劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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後ろに控えてるのが凄いな……


目の当たりにする強敵

 速報メールでミラージ・バットの結果を知り、今日の結果次第で新人戦の優勝が決まるというのに、侍朗はそれ程緊張していなかった。理由として、自分たちが勝てなくても本戦に実力者の先輩たちが控えている事や、ここまで結果を残したのだから、詩奈の護衛として少しは認めてもらえるだろうと自信がついてきた事などが考えられるが、一番の要因としては、侍朗以上に残りの二人が緊張しているから、逆に侍朗が落ち着きを取り戻した形になっているのだ。

 

「ここで負けたらカッコ悪いよな……二位以上で優勝って一番困る感じになっちまったな……三位以上なら落ち着いて戦えたかもしれないのに」

 

「だけど女子を責めるわけにもいかないだろ? ミラージ・バット三位は立派な成績だし」

 

「でもよ、もう少しで二位になれたわけだし、もうちょっと頑張ってくれても良かったじゃないかって思っちまうのも仕方ない事だろ? まぁ、実際に観てたわけじゃないから何とも言えないけどよ……」

 

「お前ら、少しは落ち着けよ。確かに俺たちの結果で新人戦の優勝が決まるっていうのは緊張してしまうかもしれないけど、緊張して負けたって言われる方がカッコ悪いだろ? それに新人戦の優勝を逃したとしても、本戦のモノリス・コードには司波先輩、ミラージ・バットには司波会長が控えてるんだ。本戦の有利は揺るがないだろ」

 

「……確かに、あの二人が負ける光景は想像出来ないな」

 

「なにせ『あの』四葉家の人間だもんな……司波先輩も司波会長も、平常心で試合に臨むだろうし、俺たちも少しは落ち着いた方がいいのかもしれないな」

 

 

 侍朗の言葉のお陰で、二人は本戦に控えているのが絶対的な存在であることを思い出し少し落ち着きを取り戻した。

 

「それにしても、まさか矢車に諭されるとは思ってなかったぜ」

 

「だな。昨日の試合前まであれだけガチガチだったのに、何で今日はそんなに落ち着いてるんだ?」

 

「べ、別に大した理由じゃないさ。ただ必要以上に緊張するのはみっともないって思っただけだ。それに、昨日の初戦である程度俺の魔法が通用するって分かったから、それもあるのかもしれない」

 

「ある程度ってレベルじゃないだろ? 索敵も牽制も攪乱も、矢車がいてくれたお陰で俺たちが自由に動けてるんだから」

 

「初めは『二科生を選ぶなんてあの先輩は何を考えてるんだ』って思ったけど、やっぱり司波先輩の考えは俺たちのような凡人には考えつかないんだなって思い知らされたぜ」

 

「そんな活躍したつもりは無いんだが、二人の役に立ててるなら幸いだ」

 

 

 いくら二科生に対する見下しが無いとはいえ、二人は初め侍朗の選出に疑問を懐いていたのだ。だが練習を重ね、実際に試合をしてそんな疑問は消えていき、今では侍朗の力を信じゲームメイクを考える程にまでなっている。

 

「勝つに越した事は無いが、負けたとしてもベスト4なんだから、胸を張って帰れるだろ」

 

「そうだな。決勝リーグに残っただけでも大健闘だよな。よし、そう考えたら気が楽になってきた」

 

「相手は三高……向こうが優勝したら三高が新人戦優勝、例え俺たちが負けたとしても三高が決勝で負け、俺たちが三位決定戦で勝てば一高が新人戦優勝……向こうは二回とも勝たなければいけないが、俺たちは一勝すれば優勝の可能性があるんだ。気楽に行こうぜ」

 

「でも、三高に負けたくはないよな……あいつら、妙にウチをライバル視してるし」

 

「まぁ、一条選手や吉祥寺選手が過剰に司波先輩の事を意識してるから、その感じが三高全体に伝染してるだけだと思うけど、確かに必要以上に睨まれてる気がするよな」

 

 

 毎年優勝をめぐって激しい展開で戦っているのだから、ある程度は仕方ないと思ってはいるが、それにしても視線が露骨過ぎると侍朗たちは感じている。特に男子から向けられる視線の多さは異常だとすら思えるのだ。

 

「とにかく、もう一つの準決勝を観ておいた方がいいだろう。勝つにしろ負けるにしろ、次の相手はこのどっちかなんだから」

 

「それもそうだな。二高と四高、どっちも予選で当たらなかったからどんな戦術を取るのか分からないし」

 

「桜井先輩からある程度の事は聞いてるけど、やっぱり実際に観ておいた方がいいもんな」

 

 

 自分たちの試合より先に行われているもう一つの準決勝に意識を向けたおかげか、三人は試合に対する緊張を一時忘れる事に成功した。

 

「……まぁ、ここまで勝ち残ってるだけはあるな」

 

「どっちと戦う事になっても苦戦は免れないだろうな……」

 

「こうして観ると、予選で当たらなくて良かったなって思えてくるよな……」

 

 

 どちらの学校もハイレベルな戦いをしていると理解出来るだけの実力があるだけに、この試合が三人に与えた衝撃はかなりのものだった。

 

「……俺、勝てる気がしなくなってきたんだが」

 

「で、でもまぁ、まずは三高相手だから、とりあえず落ち着こうぜ」

 

「だ、だな! 三高は予選で二高に負けてるんだし、そこまで強敵じゃないって事だよな」

 

「た、たぶん……」

 

 

 自分たちの試合で精一杯だったので、三人は他校のデータを殆ど持っていない。今更ながらその事が重くのしかかってきて、三人は憂鬱な気持ちで控室へ移動するのだった。




緊張するが、本戦優勝が揺るがないと考えると、少しは楽になるだろう

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