劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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警戒したところで……


最大級の警戒

 新人戦の結果を受けて、将輝と真紅郎は会議室に篭り話し合いをしていた。内容はもちろん、本戦優勝に向けて最後の知恵を絞りだそうという事だが、モノリス・コードは兎も角ミラージ・バットで勝つことは不可能だと諦めている。

 

「司波さんが出場する以上、一色では対処出来ないだろうな」

 

「司波深雪の能力は勿論だけど、彼女を担当しているのはあの司波達也だ。彼女だけではなく光井ほのかの担当もするようだから、この二人を打ち崩すのは相当難しいだろうね」

 

「ミラージ・バットで一高の選手が優勝した時点で、九校戦本戦の優勝も一高が持って行ってしまう……」

 

「モノリス・コードも予選突破は確実だろうし、もうウチが優勝するのは無理かもしれないね」

 

 

 将輝と真紅郎にしては珍しく、既に敗戦ムードになっている。本戦は兎も角新人戦は三高が有利だと考えていただけに、新人戦優勝を一高に持っていかれたのが相当堪えているのだろう。

 

「本戦優勝は諦めるにしても、モノリス・コードの優勝はウチがもらう」

 

「そうだね。でも一高だけに意識を割くわけにもいかない。四高には去年の新人生モノリス・コードで活躍した黒羽文弥が、二高には九島老師のお孫さんがいるわけだから」

 

「光宣は身体が弱いって聞いていたんだが、参加出来たんだな」

 

 

 同じ十師族として家同士の付き合いはあったが、将輝は個人的に光宣と親しかったわけではない。だから光宣は身体が弱いという情報しか持ち合わせていない。

 

「確かに去年の大会は出場していなかったけども、今年は参謀としてそれなりの戦果を残しているようだし、魔法技術はかなり高いものがあるって評判だから、気は抜けないよ」

 

「だがまぁ、司波達也を倒すまで俺たちは負けられないからな」

 

「そうだね。それじゃあ将輝、モノリス・コードの優勝だけは僕たちがもらおう!」

 

「おう!」

 

 

 二年前にも似たような会話をしているのだが、二人はそんな事を思い出さなかった。あの時の思い出は、自分たちが有利だと思っていたのに負けたという、出来る事なら思い出したくない事なので、その前にしていた会話内容など二人の中ではなかったことにされているのだ。

 将輝と真紅郎はもう一度対達也のシミュレーションをしてから会議室を後にし、明日の試合の為に早めに就寝する事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 将輝と真紅郎が達也の事を警戒している頃、彼ら以外にも達也の事を警戒している少年がいた。

 

「(達也さんは間違いなく勝ち残るだろう。僕のこの身体で何処まで達也さんに対抗出来るかは分からないけども、無様に負けるつもりも無い。その為に知恵を寄越せ)」

 

 

 自分を取り込もうとしてきた周公瑾の亡霊を逆に取り込んで知識を得た光宣は、その知恵の中から達也に勝つために使えそうな物を引き出そうとしていた。

 

「(達也さんは術式解体だけでなく術式解散も使える。普通に戦えば達也さんにダメージを与える事など出来ないだろう。まして直接攻撃が禁止されているモノリス・コードでは猶更だ)」

 

 

 例え直接攻撃が可能だったとしても、光宣の徒手格闘術では達也に攻撃を当てるどころか、回避行動を取らせることすら難しいだろう。幾ら魔法の才能に恵まれているとはいえ、自身の想子保有量に器が耐えられない身体なので、身体を鍛える事などしてこなかったのだ。

 

「(噂では達也さんは忍術使い・九重八雲に師事してるわけだし、体術で敵うわけがない。そうなってくるとやはり、純粋な魔法勝負で挑むしかないだろう)」

 

 

 自分の実力を過信しているわけではないが、光宣は達也以外の魔法師に負けるつもりは無かった。相手が将輝や文弥であったとしても、光宣は相手を屈服させる自信があるのだ。

 

「(水波さんを治した方法は分かりませんが、達也さんは間違いなく高い魔法技能を有している。それは僕が取り込んだ周公瑾からも伝わってくる)」

 

 

 周公瑾を滅ぼした時、光宣も側にはいたのだが、実際に達也が周公瑾を滅ぼした現場を見てはいない。亡霊から流れ込んでくる光景で体験したつもりにはなっているが、実際に達也と魔法を使った戦闘を行った事は無いのだ。

 

「(伝統派の連中と対峙した時も、深雪さんが対処してたから達也さんの魔法をこの目で見た事は無い……一昨年の新人戦は、結局テレビでも見なかったし)」

 

 

 まだ中学生だったという事もあるが、光宣は参加出来ないと分かっていた九校戦を出来る事なら見たくなかったのだ。出る事が叶わないのに、もし自分が参加していたらと考えてしまう事が怖かったのだ。

 

「(とにかく僕が警戒すべき相手は達也さんだ。それ以外の相手には興味はない)」

 

 

 いくらCADの性能が抑えられようが、達也以外に自分を負かせる相手がいるわけ無いと確信している光宣は、人とは思えない笑みを浮かべ部屋を出た。

 部屋を出てすぐに、モノリス・コードのメンバーである三年生と鉢合わせ、光宣は『普通の』人間が浮かべるような表情に変わった。

 

「おっ、九島。ここにいたのか」

 

「何かあったんですか?」

 

「いや、明日の試合の事で打ち合わせをしておこうと思って探してたんだが」

 

「すみません。少し一人で考えたい事があったものでして」

 

「そうなのか? まぁ、頼むぜ作戦参謀」

 

 

 光宣が直前まで人とは思えない表情をしていたなど気付くはずもなく、三年生は光宣に気楽に話しかけたのだった。




将輝たちの小物感よ……

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