劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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まぁ仕方ないよな……


立場の違い

 モノリス・コード予選、第一試合。早速達也の出番という事で、会場には魔法大関係者と軍関係者、そして一部達也のファンと婚約者たちで観客席は埋まっていた。

 そんな中敵情視察に来ていた将輝と真紅郎は、始まる前から熱狂している達也のファンを見て顔を見合わせため息を吐いた。

 

「彼の実力から考えれば、熱狂するよりも戦くかと思ってたけど、意外と人気が高いんだね」

 

「まぁ、四葉の御曹司だって事も考えれば、このくらい普通なんじゃないか?」

 

「確かに将輝のファンもこれくらい盛り上がってるけど、彼は将輝のように見た目がそこまで良いわけじゃない」

 

 

 深雪たちに聞かれれば消されかねない事を平然と言ってのける真紅郎だが、将輝も彼のセリフに頷いた。将輝の中では、見た目なら自分の方が上だという思いがあるので仕方ないのかもしれない。

 

「だがアイツは見た目など気にならない程の実力と実績があるからな。そこに惚れた女子がいても不思議ではないだろう」

 

「確かに……将輝の魔法だって、僕一人では創れなかっただろうし、創ろうとも思わなかっただろうしね」

 

「あの魔法の事は感謝しているが、それとこれとは話が別だ。本戦の優勝も難しい状況だが、モノリス・コードの優勝だけはウチが貰う」

 

「その意気だよ、将輝。アイス・ピラーズ・ブレイクの借りもここで返そう」

 

「そうだな。司波達也だけでなく吉田幹比古もいるんだ。あいつらに一気に借りを返そうじゃないか」

 

 

 一昨年のモノリス・コードで負けている事を完全に忘れているような会話だが、この二人にツッコミを入れる人間は側にいないので、二人がその事を思いだす事は無かった。

 

「司波達也に吉田幹比古、そしてもう一人は七宝家の長男か……メンバーだけ見れば些か突出し過ぎなような気もするけど、僕たちには関係ない」

 

「いくらレベルの高い魔法師を集めても、チームワークが伴って無いと勝てないからな、この競技は。その点俺とジョージのチームワークは他の追随を許さない程だ」

 

「もう一人のメンバーとの連携訓練も積んできているし、今年こそ司波達也に勝とう!」

 

「そうだな! 九校戦の借りは九校戦で返さなければな!」

 

 

 達也たちも連携訓練を積んできているかもしれないという考えは一切持たず、将輝と真紅郎は自分たちの連携度を過信して達也たちの試合が始まるのを待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 将輝と真紅郎がそんな事を話している頃、達也の知り合いとしてではなく一高関係者として観客席の中に混ざっていた遥に、見知った相手が声をかけてきた。

 

「隣、よろしいでしょうか?」

 

「……どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 

 声をかけてきた女性が誰だか認識して、遥の機嫌は明らかに悪くなったが、追い返す理由が見つけられなかったので渋々許可した。

 

「そこまで露骨に嫌がらなくても良いんじゃありません? さすがに傷つきますよ?」

 

「わざわざ私の隣に来なくても、貴女なら別の場所で観戦出来るのではありませんか? あちらの軍関係者の中にだって、貴女の知り合いが大勢いるのではなくて?」

 

「あそこの人たちは別部署ですので、私が近づくと面白くないでしょうし、他の席を探そうにもこれだけの人ですもの。今から空いてる席を探すのは困難ですわ」

 

「あちらに七草さんたちの集団や、司波さんたちの集団がありますので、そこに加われば良いのではないですか。私とは違い貴女は彼女たちと同じ婚約者なのですから、エレクトロン・ソーサリス?」

 

「いい加減名前で呼んでもらいたいものなのですけどね。公安部所属・小野遥さん?」

 

 

 響子の言葉に、遥は慌てて周りを見回す。彼女が公安所属である事は世間には知られていないし、一高内でも知っているのは達也くらいだ。もちろん、達也から聞いているかもしれない人間もいるだろうが、彼女が知っている限り達也が誰かに話したという事は無い。

 

「そんなに警戒しなくても、私たちの事を気に掛けてる人なんてここにはいませんよ。もうすぐ始まる試合に集中してるでしょうし」

 

「……それで、本当の理由は何でしょうか?」

 

「はい? 何がでしょうか」

 

「わざわざ他に空いてる席があると分かっているのに、私の隣に来た理由ですよ」

 

 

 遥が少し見回した限りでも、少なからず空席は見つけられる。その中でわざわざ自分の隣に来たからには、何か理由があるのだろうと遥は勘繰っていた。

 

「別にそこまでの理由はありませんよ。見知らぬ方の隣に座るよりは、見知った相手の方が気楽だと思いませんか、ミズ・ファントム?」

 

「私と貴女が隣同士に腰を下ろして『気楽』でいられるとは思えませんが? そこまで親しくなった覚えもありませんし、貴女は婚約者、私は愛人という立場なんですし」

 

「愛人だろうと婚約者だろうと、達也くんなら大袈裟に差をつけるとは思えませんがね。他の婚約者がどう思っているかは分かりませんが、私個人としては本家が許可し、達也くんが認めてる以上何も不満はありませんし」

 

 

 響子の言葉は偽らざぬ本心である。それが分からない程遥も落ちぶれていないので、彼女はつまらなそうに一度息を吐いただけで、それ以降は響子に視線を向けないよう視線を正面に固定した。そんな遥の態度が面白かったのか、響子は口元を押さえて笑ったのだった。




意識し過ぎだって……

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