劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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成長してるからそういう事が考えられるようになってるんです


琢磨の憂鬱

 達也たちに連れられて、琢磨は次の相手である六高と二高の試合を観戦する事になった。本当なら同行したくないのだが、観戦しておいた方がいいという事は琢磨も思っていたので、達也と幹比古と一緒に観戦する事にしたのだ。

 

「(圧倒的に居心地が悪い……さっきの試合、全く活躍出来なかったという事もあるんだろうが、それ以上に上級生に囲まれて観戦するなんてしたこと無いからな……)」

 

 

 入学当初は下に見ていた達也と幹比古だが、二人の事を知れば何故そんな事を思っていたのだろうかと、琢磨は入学当初の自分の勘違いを今更ながらに恥じていた。幹比古は事故の影響で自由に魔法が使えていなかっただけで、それが無ければかなり優秀な魔法師だった。その事故の影響を払拭し『神童』と呼ばれていた時以上の実力を手に入れたという情報は琢磨も入手していたが、それがどの程度なのかを調べようとはしていなかった。

 そして達也は、琢磨にとって道具でしかないCADの調整を得意とする魔工科生だ。まさかこれほどの実力があるなんて思いもしなかったのだ。

 

「(真紀から七草と特別な関係にあるかもとは聞いていたが、まさか四葉の御曹司だったなんてな……)」

 

 

 十師族になれない事から、琢磨は七草家を恨んでいた。その七草家と特別な関係にあるかもしれないと聞かされ、冷静な態度を取り続ける事は当時の彼には難しかったのだが、達也の正体を知り、それ以降は達也に突っかかろうとも思わなかった。

 

「(四葉の御曹司ってだけでも衝撃的だったのに、まさかトーラス・シルバーとして活躍していた世界的な魔工師だったとはな……)」

 

 

 琢磨もトーラス・シルバーの名前は知っていたし、彼が発表したループキャストや飛行魔法術式などは素直に評価していた。琢磨自身利用者ではないが、愛用者が多いという事は知っていたし、他社製品と比べて満足度が高い事も知っていた。だがまさかその正体が高校の先輩ともう一人から成るチームの名で、その先輩がUSNAの企みを潰す為に個人で国家プロジェクト級の事業を立ち上げるなど夢にも見ていなかった。

 

「(CADは道具、そう割り切っている魔法師は少なくないが、調整者一人でこうも結果が違うのかと思うと、馬鹿にしたもんじゃないのかもしれないな……)」

 

 

 今日の試合を含め、達也が担当した選手は事実上の無敗記録を更新中であり、ミラージ・バットで深雪とほのかが他の選手に負けない限り、その記録は破られること無く高校生活を終える事になるだろう。

 

「(モノリス・コードで、この先輩が負けるとも思えないしな)」

 

 

 琢磨は同じ十師族として、達也と克人が衝突した事は伝え聞いている。その内容までは聞いていないが、あの克人が完敗し、何も言わずに引き下がらざるを得ない状況に陥ったと聞き、戦慄を覚えた。

 

「(同年代の中で、克人さんは間違いなく頭一つ抜け出ている。真由美さんもある意味で抜け出ているが、克人さんに勝てるだけの実力は無い……それだけ十文字家のファランクスは強力だからな)」

 

 

 自分程度の実力でも真由美とは互角に戦えるかもしれないと思っている琢磨だが、克人相手に自分の力が通用するとはさすがに思っていなかった。その克人を相手に圧倒したという達也の実力を、琢磨は見てみたいと思っている。

 

「(かといって、俺が挑んだところで司波先輩は本気で戦ってくれないだろうがな……)」

 

 

 入学当初とはいえ、琢磨はかなり本気で発動していたミリオン・エッジを達也に無力化されている。少しは成長した今でも、達也相手に通用するとは思えないのだ。まして克人を圧倒したという力を、自分に向けられたらひとたまりもないとすら思っている。

 

「(一人でも戦争を勝利へと導ける力、か……俺にそんな力があるのだろうか)」

 

 

 十師族の魔法師が周りの魔法師からどう思われているのかを考え、琢磨は己の実力を見詰め直し落胆する。確かに同級生と比べれば自分の実力は高いと断言出来る。だが十師族の中で比べれば。同じ立場の魔法師と比べた時、琢磨は未熟だと言わざるを得ない。

 

「(ましてや俺は次期当主……立場的には司波先輩や一条さんと同じなんだよな……)」

 

 

 琢磨は知らないが、二人とも戦略級魔法の使い手であり、達也のそれは将輝のそれを遥かに凌ぐ威力があるのだ。同じ立場とは言えないだろう。

 

「七宝、さっきから考え込んでいるようだが、ちゃんと試合を観てるのか?」

 

「え? ……は、はい、一応は……」

 

「なら良いが、あまり別の事に気を取られていられるとこちらとしても困るんだがな」

 

「俺一人欠けたとしても、司波先輩と吉田先輩がいれば大丈夫だと思いますけど」

 

「六高相手ならな。だが二高――恐らく決勝リーグで当たる三高と四高との試合では、一人欠ければそれだけ厳しいものになる。七宝にもそれだけの覚悟はしておいてもらいたい」

 

「わ、分かりました」

 

 

 達也から見ても二高、三高、四高は強敵だと知り、琢磨は内心ため息を吐いた。

 

「(この規格外の先輩に強敵と認定されるなんて、いったいどれだけの魔法師なんだよ……)」

 

 

 三高の将輝は兎も角、四高の文弥、二高の光宣は同い年なのだ。琢磨は自分がその域に達していないと思い、今度は内に留める事が出来ずため息を吐いてしまったのだった。




琢磨もそれなりに強いんでしょうがねぇ……

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