新人戦優勝を受け、一高首脳陣たちは新人戦に参加した一年生たちを集め労いの言葉を贈った。中でも女子クラウド・ボールで優勝した選手には風紀委員長の幹比古や影の風紀委員長と言われている雫から賞賛の言葉がかけられ、その選手は恥ずかし気に天幕を後にしたのだった。
「これで残るは本戦の優勝だけだね。先輩たちの代から数えて五連覇が懸かってるわけだけども、それ程気負う事はないよね」
「出場する選手を見れば、気負う必要は無いって分かる。吉田君も出場するわけだけど、そこまで緊張してないようだしね」
「だってミラージ・バットには深雪さんと光井さん、モノリス・コードには達也が出場するわけだから、僕たちがよほど足を引っ張らない限りは負けないでしょ。もちろん、油断してるわけではないけど」
「他の学校もこの競技に主力を投入してくることは間違いないわけだからな。三高には一条と吉祥寺、二高は光宣、四高には文弥らがいる。モノリス・コードはそれなりに苦戦するだろう」
「ミラージ・バットには亜夜子ちゃんがいますから、私も気を引き締めて臨まないといけませんね」
「達也や深雪さんがそこまで警戒する相手だとは思わないけど、注意しておくに越した事は無いんだろうね」
既に他人事のように感じている幹比古だが、彼もしっかりと相手の事は調べているので、単純に気を抜いているわけではないとここにいる全員は理解している。
「ボクはもう出場する競技は無いけど、泉美はまだ終わってないんだから司波会長に見惚れてる場合じゃないでしょうが」
「分かっていますわ、香澄ちゃん。司波先輩たちの結果を待たずして、私たち三人が決勝に進んだ時点で本戦優勝はほぼ確実、ミラージ・バットで優勝すればその時点で本戦も優勝なのですから、気を抜くはずがないじゃないですか」
「分かってるなら良いんだけど、泉美は今回司波会長のライバルとして参加するんだからね。その事を忘れてるようじゃ来年は厳しいって思われるかもしれないんだから」
「誰がそのような事を思うのですか？」
「間違いなく来年の作戦参謀であるところの水波に。来年は達也先輩や司波会長のように確実に勝利を計算できるような人がいないんだから、今年から気を引き締めておかないといけないんだから」
「来年の事を言えば鬼が笑うということわざがありますが、確かに深雪先輩たちが抜けた穴は大きいでしょうから、今から気を引き締めておく必要がありそうですわね」
もう今年の優勝は間違いないと確信しているのか、双子は来年の事を見据えて話を進めている。そんな二人が可笑しかったのか、深雪は笑みを浮かべていた。
「深雪先輩？ 何故私たちを見て笑ったのでしょうか？」
「いえ、気を引き締めると言っている割には、二人は既に今年の試合に興味が無さそうだなと感じたからね」
「「あっ……」」
深雪に指摘され、香澄と泉美は明日から再開される本戦の事より、既に来年の九校戦に意識が向いていた事を自覚し、恥ずかしそうに視線を逸らした。
「別に来年の事を考えるのが悪いとは言わないけど、泉美ちゃんはまだ今年の試合が残っているのだから、そっちにもちゃんと意識を向けないと」
「も、申し訳ございませんでした！ 私としたことが、直前の試合の事を疎かにしてしまうとは……」
「まぁ、泉美の気持ちも分かるけどね。深雪とほのかが出場してる時点で、この二人が一位二位になるのは目に見えてる。特に深雪は、飛行魔法に対する適性が高いから、普通に戦ったとしても深雪には勝てない」
「ですが、三高には愛梨さんがいらっしゃいますし、激戦になるのは避けられないのではありませんか？」
「確かに愛梨もかなりハイレベルな魔法師ではあるが、飛行魔法に対する適性は深雪の方が高い。これはほのかや泉美でも対抗できないだろう」
「まぁ、深雪さんに飛行魔法で対抗出来るとすれば達也くらいじゃないの？ モノリス・コードでも使うつもりなんだろ？」
「七宝が無茶をしない限り、使うつもりは無いが用意はしてある」
達也がモノリス・コードの為だけに運営本部に提供したベルト型ＣＡＤの存在を知っている幹比古は、それを完璧に扱えるのは達也だけだという事も知っていた。もちろん、普通に使う事は自分や将輝たちにも出来るだろうが、飛行魔法は常駐型魔法だ。使い続ければ普通の魔法師は想子が枯渇し、戦闘など続けられるはずがない。だが達也の桁外れの想子保有量ならば、飛行魔法を使いながら琢磨のフォローが出来るだろうと確信しているのだ。
「本戦モノリス・コードの唯一の懸念は、七宝君が大人しく出来るかだもんね」
「七宝も成長しているから、猪突猛進な事はしないと思うが」
「そもそも七宝君は、達也に感謝してるようだしね。十師族の一員になれたのは四葉家のお陰だって言ってたし、準備期間だけでもかなり成長してるんだろ？」
「まぁ、数値だけを見て成長してるというのなら、確かに成長しているな」
もちろん、魔法技能だけでなく人間としても成長しているので、琢磨が達也や幹比古の意に反した動きをするとは誰も心配していない。だからではないが、一高首脳陣の間では、既に九校戦は終わったものと思われているのだった。
七宝も成長してるから今年は大丈夫、だと思う……