六高との試合も危なげなく勝利した達也たちは、予選最大の見物と称されている三高ＶＳ四高の試合を観戦する事にした。今回は琢磨を伴っての観戦ではなく、エリカたちと合流しての観戦だ。
「深雪とほのかの試合は観なくても良いの？」
「ＣＡＤの調整は朝の内に済ませてあるし、二人から『決勝まで観に来なくてもいい』と言われているからな」
「強気な発言ね～。まぁ、達也くんが調整したＣＡＤを使ってるわけだし、あの二人が予選で敗退するとも思えないしね」
「運よく強敵と予選で当たる事がありませんでしたからね。愛梨さんや亜夜子さんとは、予選グループが別ですし」
「でも達也が観に行った方が深雪さんや光井も実力以上の力を発揮出来るんじゃねぇか？」
「だから決勝を観てもらいたいんでしょ。達也くんの無敗記録が最後まで続くかどうかの試合を」
「達也はあまり気にしてないんだろ？」
「あぁ。選手が頑張った結果であって、俺の力など殆ど関係してないだろうからな」
達也の言葉を、誰も否定はしなかった。達也は一年の頃からそう思っているし、実際勝ち残った選手を称えるべきだという事も理解しているからだ。だがそれと同時に、達也の力があったからこそ勝ち進んだという事も否定していない。その面も確かにあるのだから、達也も『殆ど』と言っているのだ。これが『全く』と言っていたら、ここにいる全員が全力で達也の考えを否定しただろう。
「それにしてもよ。予選なのに随分な盛り上がり方をしてるよな……黒羽文弥は去年の新人戦で観た事があるが、一条に匹敵するほどか？」
「亜夜子の弟だし、かなりの実力があるとは思うけど、一条くんに匹敵するかどうかは分からないわね」
「それだけでなく、前の試合でかなり注目されるだけの結果を残していますから。達也さんの事を観に来ていた軍関係者たちが騒いでいたと、香澄ちゃんが話していましたよ」
美月のセリフに、達也と幹比古は納得したように頷いたが、エリカとレオは少し悔しそうな表情を浮かべた。
「それだけのことをしてたなら、あたしも観ればよかった」
「でも達也たちの試合と重なってたし、そっちも観たかったんだよな」
「達也くんたちがこんなところで負けるはずないって分かってるんだけど、どうしても応援したかったし……というか、あたしは達也くんの応援をするためにわざわざ手伝いまで引き受けて観戦に来てるんだし」
「そういえばエリカちゃん。渡辺先輩とは別行動で良いの？」
「あの女は大会期間中は七草先輩たちと行動してるからね。もちろん、後夜祭の時にはこき使ってやるつもりだけどね」
「相変わらず性格の悪ぃ女だな」
「アンタに言われたくないわよ！」
手に持っていたボトルでレオの頭をはたき、エリカはそっぽを向いた。叩かれた方のレオはエリカを睨みつけたが、無意味だという事を覚りため息を吐くだけで済ませた。
「達也としては、一条選手と黒羽選手、どっちが勝つと思う？」
「普通に戦えば一条だろうな。文弥は確かに実力者だが、一条に匹敵するかどうかと問われれば否だ。もちろん、正面から撃ち合わずに済むのなら、文弥にも十分勝機はあるだろうが」
「ダイレクト・ペインだっけ？ あの魔法ってどういう原理なの？」
「精神に直接痛みを与える魔法だ。身体の痛みは誤魔化そうとすれば誤魔化せるが、精神に直接作用するため喰らえば確実にダメージを負い、魔法の発動に集中出来なくなるだろう」
「それだけ聞くと、かなりえげつない魔法だな……」
「だが一撃一撃の威力はそれ程高くないので、耐えられるうちに文弥自身を倒してしまえば問題ない。そして一条にはそれが出来るだけの実力があるからな」
「仮にも十師族の次期当主だもんね……」
「仮にもって……」
エリカの無遠慮な言葉に、幹比古は言葉を失う。達也とは違い将輝は最初から一条家の跡取りとして育てられ、その実力は同年代の中でも上に数えられるものだと幹比古は思っている。もちろん、達也と正面からやり合えば勝てるはずはないと思っているが、それでも将輝の実力は確かなものなのだから、その言い草は無いだろうと言いたいのだろう。
「だって同じ次期当主なら、達也くんの方が強いし、同年代なら十文字先輩だって良いわけでしょ？ あの人に勝てるとは思えないし」
「そりゃ、僕だって彼が十文字先輩に勝てるとは思わないけどさ……」
「別に一条のフォローをしてやる必要は無いんじゃねぇの？ アイツが直接聞いてるわけでもないし、達也に負けたのも事実なんだしよ」
「そうかもしれないけど……だからといって僕やレオが彼に勝てるわけじゃないだろ？」
「幹比古は勝ったじゃねぇか」
「あれを勝ったと言える程僕は自惚れてないよ。一瞬の差だし、あれだって達也の魔法が無ければ勝てなかったしね」
「確かに達也の魔法のお陰かもしれねぇけど、幹比古の実力があっての魔法だろ？ もう少し自信に繋げろよ」
「レオの言う通りよ。ミキ、アンタは卑屈すぎるのよ」
「僕の名前は幹比古だ！ ……でもまぁ、確かに卑屈すぎるのかもしれないね」
事故の影響で自分に自信が持てなかった時期がある幹比古は、己の力を過信しないように心掛けた結果卑屈になった。だが少しくらい自分の力を過信しても良いのかもしれないと、彼はそう考えを改めようとして、慌ててその考えを否定したのだった。
幹比古も自分の事過小評価してますから