劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ハイレベルな中にいるのに冷静


泉美の考察

 予選は向こうの試合と重なっていたから我慢していたが、決勝は観に来てくれていると分かっているので、深雪もほのかも予選以上に気合いがみなぎっていた。

 そもそもこの二人が油断などするはずないのだが、予選以上の気合いを見せられ、泉美はとてつもない場違い感を覚えてしまう。

 

「(深雪先輩も光井先輩も、ミラージ・バットに高い適性を持っているお方ですし、深雪先輩は一昨年の本戦、光井先輩は一昨年の新人戦、去年の本戦と優勝しているわけですし、普通に考えたらこのお二人が優勝争いを繰り広げて当然ですわね……さらにそこに愛梨さんや亜夜子さんといった実力者が混じるわけですから、予選以上に気合いがみなぎっていたとしても当然なのでしょうが……何なのでしょう、この邪な気持ちが入り混じっているような感じは)」

 

 

 自分が深雪に対してそんな事を思うなんて、泉美自身も思っていなかったことだが、今の深雪を見てそう思わざるを得ない程邪な気持ちが見え隠れしているのだ。

 

「(理由は考えるまでもなく分かりますが……やはり深雪先輩にとって司波先輩という存在は大きな意味を持っているという事なのでしょう……悔しいですが、私では太刀打ち出来ないレベルで、深雪先輩に大きな影響を与えているわけですし)」

 

 

 泉美から見ても、深雪は達也に依存しているように見える。自分が達也の代わりになれたらと思った事も一度や二度ではないが、それを実行しようとは思った事はない。そんな事をすれば自分が深雪に嫌われてしまうという事も理解出来ているからなのだが、自分が何かしたところでどうにかなる相手ではないのだ、達也は。そう諦めざるを得ない程、達也の実力は突出していると、泉美は感じている。

 

「(実際にこの目で見たわけではないので何とも言えませんが、一対一で、しかも遮蔽物もない場所であの克人さんを打ち負かしたわけですから……私個人で挑んだところでかすり傷すら与えられないでしょう。それどころか、司波先輩に攻撃を仕掛けた時点で、多数の実力者を敵に回すわけですし……)」

 

 

 自分の姉である真由美や香澄だけでなく、敬愛する深雪や影の風紀委員長と言われている雫、それ以外にも多数の実力者が一斉に自分を攻撃してくることを想像し、泉美は寒気を覚えた。

 

「(ところで、一条さんは司波先輩をライバル視しているとか聞きましたが、あの方は司波先輩の実力をご存じないのでしょうか? 一昨年のモノリス・コードで負けていたと記憶しているのですが)」

 

 

 泉美としては達也に興味はなかったのだが、モノリス・コード決勝は否が応でも注目してしまうものだ。ましてや事故――と言っておく――の影響で急遽参加した選手が活躍していたのだ。注目度は何時も以上になっていたのだから仕方ない。

 そしてその注目されている中で、当時ただの高校生でしかなかった達也に、将輝は真正面から戦って敗れたのだ。しかもオーバーアタックをしたのにも拘わらず。

 

「(どちらにも興味はありませんが、どちらが深雪先輩に相応しいかと問われれば、司波先輩ですかね。そりゃどちらにも深雪先輩を渡したくありませんが、ご自身の実力を過信した結果無様に敗れ去った一条さんには、深雪先輩をお守りする力があるとは思えませんし)」

 

 

 そもそも並大抵の相手なら深雪の力でどうとでもなると思っている泉美ではあるが、彼女は達也の本気を垣間見ているのだ。自分もその場にいたのでより鮮明に覚えている。

 

「(反魔法主義者たちに囲まれ身動きが取れなかった私たちを――まぁ司波先輩は深雪先輩を助けたとしか思っていないでしょうが、魔法を使わずに反魔法主義者を退け助け出してくれたわけですし)」

 

 

 魔法師としての実力ではなく、生物としての上下関係で相手の戦意を喪失させたのだ。将輝に同じ事が出来るとは到底思えない。そう泉美は思っている。

 

「(一条さんには悪いですが、あの人の強さは魔法在りきのものですから。万が一キャスト・ジャミングなどの影響下に置かれたら、一条さんでは何も出来ないでしょうね)」

 

 

 克人のように見た目から強そうなわけではないが、達也には見た目からは想像出来ないくらいの力がある。だが将輝は見た目通りの力しかないだろうと、泉美はそう評価している。

 

「泉美ちゃん、さっきから何を考えているの?」

 

「い、いえ。何でもありませんわ。ただ少し、この場に自分がいる事がおかしいのではないかと思ってしまっているだけですので」

 

「泉美ちゃんだって予選を突破してきたんだから、少しくらい自信を持ってもいいと思うのだけど」

 

「深雪先輩にそう言っていただけて光栄ですが、どう頑張っても四位が最高ですわね。深雪先輩や光井先輩、そして愛梨さんには勝てそうにありませんから」

 

「それって、頑張れば亜夜子ちゃんには勝てそうって事かしら?」

 

「彼女の魔法、疑似瞬間移動は脅威ですが、純粋な魔法力なら私だって負けていません。先輩たちと同じ一高の選手として、無様な戦いはしませんわ」

 

「そう、頑張ってね」

 

 上級生である三人には兎も角、泉美は同級生の亜夜子に負けるつもりは無かった。そんな泉美の気合いの入った態度に、深雪は笑みを浮かべ泉美にエールを送ったのだった。




自分の試合についてはあまり興味が無かった模様……

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