劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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彼らも基準が普通じゃないからなぁ……


双子の考え

 三高VS四高の試合を観ていた達也たちは、三高が負けたことにそれ程衝撃を受けなかった。むしろ文弥に対する評価を上げる結果になった。

 

「彼――黒羽文弥君だっけ? かなり戦い慣れているよね」

 

「あれでも四葉の分家、黒羽家の次期当主だからな」

 

 

 表向き黒羽家は四葉家とは関係ないという事で通しているが、幹比古やレオは達也と文弥の関係を知っているので、誤魔化す事はせずに達也は話した。

 

「一条や吉祥寺の視線を一手に受けて平常心を保てるなんて大したものだと思うぜ。少なくともウチの二年生じゃ無理だろう」

 

「僕だって厳しいと思うくらいだし、それだけ黒羽君の精神が鍛えられているって事だろうね。これは強敵になるね」

 

「文弥の得意としている魔法、ダイレクト・ペインをは精神に痛みを覚えさせる魔法だ。だが一撃一撃にそれ程の威力は無いから、幹比古なら二、三発喰らっても大丈夫だろう」

 

「僕はそこまで鍛えてないんだけど」

 

 

 達也やレオと比べれば肉体も精神も鍛えていない事になると幹比古は思っているので、達也基準で言われても困ると言いたげな視線を向ける。

 

「鍛えてるかどうかは兎も角、幹比古が文弥と対峙する事は無いだろう。あいつの相手は俺がしよう」

 

「達也が? 親戚なんだろ? 手の内を知られてるんじゃないかい?」

 

「達也なら、手の内を知られていようが関係ないんじゃねぇか?」

 

「手の内を知っているのはお互い様だ。それに、文弥の相手は俺が適任だろうしな」

 

 

 達也が何を考えて適任だと言ったのか、幹比古とレオには分からない。だが達也がそういうのならそうなのだろうと、それ以上その事について尋ねる事はしなかった。

 

「三高がここで負けたことによって、またウチの総合優勝が近づいたね」

 

「決勝リーグに残ればいいんだろ? 次の六高に勝てばもう決勝リーグ進出は決まったも同然なんだし、幹比古もだいぶ気楽になってるんじゃないか?」

 

「去年、一昨年と比べれば今年は最初からだいぶ楽だよ。いきなり参加しろと言われたわけでも、先輩たちに交じって参加してるわけでもないしね」

 

「達也の実力も十分に知ってるしな」

 

「違いない」

 

 

 レオと幹比古が談笑している横で、達也はフィールド上で寝そべっている文弥に視線を向けていた。

 

「達也?」

 

「何かあるのか?」

 

「いや、何でもない」

 

 

 まさか達也がこの場で文弥の魔法力を解析していたなどと思わない二人は、揃って首を傾げながらも会場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 将輝と真紅郎を相手に、真正面から引き分け以上の成果を上げた文弥を、上級生たちは派手に出迎えた。

 

「よくやった、黒羽!」

 

「クリムゾン・プリンスとカーディナル・ジョージを同時に相手にしてこの結果だ。上々だと言えるだろう」

 

「黒羽君って、可愛らしいだけじゃないよね」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 上級生に囲まれ、文弥は居心地悪そうにそう答える。年頃の男子として、何時までも「可愛い」と形容される見た目を気にしているのもあるが、個人としては将輝に負けた事になっているので、そこまで歓迎される事をしたとは思っていないのもあるだろう。

 

「とりあえず医務室に行った方がいいと思うよ。直撃は避けていたとはいえ、インビジブル・ブリットと圧縮空気弾を喰らってるんだから」

 

「そうだね。黒羽君、付き添おうか?」

 

「い、いえ……大丈夫です」

 

 

 女子の先輩の、下心が見え隠れする申し出を断り、文弥は部屋の隅にいる亜夜子にアイコンタクトを送り人の輪から抜け出した。

 

「まったく、無理しちゃって」

 

「姉さんがそうさせたんだろ?」

 

「私はしっかりしなさいと言っただけよ?」

 

「その所為で、あの場面で負けられないって思ったんだよ」

 

 

 双子の姉に肩を借りながら歩く文弥。亜夜子は生意気ながらも照れている弟の顔を見て優しい笑みを浮かべる。

 

「この様子じゃ、明日達也さんと戦う事になった場合どうするの?」

 

「そもそも最初から勝てるわけ無いんだから、無様に映らないようにするだけだよ。そういう姉さんこそ、ミラージ・バットの決勝で深雪さんと戦うんだろ? 僕の事を気にしてる場合?」

 

「深雪お姉さまを相手に勝てるはずもありませんし、とりあえず三位狙いですから。深雪お姉さまだけでなく、光井ほのかさんも強敵ですし」

 

「二人とも達也兄さんが調整したCADを使ってくるだろうし、深雪さんには飛行魔法があるしね」

 

「飛行魔法は誰でも使える魔法ですけど、誰もが同じように使える魔法ではありませんからね……深雪お姉さま以上に、あの魔法を使いこなせる人はいないでしょう」

 

「僕や姉さんの想子保有量じゃ、深雪さんや達也兄さんに太刀打ち出来ないもんね」

 

「あの二人が桁外れなだけで、私たちだって決して少ないわけじゃないんですけどね」

 

 

 達也と深雪の想子保有量は、四葉家全体で見ても異常だと言える。そんな人を相手に勝てると思える程、双子は自惚れていないし、達也の事を侮っていない。

 

「とにかく僕は準優勝、姉さんは三位狙いで行けば、総合三位には入れるだろうしね」

 

「四高にとって、三位でも喜べる順位ですものね」

 

 

 元々魔法実技より理論に重きを置いている為、九校戦では競技の結果よりCADの性能を競ってる節があった。その四高が九校戦で三位に入れば、十分な結果だろうと亜夜子と文弥はそう判断しているのだった。




優勝を狙ってないから気が楽なんでしょう

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