劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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普段とは違うからな……


視線の違い

 本戦モノリス・コード予選リーグ最終戦、一高VS二高は森林ステージで行われることとなった。そしてその試合は今大会中で最も注目されていると言えるだろう。

 注目される事自体、光宣はなれている。滅多に外に出なかったとはいえ、一歩外に出れば嫌でも注目される、そのような容姿をしているのだから、いちいちそんな事を気にしていたら外に出る事すら出来ない。だから光宣は深雪同様他人の視線をシャットアウトする術を身に付けているのだ。

 だがそのような特技を会得している光宣ですら、今自分に向けられている視線に緊張を覚えた。ただ単に容姿に注目されているのではなく、今自分は一人の魔法師として注目を集めているのだ。ある意味光宣が一番欲しかったものだと言える。

 自分が求めていた物を得られたからといって、光宣はその事に高揚している暇はない。今彼の視線の先には、恐らく自分の全てを賭しても勝ち切れるかどうか分からない相手が立っているのだから。

 

「(このプレッシャー……達也さんの方も僕の事を強敵と認識してくれているみたいだ。何だろう、達也さんに認めてもらえてるのが嬉しいんだけど、素直に喜べないこの感情は)」

 

『いくら高校生のお遊びの大会とはいえ、今は戦闘中ですから。喜ぶのは後回しにしようと無意識に思っているのでしょう』

 

 

 周公瑾の亡霊の声に、光宣は小さく頷いた。確かに光宣にとって九校戦は単なるお遊びレベルだが、対峙している相手はその程度では済まない。恐らく本当の戦場で鉢合わせしたら、死を覚悟するくらいの相手なのだ。浮かれている場合ではない。その事を心のどこかで考えていた自分に、光宣は苦笑した。

 

「(やっぱ何処か他人事のように感じてるんだろうな……去年の今頃、僕は部屋のベッドに臥せっていたわけだし、今年だって開催されるか微妙だったから)」

 

 

 他の人よりかは冷静でいられていると光宣は思っている。だが達也のように全くの無関心を貫けるほど、自分は達観していなかったのかと呆れ、すぐにその考えを追いやる。

 

「(自分の幼稚さを恥じるのは後だ。ただ向き合っているだけでこのプレッシャーだ。下手に仕掛けたらすぐにやられてしまうだろう)」

 

 

 一度牽制の『青天霹靂』を仕掛けたのだが、あっさりと無効化されただけでなく、元々立っていた場所に大きな穴を穿たれたのだ。下手に刺激したらやられると思うには十分の威力だ。

 

「(這い寄る雷蛇でも、達也さんの足止めは出来ないだろう。かといって致死性の高い魔法は使えない。あんまり気にしていなかったけど『殺してはいけない』というルール、僕と達也さんとの間には邪魔でしかないな……どっちも決定打に欠ける事になっている……)」

 

 

 下手に動けば相手が動くと分かっているので、光宣も達也も先ほどから睨み合う以外の事はしていない。たまにチームメイトの事を気に掛ける仕草を見せるが、達也も光宣も直接見る必要は無いので、決定的な隙にはならない。だからこその膠着状態だ。

 

「(肉弾戦がOKだったら、僕の方が圧倒的に不利だっただろうな……)」

 

 

 達也の体術の師匠を思い浮かべ、光宣は心の中で苦笑する。忍術使い・九重八雲の名前は、光宣の中でも大きな意味を持っているのだ。

 

「(さて、他の二人は無事なのだろうか)」

 

 

 自分が達也を引き受けておけば、残る二人は上級生であり、モノリス・コードの選手として選ばれるくらいの実力者だ。相手が幹比古や琢磨だからといってそう簡単に負けないだろうと思っていた光宣は、味方の存在を探り焦りを覚える。

 

「(同じところをぐるぐると……これは古式魔法『木霊迷路』か! そしてもう一人が葉っぱに強化魔法を掛けている……まさか『ミリオン・エッジ』!?)」

 

 

 昨年の琢磨だったら、ミリオン・エッジを制御出来ずにオーバーアタックを取られたかもしれないが、今の琢磨ならその程度の加減はしっかりと出来る。そして紙片でなくてもミリオン・エッジは使える。この森林ステージは琢磨にとってそこら中に武器となる物が置いてあるのと同じなのだ。

 

「(新人戦に出ていた選手の中にも、枝や石を武器にしてた選手がいたけど、まさか本戦でもその作戦を使ってくるとは……直接姿が見えない分こっちが有利かと思ってけど、油断したな)」

 

 

 ここで二人に加勢しに行こうとしたら、あっさりと達也に攻撃され自分が戦闘不能になってしまう。かといって二人を見捨て、三対一の状況で勝ち抜けると思える程、光宣は達也の事を下に見ていない。

 

「(どうせ負ける未来しかないというのなら、正々堂々戦って負けよう。そっちの方が盛り上がるだろうし、達也さんに僕の実力の一端を知ってもらえるいいチャンスだ)」

 

 

 最早勝つのは難しいと判断し、光宣は達也に這い寄る雷蛇を放ちそれを無効化している隙に青天霹靂を放つ。さすがに化成体を召喚するわけにはいかないので、光宣はプラズマ砲弾や電撃を駆使して達也の足を止めようと攻撃を仕掛け続ける。

 

「(達也さんが僕に背を向けたところで、僕は達也さんを仕留められないだろうけども、少しでも長く試合を続ける為に、僕は達也さんに攻撃し続けるしかないんだ)」

 

 

 これが互いに制限が無く、相手を殺してしまっても問題ない勝負なら、光宣はこんな行動はとらなかった。だがこれはあくまで競技で、ルールの中でしか戦えない。光宣は何時か達也と本気の勝負をしてみたいと考える一方で、自分が殺される心配をしなくていい事に内心ほっとしたのだった。

 

「(達也さんの事を甘く見ていたわけじゃないが、今回は僕の負けです)」

 

 

 既に味方の二人はミリオン・エッジによって戦闘不能にされている。光宣はがら空きのモノリスに意識を向けながら心の中で降参したのだった。




勝敗を分けたのは、主力以外の戦力

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