劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1706 / 2283
彼女たちもお年頃ですから


香蓮の考察

 ミラージ・バット決勝進出を決めた愛梨は、残りのメンバーを見て思わずため息を吐いた。深雪やほのかが残っているのは当然として、亜夜子や泉美といった実力者が予選で潰しあわなかった所為で、ミラージ・バット決勝は過去に例を見ない程ハイレベルな戦いが予想される。

 部屋に戻って休む前に、愛梨は香蓮を呼びつけてこの事について話し合う事にし、同室である栞に断りを入れて部屋に近づかないようにしてもらった。

 

「どう思います?」

 

「一条や吉祥寺たちが負けたことにより、三高の総合優勝は絶望的です。また、一高の三人が決勝に進出した事により、愛梨が優勝したとしても誰か一人が三位以内に入れば総合優勝が決定的となります」

 

「達也様たちが予選グループ一位で通過すれば、決定的ではなく決定になるわけですか……」

 

「一位で通過すれば、明日の準決勝で当たるのがウチですからね。今の三人のモチベーションを考えれば、達也様たちに勝てるとは思えません」

 

 

 例えモチベーションが高かったとしても、将輝たちが達也に勝てるとは香蓮も考えていない。だが個人的な感想を述べる場ではないので、香蓮は三高の参謀としての意見を述べたのだ。

 

「そうとなると、今注目されているのは達也様の不敗神話が最後まで続くかどうか、という事かしらね」

 

「この大会でも達也様が担当なさった選手は事実上の無敗。残るミラージ・バット決勝とモノリス・コードで負けなければ、達也様は三年間負けなしという事になりますからね。選手としてだけでなく、エンジニアとしても無敗で高校生活を終える事になります」

 

「そう考えると、司波深雪や光井ほのかに負けてもいいと思えてきますが、これは学校間の勝負でもありますからね。私個人の気持ちで試合を捨てて良い事にはなりませんわ」

 

「そんな事をすれば達也様にも怒られてしまうでしょうね」

 

 

 予選は兎も角、決勝は間違いなく見に来るであろう達也の観察眼を、香蓮はある程度把握している。もし愛梨が手を抜いてたとすれば、達也は一目見ただけで気が付くであろうと。

 無論愛梨が手を抜くはずがないと香蓮も分かっているのだが、ここで同級生や教師の名前を出すより、達也の名前を出した方が効果的であると確信しての言葉である。

 

「達也様に叱られるのは嫌ですが、全力を賭したとしても勝てると断言出来る相手ではありませんからね。司波深雪は当然のこととして、光井ほのかもかなりの選手ですもの」

 

「達也様が調整したCADを使っているという事を差し引いても、沓子を倒した実績がありますし、新人戦ミラージ・バット優勝の実績がありますからね。昨年もミラージ・バット優勝ですし、ある意味司波深雪より警戒すべき相手かと思います」

 

 

 香蓮としては深雪の優勝は飛行魔法あってのもので、ほのかのように正攻法で優勝している方が警戒に値すると感じているのだが、愛梨はほのかよりも深雪を警戒すべきと考えている。予選の力ない選手たちなら多少無謀と分かっていても飛行魔法を使用するだろうが、決勝に残っているメンバーはそんな賭けをしなくてもある程度は戦えるのだ。そうなってくれば、飛行魔法を使いこなしている深雪が圧倒的有利であると愛梨は考えている。

 

「予選の戦い方を見る限り、司波深雪はまだ余力を残しているでしょうし、達也様がアレンジを加えている飛行魔法に対抗出来るとは思えません。下手にアレンジを加えて選手を危険に曝す真似は、何処のエンジニアもしなかったようですし」

 

 

 飛行魔法はトーラス・シルバーが――すなわち達也が創り上げた魔法である。創造主と競っても勝てるわけがないと何処のエンジニアも諦めており、公開されている起動式にアレンジを加えてやろうという気概のある人間は一人もいなかった。その結果、達也がより効率的にした飛行魔法相手にあっさり敗れたのだ。

 

「達也様の実力なら、司波深雪個人に合わせた調整が出来て当然ですし、達也様がアレンジした魔法式を司波深雪が使いこなすのも当然でしょう」

 

「司波深雪が生活しているマンションの地下には、専用の道場があるようですし、個人レッスンをしていたとしても……」

 

「愛梨?」

 

 

 何故愛梨がセリフを途中で止めたのか分からなかった香蓮は、小首をかしげて愛梨を見詰める。だが愛梨が途中で止めたセリフを思い返し、何故彼女の顔が真っ赤になったのか理解し、苦笑した。

 

「愛梨、年頃の淑女として、その妄想は如何なものかと思いますが」

 

「べ、別にイヤラシイ事を思ったわけではありませんわ! 達也様に個人レッスンしてもらっている司波深雪を想像して嫉妬しただけです!」

 

「なら何故そこまで真っ赤になっているんですか? いくら愛梨が優秀な魔法師とはいえ、余計な事を考えて休めなくて負けるという事もあり得るでしょう。ですからその余計な考えは捨て、早いところ休んでください。私も出て行きますので」

 

「で、ですからそんな事は考えていませんわ! ですが、確かに香蓮さんの言う通りかもしれませんわね。決勝に向けて、そろそろ休ませていただきますわ」

 

「では、私はこれで」

 

 

 自分が何を想像したのか、最後まで追求しなかった香蓮は、ある意味で一番厄介な相手なのかもしれないと愛梨はそんな事を考えながら眠りに就いたのだった。




でもその妄想はない……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。