九校戦はまだ終わっていないので大々的なお祝いは自重し、達也の部屋に集まってささやかな祝勝会が開かれることになった。ささやかといっても、参加者は多く、先ほどのメンバーに泉美と香澄、そして水波を加えた面子となっている。
「それじゃあ、九校戦総合優勝と、深雪のミラージ・バット優勝、ほのかの準優勝、そして泉美の三位に――」
「「「「乾杯!」」」」
エリカの音頭に合わせ、レオ、幹比古、美月、香澄がそれに倣った。達也と雫、水波は無言でグラスを掲げ、深雪、ほのか、泉美は素直に祝われる側に徹した。
「それにしても、まさか同率三位が三人も出るとは思わなかったわ。さすがハイレベルな試合になるって言われてただけはあるわね」
「泉美ちゃんもかなりの実力者ですし、亜夜子さんや愛梨さんも打倒深雪様を掲げていただけあって残りの二人は眼中になかったようです」
「そう言い切るあたり、水波も戦力分析はしっかりできてるんだね。ボクから見たら、残りの二人もそれなりに戦えてたと思うけど」
「まぁ、達也くんが考案した飛行魔法専用CADを使ってたわけだし、第二ピリオドまでは善戦してたけどね。それ以降は目も当てられない感じだったけど」
「エリカちゃん……」
この場にいない二人に対して酷い事を言い放ったエリカに、美月は批難めいた視線を向けたが、すぐに無意味だと覚って肩を落とした。
「まぁまぁ美月。今日くらいはエリカの好きに言わせてやろうぜ。実際後半は戦えてなかったんだしよ」
「そうかもしれないけど……でも、レオ君もエリカちゃんと同じように言うんだね」
「今回に限ってはそうだな。恐らく観客の殆どがエリカと同じように思ってたと思うぜ」
「そもそも深雪とほのかのバックには達也くんが、愛梨と泉美は二十八家の人間、亜夜子だって四葉関係者だし、一緒に試合に出られただけでも十分だと思うけどね」
「確かにそうかもしれないけど、エリカが偉そうに言う事ではないと思うよ」
幹比古の言葉に、雫とほのかが無言で頷く。よく見れば達也と深雪も苦笑いを浮かべているので、エリカはさすがに反省して頭を掻く。
「それにしても明日で九校戦も終わりか~。そうなったら夏休みね。どっか出かけない?」
「一応受験生になるんだから、勉強とかした方がいいんじゃない?」
「ここにいる面子で勉強が必要なのってレオくらいじゃないの? 後は上位者に名前が載ってるんだから」
「エリカちゃんはギリギリだけどね」
「ギリギリだろうがなんだろうが、名前が載ってるんだから問題ないでしょ」
「達也様に面倒を見てもらって漸く、でしょ?」
「あっ、それは言わない約束でしょ!」
エリカは慌てた風を装っているが、ここにいる全員がエリカが成績上位者の中に入っているのは達也のおかげだと知っているので、それ程焦っているわけではなさそうだった。
そもそも深雪やほのか、雫も達也に分からないところを聞いたりしているので、自力で好成績を収めているのはこの中では達也、幹比古、泉美の三人だろう。もちろん、達也に聞かなくても上位者の中にいるだろうが、達也のおかげだと言い張って聞かないので、達也もそれを否定したりしなくなったのだ。
「まぁ、勉強はするにしても、高校最後の夏休みを勉強だけで終わらせるのはもったいないでしょ? 達也くんの予定が空いていればだけどね」
エリカも達也が忙しい合間を縫って九校戦に参加している事を知っているので、これ以上達也の邪魔をするつもりは無い。本音を言えば婚約者として達也と一緒にいたいのだが、自分たちの我が儘で達也の立場を悪化させようとは考えていないのだ。
「達也さんは私たちといてもいいって言ってくれるかもしれないですけど、無理だけはしないでくださいね。マスコミの熱は収まってきたとはいえ、まだ完全に大人しくなったわけじゃないんですから」
「ほのかの言う通り、私たちは我慢できるから、達也さんが無理をして立場を悪化させるのだけは避けて欲しい」
「あぁ、ちゃんとわかってるから心配するな。さすがにこれが終わってすぐは無理だが、後半になれば時間も作れるだろうから、それまで我慢してくれ」
「もちろんです、達也様。私たちは達也様の邪魔をしたくありませんので、何時までも我慢致します」
深雪の宣言に、雫、ほのか、エリカ、香澄の婚約者組が力強く頷き、水波も控えめに頷いた。水波の立場を考えれば仕方ないのかもしれないが、深雪は水波にもう少し自信を持ってもらいたいという思いを込めた視線を向ける。
「ESCAPES計画の問題だけじゃなく、水波の様子も見ていかないといけないしな」
「今のところ全く問題ありません。達也さまのお陰で私は魔法を諦める事もなく深雪様の護衛を続けられているのですから、達也さまのお時間をこれ以上私がいただくわけにはいきません」
「あら、水波ちゃんだって私たちと同じような立場なのだから、今後達也様に『愛して』いただく時間が欲しいのではないかしら」
「み、深雪様……」
深雪の、ある意味直接的な表現に、水波だけでなくほのかと美月が顔を真っ赤にし、意味が分からなかったレオが幹比古に視線で尋ね、幹比古も顔を真っ赤にしたのだった。
レオはある意味純真だからなぁ……