない。そんな幹比古の表情を見て、侍朗もつられて苦い表情を浮かべたのだった。




幹比古もあまり参考にはならないとは思いましたが、他の二人はねぇ……

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