劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1714 / 2283
気にしているのは深雪か、それとも……


ライバルたちの内心

 一高圧倒的有利の状況に加え、予選で飛行魔法を温存して圧勝した深雪と、光球に対して鋭い感性を持ち、去年の本戦、一昨年の新人戦を制しているほのかが出場するということで、一高以外の関係者の殆どは既に終戦ムードが漂っている。

 だが出場している選手はそんな事でやる気がそがれる事はなく、むしろ打倒深雪に燃えている選手もいる。その内の一人、三高の愛梨は対深雪のために特訓した飛行魔法が格納されているCADに視線を向けた。

 

「(今年から導入された飛行魔法を最も効率よく起動できるCAD……達也様がこの大会の為に開発されたと伺いましたが、これを使ったとしても司波深雪に勝てると言い切れない状況……同じ二十八家の人間だというのに、達也様と司波深雪の想子保有量は私たちとは比べ物にならない程ですから仕方ないのかもしれませんし、何より司波深雪のバックには達也様がいらっしゃるのですから)」

 

 

 愛梨個人としては、深雪には勝ちたいが達也の不敗神話を終わらせたくないという気持ちもあるのでこのように考え込んでしまっている。もちろん、チームとしてまだ負けたわけではないので全力で戦うという気持ちはあるのだが、達也の婚約者としての立場から、達也が担当している選手に勝ってしまって良いのだろうかという迷いが生じているのだ。

 

「(新人戦も予想外の苦戦、その上一条達が達也様と戦う前に敗北。辛うじて決勝リーグに進出はしましたが、準決勝の相手は達也様率いる一高……これはもう敗色濃厚と言っても過言ではないですわね。チームとして負けてしまったとしても、個人として負けて良い理由にはなりませんわ。何より司波深雪。彼女を倒さなければどうにも気分が晴れませんし)」

 

 

 四月からの三ヵ月とちょっと、同じ教室で授業に参加して分かった事だが、深雪は決して才能の上に胡坐をかいているわけではない。才能がありしっかりと努力した結果だと、愛梨も重々承知しているのだが、それでも負けたままでは終われないと思ってしまうのだ。

 

「(ですが、司波深雪にだけ気を取られているわけにはいきませんわね……光井ほのか、彼女もまた達也様が担当している選手……光のエレメンツだけあって、光球に対する感性が私たちより高く、一目散に光球に跳びあがれるというアドバンテージがある選手……)」

 

 

 香蓮から聞かされるまでもなく、ほのかの事も愛梨は警戒していた。彼女もまた同じ教室で授業に参加しているわけで、彼女の実力も把握している。そしてほのかの出自――エレメンツの特性もだ。

 

「(彼女の達也様の為に何かをしたいという気持ちは、恐らく彼女の実力以上の結果を出す事に繋がるでしょうし、飛行魔法を使わなくても十分戦えるという戦果を残してきている……なによりあの沓子が負けているのですから)」

 

 

 愛梨から見ても、沓子は同年代の中でもトップクラスの魔法師だ。その沓子に勝ちを収めているほのかは、ある意味深雪以上に意識する存在になりつつあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛梨同様、チームとしての負けなど気にしていない選手は他にもいる。決勝に残れただけで満足している他の選手とは違い、彼女の瞳はまだ諦めていない様子だ。

 

「(文弥に発破をかけて無理させた手前、無様に負けるわけにはいきませんわね)」

 

 

 四高の黒羽亜夜子もまた、自分の実力を正確に把握していながらなお、深雪やほのかに勝とうと闘志を燃やしている。

 

「(疑似瞬間移動があるからといって、深雪お姉さまは飛行魔法、光井さんは私たちが感知する前に光球を見出す事が出来るわけですので、圧倒的不利ですわね……)」

 

 

 亜夜子も他の選手たちよりかは高い感度を有しているとはいえ、ほのかと比べれば霞んでしまう。加えて毎回地面に戻らなければいけない自分と比べれば、ずっと空中で移動出来る深雪の方が有利なのだ。

 

「(達也さんが四高にいらっしゃってくだされば、私も互角以上の戦いが出来たかもしれませんが、達也さんが四高にいるという事は、深雪お姉さまもまた四高にいるという事になるでしょうから、そうなれば深雪お姉さまと張り合おうだなんて思わなかったでしょうね)」

 

 

 自分が考えた『もし』が成立しないと思い直し、亜夜子は苦笑した。あの深雪が達也と別々の学校に通う事を善とするわけがないのだ。

 そもそも達也が一高に通っているのだって、深雪の我が儘の部分が大きい事を亜夜子は知っている。

 

「(達也さんの実力を考慮すれば、高校どころか大学に通う必要すらないのですから)」

 

 

 ESCAPES計画を発表した事に伴い、高校卒業資格と魔法大学への進学が約束されている達也だが、深雪や亜夜子の中ではそんな事は達也なら当然であり、むしろ学校側がお願いして通ってもらうべきだとすら思っている。

 

「(達也さんの今後を考えれば、水波さんの魔法技能が著しく低下しなかったことは幸いと言えるでしょう。もちろん、達也さんがいなかったら成立しなかった方法ですが)」

 

 

 本来の魔法演算領域を封印し、新たに創り出した演算領域で魔法を行使する。かつて真夜と深夜が研究を続けていた人造魔法師計画の応用だが、達也はそれを成功させたのだ。もちろん、本来の魔法演算領域と比べれば見劣りするが、ガーディアンとして活動する分には申し分ない結果を残せているので、亜夜子は水波にした処置は大いに成功だと思っている。

 

「(とにかく、達也さんに呆れられない程度の結果を残さなければ)」

 

 

 結局は達也の事しか考えていない亜夜子は、客席の何処かにいる達也に向けて努力する事を誓ったのだった。




実力者が多いから、深雪だけを意識してるのは危険なんですが……まぁ仕方ないか

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。