劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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逆恨みでしかないですがね


憎む理由

 さすがに草原ステージというわけにはいかず、一高VS三高の試合は岩場ステージとなった。とはいっても、将輝の魔法が有利であることには変わりはない。真正面から戦えば将輝の方が有利だという事には変わりはないが、フィールドの優劣など関係ないくらい、達也の力は強大なのだ。幹比古も琢磨も何も心配事はないという表情でフィールドに姿を現わす。

 

「三年間、一条将輝と戦う事になるなんて、入学当初からしてみれば信じられないよ」

 

「吉田先輩は自力で一科生になったイレギュラーなんですから、もうちょっと自信を持ってもいいと思うんですが」

 

「周りか見ればそうかもしれないけど、僕が自信を取り戻せたのは達也のおかげなんだよ」

 

「司波先輩の?」

 

 

 その辺りの事情をよく知らない琢磨は、視線を幹比古から達也に移す。どう見ても緊張とかしてい無さそうな雰囲気の達也を一目見て、すぐに幹比古に視線を戻す。

 琢磨のそんな一連の動作を見ていた幹比古は、琢磨が何を考えたのか理解しているようで、琢磨が口を開く前に事情を説明し始める。

 

「一昨年の九校戦、僕は関係者どころか親に嫌味を言われて観戦しに来ていた。それが気に喰わなくてどうにかしようって焦っていたんだけど、そんなとき達也の容赦のないアドバイスがあったんだ」

 

「容赦のない……」

 

 

 何となくそんな感じだろうと思ったのか、琢磨が顔を引きつらせた。実際に自分がアドバイスを受けたわけではないのだが、そのような心理状況の相手にそんな事が出来る達也を、改めて恐ろしいと感じたのだ。

 琢磨が顔を引きつらせたのを見て、幹比古もまた苦笑する。もし自分が琢磨と同じ立場だったら、きっと自分もそんな表情をしたと考えたのだ。

 

「達也が特殊な目を持っているという事を、その時初めて聞かされたんだ」

 

「特殊な目?」

 

「あぁ。達也は一度見ただけで術式の欠陥が解るんだ。だから僕が使っていた吉田家の術式に組み込まれた無駄を削ぎ落し、僕が使うのに最適な術式を用意してくれた。そして、僕の悪癖を指摘し、そんな事をせずに使えば良いと教えてくれた」

 

「一度見ただけで……」

 

 

 規格外だという事は琢磨も知っていた。だがそこまで規格外だと思っていなかったのか、試合前だというのに冷静さを保てない程動揺してしまう。そんな琢磨を見た達也が、首を傾げながら声をかけてきた。

 

「おい七宝。緊張でもしているのか?」

 

「い、いえ……司波先輩の規格外の度合いを改めて知らしめされまして……」

 

「? 何を言ってるんだ、お前は」

 

「しょうがないよ達也。普通の人間からしてみれば、一度見ただけで術式の欠陥に気づけるなんて驚くよ」

 

「あぁ、一昨年の事を話してたのか」

 

 

 達也も幹比古たちが話していた内容を理解し苦笑する。自分が規格外だという事は散々言われてきたので受け入れているので、そこに疑問を懐く事はしない。だが琢磨がここまで衝撃を受けるものだろうかと首を傾げたくなることは変わっていないので、動作には出さないが達也は心の中で首を傾げていた。

 

「まぁとにかく、無駄話をしてる余裕はすぐになくなるだろう。気持ちを切り替えておけよ」

 

 

 既に反対側から鋭すぎる視線を向けられている事に気付いているので、琢磨も慌てて気持ちを切り替えようと深呼吸をする。この程度で落ち着けるなら苦労しないが、気持ちを切り替えるにはこの手段が最も効率がいいとされているので、琢磨もそれに倣ったのだ。

 

「ゴメンね、七宝君。試合後に話せばよかったかな」

 

「いえ、俺から聞いたんですから」

 

「いや、僕が勝手に話し始めたんだし、一応謝っておかないとね」

 

 

 幹比古の気遣いに感謝しながら、琢磨は気持ちを落ち着かせるためもう一度深呼吸をする。一回目とは違い、今度は少し落ち着けたのか、琢磨はフィールドの反対方向に視線を向け、もう一度達也に視線を向けた。

 

「あの将輝さんがここまで敵視するなんて、司波先輩っていったい何者なんですか?」

 

「四葉の次期当主、って事を聞きたいわけじゃないよね」

 

「はい」

 

 

 その事は琢磨も知っているし、それだけの事で将輝が達也を敵対視するとは思っていない。そして一昨年負けただけで将輝がここまで敵視して来るほど狭量だとも思っていないので、ますます将輝が敵対視している理由が分からないのだ。

 

「詳しい事情は僕も知らないけど、一条くんは深雪さんに一目ぼれしたらしいんだよね。でも深雪さんは達也一筋だし、兄妹じゃなくて従兄妹だって発表され、正式に婚約も発表された事で一条家は四葉家に抗議と、深雪さんとの婚約を申し込んだ。この辺りの事情は七宝君の方が知ってるだろうけど、深雪さんが婚約を拒否したのは達也がいたからだって、一条くんは必要以上に達也を憎んでるらしいんだよね」

 

「そういう事情ですか……」

 

 

 達也に同情しながらも、将輝の気持ちもわからなくはないと琢磨は思った。最初は駒としてしか見ていなかったほのかに恋慕していた時期がある琢磨も、相手にされない辛さは知っているのだ。だがその程度で達也を憎むとは、将輝の狭量さに呆れてしまったので、琢磨は将輝に同情はしなかった。




琢磨の方が大人な気も……

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