劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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当然違うだろう


感じ方の違い

 まるで決勝ではないかと錯覚しそうなくらい盛り上がってる観客席を見て、幹比古と琢磨は先ほどまでは感じなかった緊張を覚えた。注目されている事は自覚していても、何処か他人事のように考えていた二人だっただけに、ここにきて緊張してしまった事で焦りを覚えた。

 

「達也だけが注目されているならまだいいけど、さっき一条選手たちが負けたことで僕たちに対する注目度も上がってしまったんだろうね」

 

「俺らも負けるかもしれないって事ですか?」

 

「そうだろうね。ここまで危なげなく勝ってきたとはいえ、何処か『達也がいるから』という安心があったからだ。だが次の試合、達也は光宣くんの相手で手一杯になるだろうから、残る僕たちが何処まで戦えるかにかかってくるだろう。そうなると、七宝家次期当主の君や、アイス・ピラーズ・ブレイクで一条選手を破った僕が注目されるのも分かる。だけど、ここまで注目されることになるとはな……」

 

 

 幹比古の考えに、琢磨も同意する。自分たちはあくまでもおまけ、注目されているのはあくまでも達也だと考える事で平静を保ってきたのだから、その考えが使えなくなってしまった今、いかに緊張せずに戦えるかが勝敗を分ける事になるのだ。

 そんな二人を脇目に、達也は何処か遠くを眺めているように幹比古には感じられていた。自分たちを見ながら、何処か違うところを見ているような、そんな感じがする目をしている。

 

「達也、何か緊張しない方法とか無いかな」

 

「そんな事俺に聞かれてもな。逆に幹比古は、俺が緊張してるように見えるのか?」

 

「……見えないね」

 

 

 達也が緊張と無縁である事は、幹比古も知っている。だが琢磨は達也の事情を知らないので、どのような人生を歩めば達也のような精神力を身に付けられるのかと頭を捻った。

 そんな琢磨の仕草を見て、幹比古は苦笑する。琢磨にとって達也はある意味で同じ立場の人間であり、目標にするのも仕方がない存在だ。だが達也を目指したところで、琢磨がそうなれるとは幹比古には思えないのである。

 

「七宝君、達也を目指してもしょうがないから、君は君らしく戦えばいいと思うよ」

 

「何ですか、急に」

 

「いや、達也のような心の持ちようを目指してるような感じがしたから、それは止めた方がいいよってね。僕や君が達也のようになろうとしても無理だと思うから」

 

「そうですか……確かにそうかもしれませんね」

 

 

 言葉だけを見れば、幹比古は琢磨の事をバカにしているようにも見えるが、幹比古の雰囲気や表情からは、そのような事は感じられない。むしろ、琢磨の事を考えて進言してくれているように感じられる。

 

「何時までも緊張してる場合ではないぞ。そろそろ開始時刻だ」

 

「分かってはいるんだけどね……僕は達也みたいに切り替えが早くできないから」

 

「俺だってそれ程早いつもりは無いんだがな……」

 

 

 達也は表情に出ないだけで、それ程切り替えが早い方ではないと思っている。だが周りから見れば、何事にも動じず、即座に判断できる程冷静に見えるのだ。そう思われても仕方がない。達也もそれが分かっているから、肩を竦めるだけで反論しなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一高の控室でそんな事が行われている頃、二高の控室では光宣以外のメンバーがモニターを見て緊張感を増していた。光宣が参加しているお陰でそれなりに注目されていたが、自分たちがその注目に曝されるとは思っていなかった。その点では幹比古や琢磨と同じである。

 だが二人と違うのは、緊張が悪い方に向いておらず、むしろ注目されることでやる気が増しているように感じられた。

 

「今までは九島にまかせっきりだったが、さすがに今回はそうはいかないだろうな」

 

「『あの』四葉の御曹司が相手だもんな。幾ら九島が俺らとは比べ物にならない魔法センスを持っていると言っても、苦戦は免れないだろうな。そうなるなら、後は俺たちが何とかするしかないな」

 

「お前が気負ったところで、四葉の御曹司にダメージを与えるどころか、九島の邪魔にしかならないぞ。俺たちが出来るのは、残りの二人を牽制して、二人の戦いに加勢させないようにするだけだ。間違っても九島の援護をしようとか、隙を見てモノリスを狙うとかはしない方がいい。相手はあの一条を負かしたヤツと、七宝家の次期当主だからな」

 

 

 緊張と興奮で盛り上がっていても、冷静な判断が下せるあたり、この選手は実力者なんだなと、光宣はそんな事を考えた。自分は注目されることにも慣れているし、達也と戦う事に緊張する事もないので冷静でいられるが、この二人はそうではないと思っていたのだ。

 

「(去年参加していなかったから知らなかっただけだろうか……休みがちな所為で、校内の実力者も知らなかった所為かもしれないが)」

 

 

 あまり興味が無かったが、光宣は今更ながらにこの二人に興味を懐いた。精霊の瞳を向けてもさほど高い魔法力は感じられないが、それでも頼もしさは覚えた。

 

「(僕が達也さんに負けなければ、この勝負分からない、そう感じさせてくれる)」

 

 

 先輩相手に失礼かもしれないが、光宣は試合開始直前までそんな事を考えていたのだった。




光宣は勝つ気があるようです

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