劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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 一高VS二高という、本来であればそれ程盛り上がるカードではないというのに、今年はそのカードが注目を集めている。理由はもちろん、四葉家の御曹司である達也がいる一高と、元とはいえ十師族の一員だった九島家の直系がいる二高との試合は、かなりの見物になるだろうという事だ。

 当事者たちからすれば勝手に盛り上がったり盛り下がったりではた迷惑と感じるかもしれないが、大会運営本部の人間からしてみれば、この盛り上がりはありがたいものだろう。なにせ目玉と位置付けていた一高VS三高の試合がそれ程盛り上がら無さそうになってきていたのだ。このままでは周囲の意見を無視してまで開催した意味が無くなってしまうところだったのだ。

 

「老師の孫、という意味でも注目されているんでしょうね」

 

「何だよ、いきなり」

 

 

 観客席の異様な盛り上がりを見ていたエリカの呟きに、隣に座っているレオが反応する。その反対側では、美月も不思議そうな表情をしているので、レオの理解力が低いというわけではなく、エリカが何に対して呟いたのか誰にも分かっていないという事である。

 

「この盛り上がり方よ。達也くんが参加する試合だから多少盛り上がっても不思議じゃないけど、さっきまでの試合とは盛り上がり方が違うもの」

 

「つまり、二高に光宣がいるからってわけか?」

 

「そ。達也くんには近づき難いオーラがあるけど、光宣はそうじゃないでしょ? まぁ、深雪に似て本当に人なのだろうかって感じさせる雰囲気はあるけど」

 

「確かに、光宣君もかなりの美形ですものね」

 

「あら美月、浮気は駄目よ?」

 

 

 美月としては一般的な意見を述べたつもりだったのだが、エリカはそれが分かっていてなお美月をからかった。案の定美月は慌てたように否定したが、エリカにはそれに付き合うつもりは無い。

 

「もぅ、エリカちゃんったら……」

 

「まぁ、美月がミキ以外の男に靡くとは思ってないから。それで、光宣と達也くんが戦う事で、それなりの盛り上がりがあるだろうって事で、急遽大会本部が話題にしたんじゃないかって事よ」

 

「さっき一条が負けたことにより、決勝でと考えていたカードが実現しなくなったからか?」

 

「それもあるでしょうけども、三高は文弥くん一人に負けたわけだし、このまま行っても決勝に進めるかは怪しいわけでしょ? 何せ黒羽家は表向きは四葉と関係ない事になってるんだから」

 

「え、エリカちゃん」

 

「大丈夫よ。誰もあたしたちの会話なんて聞いてないし、この喧噪の中であたしの声を拾える耳を持ってる人間もいなさそうだしね」

 

 

 侍朗のように、盗み聞きの魔法を使っている可能性もあるが、観客席での魔法の仕様は厳しく監視されている為、そのような心配は不要だろうとエリカは考えているのだ。

 レオもレオで、魔法を使ってまで自分たちの会話を盗み聞きしようと考えている人間がいるはずないと思っているので、エリカのセリフに過剰に反応しなかったのだ。

 

「いくら達也さんがエリカちゃんたちの婚約者だからって、本家が隠してる事を漏らしたら大変なんじゃない?」

 

「美月やミキみたいに、関係が無くても知ってる人もいるんだし、大丈夫じゃない? もちろん、率先して流布したとなれば違うだろうけどさ」

 

「そんなことしたら、文字通り『消される』だろうけどな」

 

 

 レオは達也の魔法の全てを知っているわけではないが、四葉家の噂は知っている。そして彼が知る通りの四葉家なら、人一人を消し去るくらいは容易に出来るだろうと思わせる何かがある。

 一方のエリカは、達也の魔法を知っているだけに、レオのセリフを冗談だと笑い飛ばす事が出来なかった。達也の『ソレ』は、冗談ではなく人を消すのだから。

 

「ま、まぁとにかく……盛り上がってるのに不満はないけど、達也くんとしては面白くないかもね」

 

「どういう事?」

 

「ただでさえ出汁に使われたって言うのに、またしてもいい様に使われたわけだし。達也くんの性格上、人に使われるのは嫌なんじゃないかなって思っただけよ」

 

「達也さんなら、その程度の事で怒ったりしないと思うけど。もちろん、深雪さんを広告として使おうとすれば、何かしらのアクションは起こすだろうけども」

 

「あっ、それ前にあったみたいよ。師族会議で提案されたんだけど、達也さんを筆頭に若い魔法師から反対があって却下されたらしいのよ」

 

「魔法師を一部アイドル化して世間にアピールするってあれか? まぁ、確かに絵になるだろうけど、そんなことしてもあいつらが大人しくなるとは思えなかったから、反対して当然だと思うけどな」

 

 

 セリフの前半だけ取れば、レオが深雪のアイドル衣装を見たがっていたようにも思えるが、彼は決してそんな邪な気持ちで言っていたわけではない。どれだけ魔法師が人間社会に貢献しているかアピールしたところで、反魔法主義者が大人しくなるとは思っていないのだ。それはレオだけでなく、エリカも美月も思っていた事なので、レオのセリフに反論はしなかった。

 

「とにかく、達也くん効果で盛り上がってるのを見るのは、婚約者の一人として面白くないってだけよ。あんまり気にしないで」

 

「オメェが言い出したんだろうが」

 

 

 この余計な一言によって、レオは暫く顔を上げる事が出来なくなったのだった。




口は禍の元……レオ……

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