劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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こっちは成長してないな……


同じ過ち

 間違いなく自分と対峙していたはずの相手が、真紅郎たちの魔法を無効化したのを受けて、将輝はかなりの衝撃を受けていた。術式解体の欠点は射程が短い事。幾らステージが広くないとはいえ、この距離から届かせることは無理だと思っていたのだから仕方ないだろう。

 しかもそれだけでなく、達也は間違いなく自分の攻撃魔法を撃ち落している最中で、真紅郎たちの方に意識を向ける余裕など無いと思っていたのだ。

 

「(周公瑾を捕まえに行った時も思ったが、司波達也は戦闘に慣れている……だが四葉家の次期当主が戦場に赴いたなんて聞いたこともない……)」

 

 

 達也が次期当主として表舞台に出てきたのは最近だが、それでも四葉家の情報は常に父親が探っていたはずだと将輝は考え、例え次期当主でなかったとしても達也が戦場に赴いていればそれなりの情報は入っているはずだと考える。だがそんな事は一度も聞かされたこともなく、その情報を信じるのであれば、自分の方が実戦経験は豊富なはずなのだ。

 しかし実際に達也と対峙してみれば、そんな考えは当てはまらないという事を実感できる。自分の攻撃は確実に相手を仕留めるに足る威力を持っているというのに、その事に委縮するどころか、自分から意識を逸らす余裕すら相手にはあるのだ。どちらが実戦経験豊富かと問われれば、相手の方があるだろうと答えると、将輝はそう思った。

 

「(司波達也はたんなる技術者じゃないという事は分かっていた。あの老師が期待しているのも知っていた。アイツの実力が相当高い事も身をもって体験していたというのに、俺は心のどこかでアイツの事を下に見ていたのかもしれないな……)」

 

 

 達也が得意としている術式解体は射程が短く、射程外から攻撃すれば自分たちが有利だと試合前は思っていたのだが、始まってみればそれが勘違いだったと思い知らされた。明らかに射程外のはずだった真紅郎たちの魔法を無効化し、それでいて自分の攻撃を喰らう事なく飛び回っているのだ。並大抵の魔法師ならそんな芸当が出来るはずがない。

 

「(まさか司波さん以上に飛行魔法に適性があるとでもいうのか……)」

 

 

 飛行魔法の開発者なのだから、それなりに使えるだろうとは真紅郎も言っていたが、まさかここまでとは考えていなかった。もしかしたらアレンジを加えているのかもしれないと思ったが、将輝にその場で魔法を解析する術はない。

 

「(ジョージたちが倒されてしまった以上、司波達也だけに意識を向けているわけにもいかないな)」

 

 

 将輝は達也に向けて放つ魔法の数を減らし、減らした分の魔法を幹比古たち目掛けて放つ。岩場の影に隠れているとはいえ、将輝の魔法ならその岩ごと吹き飛ばす事が出来るので、有効な手だと言えるだろう――達也がいなければ。

 将輝が幹比古たち目掛けて魔法を放った瞬間、その空気弾は幹比古たち目掛けて飛んでいく事なく消えてしまった。元々自分に向けられていた数と変わらなければ、達也が撃ち落せないはずもないのだと理解した将輝は、攻撃を続けたままモノリスを守る為に走り出す。

 

「(黒羽文弥に意識を向け過ぎた所為で予選ではモノリスを攻略されてしまった。だが今回はそのミスは犯さない。少し経てばジョージたちの意識も戻るだろうし、そうなればまだ分からない)」

 

 

 完全な戦闘不能には陥っていないだろうと考え、将輝は時間を稼ぐ作戦に変更したのだ。モノリスさえ攻略されなければ、自分が戦闘不能に陥る事などありえないと考えての行動だったのだが、それが間違いだった。

 いくら攻撃を続けているとはいえ、意識をモノリスの方へ向けているので、そこに隙が生まれる。そしてその隙を達也が見逃すはずもなく、将輝に初めて攻撃魔法を仕掛けた。

 達也が得意としている無系統魔法『幻衝』が将輝を捉える。普段の将輝なら防げたかもしれないが、意識を分散させていた所為で対応が遅れてしまう。

 

「グッ!?」

 

 

 想子の衝撃波を浴びせられ、一瞬脳震盪を起こしその場に倒れそうになる。だがここで倒れたら負けだという気持ちだけで何とか踏ん張ったが、そんな将輝に容赦のない攻撃が襲いかかる。

 幹比古の『雷童子』と琢磨の『ミリオン・エッジ』、そして達也の『幻衝』の三つが将輝目掛けて襲いかかってくる。頭では理解していても、まだ動ける状態に無い将輝は、どうにかしてこの状況を打破しようとCADを操作した。

 

「しまった!」

 

 

 その行動は一昨年、自分たちの圧倒的有利を確信した瞬間に感じた恐怖から逃れる為に行ったのと同じ、加減無しの攻撃を繰り出すというものだった。

 あの時は達也だったから何ともなかったが、今回は達也だけでなく幹比古と琢磨もいる。この二人が達也と同じように無傷で済むはずがないと理解し、将輝の顔から血の気が失せる。

 だが将輝の攻撃は全て達也が無効化し、それを見る事無く将輝は三人の魔法によって意識を刈り取られた。

 

『試合終了。勝者第一高校』

 

 

 将輝の戦闘不能が確認されすぐに試合終了のサイレンが鳴り響いた。観客たちは一瞬だったので気付いていないようだったが、その中に将輝の暴挙を認識していた人間がいてもなにも不思議ではない。そしてその人間が将輝に対してどのように思うのかも、さほど難しい問題ではなかった。




達也からのプレッシャーは、戦場を知ってる人間ほど恐怖するものですから

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