劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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新人戦の頃と同じだと思ってるから……


一瞬の油断

 草原ステージ程ではないが、岩場ステージも見通しが良い。つまり三高の方が有利だと思われたが、実際に試合が始まればそんな考えは間違いだったと誰もが思った。達也だけを警戒していた三高とは違い、一高のメンバーは全員を警戒しており、幹比古と琢磨はしっかりと真紅郎ともう一人の足止めをする。

 達也との一騎打ちは将輝としても望むところだったのだが、達也を抑え込めば後は真紅郎の力でどうにか出来るのではないかと思っていたので、この展開は将輝にとっても意外な展開だといえよう。

 だが真紅郎たちの手助けをしている余裕は将輝には無い。彼は今、姿を捉えきれない相手からの攻撃を捌ききるので手一杯なのだ。

 

「(アイツが大会本部に何かを提供していたのは知っていたが、こんな使い方をしてくるとは思っていなかった。アイツが複数のCADを操作できることは知っていたが、常駐型の魔法を使いながら別の魔法まで使えるとは……)」

 

 

 将輝も飛行魔法を使おうとすれば使えるが、達也のように飛行しながら別の魔法を使う事は出来ない。そもそも達也と将輝とでは保有している想子の量が違い過ぎるので、達也のような戦い方をすれば、あっという間に想子が枯渇してしまう。将輝は飛び回っている達也に照準を付ける事を諦め、達也が通過するであろう場所を狙い圧縮空気弾を放っている。

 将輝が苦戦している一方で、真紅郎たちもまた苦戦を強いられていた。幹比古の魔法でインビジブル・ブリットは封じられ、琢磨の魔法で近づく事が難しい状況に追い込まれているのだ。

 

「(一昨年もやられたけど、幻影でインビジブル・ブリットを封じてくるとは……だが、幻影対策はこっちだってしてきてるんだ)」

 

 

 得意魔法にこだわるあまり勝機を逃すのは得策ではない。真紅郎は今年こそと意気込んでいたその気持ちを捨て、移動魔法で幹比古たちを地面に押し付けて戦闘不能にする――つもりだった。

 

「なっ!?」

 

 

 本体に魔法を掛けようとしたその瞬間、真紅郎の魔法は発動することなく終わった。起動式が吹き飛ばされたのだが、達也が使う術式解体は射程が短い魔法だ。少なくとも自分の魔法が妨害されることは無いと思っていたので、真紅郎に与えた衝撃は想像以上のものとなった。

 

「何処からだ! 何処に司波達也がいる!」

 

「吉祥寺、落ちつけ!」

 

 

 冷静さを失っている真紅郎に声をかけ、何とか落ち着かせようとするチームメイトだが、その行動は失敗だったと言わざるを得ない。真紅郎に意識が向いてしまった所為で、幹比古と琢磨の事を一瞬忘れたのだ。その隙を幹比古が見逃すはずもなく、頭上に雷を発生させ意識を刈り取ろうと仕掛けた。

 

「っ! 避けろ!」

 

 

 魔法の兆候を感じ取り冷静さを取り戻した真紅郎が叫んだが、時すでに遅し。幹比古の魔法が三高メンバーの一人を捉える。いくら殺傷力を抑えているからといえ、雷撃を喰らえばすぐに戦闘に復帰する事は出来ない。ここで一人欠ければ圧倒的不利な状況になると真紅郎も分かっているので、彼はチームメイトに魔法を掛けその場から吹き飛ばす。

 

「ガァ!? た、助かったぜ……」

 

「間に合ってよかった」

 

 

 真紅郎の魔法が幹比古の魔法より一瞬早く作用したお陰で助かったが、状況は改善されていない。戦闘不能のダメージを負う事は無かったが、それなりにダメージを受けた身体で戦わなければいけない状態で、目の前の二人を倒せると思える程、チームメイトは自惚れてもいなければ過信もしていない。

 

「吉祥寺、俺が囮になるから、その隙に二人を倒せるか?」

 

「二人は難しいと思うけど、一人なら何とか倒せると思う」

 

「それで十分だ。一対一ならお前が負ける事もなさそうだしな」

 

「何をするつもりなんだ?」

 

 

 岩場の影に隠れている相手を誘き出すつもりなのだろうと真紅郎も理解しているが、突っ込んでいったとして相手が姿を現わすかは定かではない。むしろ陰に隠れて攻撃してくるのだから、姿を曝せば的にされるだけなのではないかと心配しているのだ。

 だがチームメイトはニヤリと笑うだけで何も答えず、立ち上がり相手陣地目掛けて走り出す。途中CADを操作したのが見えた真紅郎は、彼の事を信じ敵を倒す事だけを考える事にした。

 

「あれは『陸津波』か! あれで敵を陰から誘き出し、僕に攻撃させるつもりだったのか」

 

 

 敵がいるであろう場所に魔法を仕掛け、姿を曝させたところを攻撃させる。特攻とも言える戦術に真紅郎は驚きながらも有効な策だと感じた。先ほどまでの状況を考えれば、このくらいしなければ自分たちの不利を覆せない。真紅郎は陸津波が敵を押し出す瞬間を待った。

 だがその瞬間は訪れず、陸津波は発動して一秒持たずに消えてしまう。その光景を見た真紅郎は、先ほど自分の魔法も打ち消された事を思いだし、何故忘れていたのかと反省した。

 

「またしても僕たちの邪魔をするのか、司波達也!」

 

 

 魔法を無効化され、ただただ突っ込んでいったチームメイトがどうなるか、真紅郎にも分かっている。無防備な状態の彼を、敵が見逃すはずがない。

 真紅郎が考えた通り、魔法を無効化されたチームメイトは琢磨の魔法で戦闘不能に追いやられてしまった。そして真紅郎の頭上を幹比古の魔法が襲い、必要以上に大きな回避行動を取った真紅郎もまた、琢磨の魔法を喰らい戦闘不能に陥ったのだった。




初戦噛ませ犬だな

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