八高との試合が始まり、詩奈はモニターに映る侍朗の姿だけを凝視していた。作戦参謀補佐としては褒められた行為ではないが、達也は詩奈を咎める事はしなかった。
「普通に考えれば八高相手に森林ステージは不利だが、侍朗にとって森林ステージはそこらかしこに弾丸が落ちているのと変わらないからな」
「司波先輩相手じゃ意味が無いって言ってましたけどね」
実際侍朗は、入学当初達也から逃げる為に落ちていた枝に魔法を掛け攻撃するつもりだったのだが、達也の術式解体で意識を刈り取られた経験がある。魔法を掛けるにしても枝だと思い込んでいたので、侍朗自身に魔法を掛けられたことで意識を失ったのだ。
「司波先輩は、どうして侍朗君を選出しようって思ったんですか? 普通に考えれば一科生の中でも実力者の三人をモノリス・コードに出すと思うんですが」
「今更だな」
達也が学校では評価されない優等生がいるのではないかという事で一年生に話しを聞いていたのも、自分より一年生の実力を知っているであろうエリカやレオから話を聞いて侍朗を選んだことは詩奈も知っている。だが本当にそれだけなのだろうかと、詩奈はずっと疑問を懐いていた。その疑問を解消するちょうどいいチャンスだという事で、詩奈は達也に問いかけたのだ。
「確かに普通に考えれば、さっき詩奈が言ったように一科生の上位三人をモノリス・コードに出せばいいだろう。だが今年の一年生の魔法特性は、モノリス・コードに向いているわけではなかった。だから侍朗以外の二人も、上位とは言え三指に入る面子ではない。それに二科生を必要以上に見下しているわけでもないから、二科の中に実力者がいるのなら、参加させるいい機会だと考えただけだ。幹比古や五十嵐もその考えに賛同してくれたから、二科生の中の実力者を探し、侍朗が推薦されたというわけだ。一科の一年も、選手としてだけでなくエンジニアとして出場したがっていたのも多かったというものあるがな」
「そうだったんですね」
達也の影響なのか、一高を志願する生徒の中に魔工技師志望の生徒が増えてきているので、九校戦の選手選びが難しくなってきているのが今の一高の悩みだと、詩奈はこの時初めて知った。元々魔工技師志望の生徒は四高を選ぶ傾向が強かったのだが、過去二年、達也が九校戦で見せてきた離れ業の数々に憧れ、一高を志望するようになったのだ。
「一科生と二科生の間の問題が目立たなくなってきているのは、司波先輩と吉田先輩が元二科生でありながら中枢部にいるからですか?」
「もともと学生の内から優劣を決める必要なんてなかったと思うんだがな。いくら学校の評価が高くても、実際に魔法を使う場面で活躍出来なければ『優等生』とは言えないからな。その逆もだが、学校の評価で『劣等生』扱いされたからと言って、戦場でもそうなるとは限らないから、腐る必要は無い。侍朗も、詩奈の護衛として失格の烙印を押されたからと言って諦める必要は無いという事を思い出させるためにも、今回の新人戦はいい機会になるだろうな」
「そこまで考えていたんですか?」
詩奈は、達也が三矢家の――自分と侍朗の関係も考慮して侍朗を選出したとは思っていなかったので、達也の今のセリフは全くの予想外だった。普段人らしい感情を見せない達也が、随分と人間味あふれた感じがしたのもあって、詩奈は驚きの眼差しを達也に向けている。
「侍朗の今の立場は、俺と似てなくも無かったからな」
「司波先輩と?」
「俺は元々、次期当主候補筆頭だった深雪の護衛として一高に入学したんだ。本当は学校には行かずFLTで手伝いをしろと言われていたのだが、深雪が俺も一高に通う事を希望したから進学した。当時の深雪は俺の事情を全て知っていたわけじゃないからそう願っても仕方なかったのかもしれないが、一高に進学した事で俺は本家の人間の多数から冷めた目を向けられていた。侍朗のように護衛失格の烙印を押されたわけではないが、疎まれていたのは事実だからな。侍朗より酷かったかもしれない」
達也の事情を聞かされ、詩奈は「自分が聞いて良いのだろうか」という気持ちが強くなってきていた。同じ十師族とは言え自分は跡継ぎでもなければこういった大会に参加して活躍出来るわけでもない。ましてや達也の過去を聞いて良いと思える程達也とも親しくないので、どういった反応をすれば良いのかに迷っているのだ。
「俺がモノリス・コードに参加したのは、十文字先輩から『逃げるな』と言われたからだ」
「克人さんに……?」
「補欠である事を理由に逃げるなと言われた。あれはモノリス・コードを念頭に置いた言葉ではなかったんだろうと思った。だから侍朗を選んだ、それだけだ」
「……ありがとうございました。今の話、侍朗君には黙っておきますね」
「お礼を言う必要は無い。俺は俺の都合で侍朗を使ってるんだ。詩奈はそれを利用して、侍朗に自信を持ってもらえるように動けばいい」
「はい」
何故自分が達也の補佐を任されたのか、漸く腑に落ちた詩奈は、力強く返事をし、モニターに映る侍朗の活躍を祈ったのだった。
使えるものは何でも使う、というスタンスは変わりませんが