劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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どっちにも強く出れない……


八つ当たりの二人

 先ほどまで談笑していた真由美たちだったが、エリカが現れたことで摩利はあからさまに顔を引きつらせ、真由美も本人は誤魔化せているようだが不機嫌な表情に変わっている。唯一ポーカーフェイスを保っている鈴音だが、二人のあからさまな態度に苦笑しているように思えた。

 

「どうして一高の控室に先輩たちがいるんですか? いくらOGとはいえ今は無関係ですよね?」

 

「ちゃんと達也くんに招いてもらってから入ってるから、無関係と言い切れないんじゃないかしらね。摩利はどう思う?」

 

「おいっ! 何であたしにふるんだ!?」

 

 

 真由美に話しをふられ、摩利はさらに動揺する。年上でありエリカの兄の婚約者という立場なのだが、摩利はエリカ相手に強気に出られない。魔法を使わなければ勝てないという事実が、彼女の中で大きな意味を持っているからだろう。

 

「エリカも真由美さんも落ち着け。いくら疲れていないからといって、七宝はこういう空気に慣れていないんだ。余計な心労を負って明日の試合に影響が出るようでは困ります」

 

「い、いえ……俺は大丈夫です」

 

 

 達也が自分の心配をしているわけではないという事は琢磨にも理解出来る。だがエリカと真由美、二人に睨まれてはそう答えるしかないのだ。

 

「どうやらお邪魔のようだし、俺たちは先に失礼しようぜ、七宝」

 

「えっ、西城先輩!?」

 

 

 レオに腕を掴まれ、琢磨はそのまま控室を後にする。元々居心地は良くなかったのでレオの行動は琢磨にとってもありがたかったのだが、あまり交流の無い先輩に腕を引っ張られて平然としていられる程、琢磨は達観していない。困惑気味の表情を見せたが、誰も琢磨を助けてはくれなかった。

 レオと琢磨が退室するのを見送り、エリカと真由美は再びにらみ合いを始める。そんな二人に挟まれるような恰好になっている摩利は、この場を何とか出来るであろう達也に視線を向けるが、彼は肩を竦めるだけで助けてはくれない。

 次に摩利は鈴音に視線を向けるが、彼女の視線の意味を理解しながら鈴音は無言で首を左右に振る。その行動は摩利にとってあまり嬉しくないものであった。

 

「だいたい、私たちの方が先に来ていたんだし、エリカちゃんが我慢すれば良いじゃないの。ね、摩利?」

 

「あたしは別に先輩たちを追いやろうだなんて考えてませんよ。ですけど、早い者勝ちだなんて随分と幼稚な考えをお持ちなのですね。アンタはどう思う?」

 

「いや、あたしは何とも……」

 

 

 正直言って、摩利はこの場に居続ける事すらしたくない状況なので、何とかしてこの部屋から脱出しようと模索しているのだが、二人の視線に捉えられて動けずにいる。そんな状況でどちらからも援護射撃を求められたとして、期待に応える事など出来ないのだ。

 

「真由美さんも確かに大人げないと思いますが、千葉さんも刺々しさを抑えるべきではありませんか? 先ほど達也さんが言われたように、いくら戦闘で肉体的疲労を感じなかったといって、ここで精神的疲労を蓄積しては明日の試合に影響が出るかもしれません。別に摩利さんを苛めて楽しんでいるだけなら、私も何も言いませんが」

 

「おいっ!」

 

 

 漸く鈴音が助け舟を出してくれたと思っていた摩利だったが、自分が弄られるだけなら問題ないと言い切られさすがにツッコミを堪えられなかった。

 そんな摩利の態度は無視して、真由美とエリカは互いにバツの悪い表情を浮かべ達也に謝罪する。

 

「ゴメン、達也くん……」

 

「ゴメンね、達也くん。私たちは別に、達也くんに精神的疲労を与えたいわけじゃないの。それだけは本当よ」

 

「えぇ、分かってますよ。ですが、もしこの場に幹比古と七宝が留まっていたら、少なからず明日の試合に影響が出ていたかもしれません。そこは反省してください」

 

「「はぃ……」」

 

 

 達也の諭すような視線に居たたまれなさを感じ、真由美とエリカは肩を落とし同時に答えた。確かに達也なら影響ないと言い切れるが、幹比古と琢磨にそれを求める事は出来ないと思ったのだろうと、この中で唯一傍観者でいられた鈴音はそう感じた。

 

「一緒にいられないことに関しては申し訳なく思いますが、大会期間中くらいは我慢してください。俺の意思が介在していないとはいえ、選手として参加する以上はしっかりと結果を残したいので」

 

「達也くんなら問題なく結果を残せると思うけど、確かに余計な心配事は無いに越した事はないものね」

 

「去年、一昨年と問題だらけだったし、今年くらいは平穏な九校戦を過ごしたいよね。ゴメン、達也くん」

 

 

 結果的に達也に助けてもらった摩利は、二人に見えない位置で達也に頭を下げる。気持ち的には達也にも苛められていた感じもあるのだが、その事には目を瞑る事にしたようだ。

 

「とにかく、九校戦は明日で終わりなんですから、後一日ぐらい我慢してください。深雪やほのかたちだって大人しくしてくれているんですから」

 

「それを言われると困っちゃうわね……」

 

「あの深雪が我慢してるんだもんね……」

 

 

 人がいないところでは甘えまくっているのだが、二人はその事を知らない。だから深雪を引き合いに出されたら自分も我慢しなくてはと思い、後一日ぐらい頑張ろうと思わせることに成功した。まんまと達也の思惑にはまった二人を見て、鈴音は達也に見える角度だけ苦笑したのだった。




深雪は我慢…してるんだろうか……

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