自分の攻撃が単調になり始めているのを感じつつも、それを修正出来ない状況を、光宣は何処か他人事のように感じていた。
「(焦ってる? 僕が? 確かに相手はそれなりの実力者だし、攻めきれない可能性は考えていた。なのにどうして焦ってるんだ?)」
自分の事なのに自分が理解出来ないという状況になるのが初めてなので、光宣はそんな風に思ってしまったのだ。だいたいの事は自分一人で解決出来るだけの頭脳があり、今の光宣の中にはもう一人存在している。だからこのように焦ったとしてももう一人の自分が諫めてくれたり、自分自身で落ち着きを取り戻せるはずだったのだが、何故解決出来ていないのか、そっちが気になってしまっていた。
「(何か不確定要素があるのだろうか? それとも、自分の知識に無いものを知りたいと思ってしまっているのだろうか)」
最早光宣の興味は試合から自分の精神状態を律せない自分自身に向いてしまっている。その所為で攻撃がより単調になっているのだが、一撃一撃が高い威力を保っているので決定的な隙にはつながっていない。
それでも最初の頃と比べれば文弥から放たれる攻撃魔法の回数は増えている。だがその程度で動揺するはずがないと分かっているので、光宣は無意識にその攻撃を捌きながら自分の精神分析を続けた。
「(達也さんの関係者だという事を軽視し過ぎていた? いや、現に一条のプリンスがやられているんだから、軽視するわけがない。達也さんの関係者だという事を差し引いても、警戒に値する相手だと思っていたはずだ)」
這い寄る雷蛇と青天霹靂を交互に放ちながら、光宣は観客席の何処かにいるであろう達也の存在を探していた。もし達也に負けたことが原因だったというのなら、彼の存在を認知した瞬間に何か分かるかもしれないと考えての行動だったが、達也の存在を認知しても光宣の心に変化は起こらなかった。
「(達也さんの事が原因ではないとすると、いったい何だというんだ……お祖父さまに申し訳が無いという気持ちだけでここまで焦っているとも考え難い……水波さんに無様に負けるところを見られたくない、という思いとも違うし……)」
自分が水波の事を想っている事は光宣も自覚している。だが彼は力ずくで水波を手に入れようとは思っていないし、ここで活躍したからといって水波が自分に靡くとも思っていない。だからその考えも排除していき、ますます混乱していった。
「(達也さんがどうやって水波さんを治したのかが分からなくて焦っているのか? だがそれなら前の試合からこんな気持ちじゃなきゃおかしい……そもそも実際に達也さんと対峙した時にそう思わなければ説明が付かないだろう……)」
様々な可能性を思い浮かべては否定し、また思い浮かべては否定しを繰り返しながらも致命的なミスを犯さない光宣は、間違いなく優秀な魔法師だと言える。だが周りの評価などあまり気にしない光宣にとっては、意味のない結果でしかなかった。
明らかに自分の方が有利になっているというのに攻めきれない状況に、文弥は焦りはしなくても苛立ち始めていた。
「(僕の手数は間違いなく増えている。それなのに決めきれていない……相手は強敵だって分かっていたのにこんな思いを懐くなんて……僕もまだまだという事か)」
自分の力を過信していない自信はあっても、自分の心を完全に御せるとは文弥も思っていない。むしろ感情的になりやすい質なのではないかとさえ思っている。
「(この戦いを経て僕は、更なる成長の糧を得た……後はそれをどう活かすかだけども、達也兄さんに相談するのは違うんだろうな……)」
実戦経験で言えば、達也のそれは文弥と比べ物にならない。だから文弥は達也を目標にはしていない。達也と自分とでは、目指す場所が違い過ぎるからだ。憧れてはいるが、目標にはならない。その事を理解しているから、文弥は今まで達也に戦闘の事を相談した事は殆どなかったのだ。
「(戦術を増やす相談なら、達也兄さんにした方がいいんだろうけども、相談するにしてもまずは自分である程度の目途をつけてからじゃないと……達也兄さんに頼りっきりじゃ意味がないんだから)」
自分はあくまでも分家の次期当主で達也は本家の次期当主だという自覚を持ちすぎている文弥は、気軽に相談して良い相手では無いと勝手に思い込んでいる。本当はもっと達也と話したいという思いがあるのに、立場を弁えた態度しか取れない自分を恨んだりもしているのだが、決してそれを表には出さないようにしている。
「(とにかく今は、この状況をどうにかしなければ)」
膠着状態は抜けつつあるとはいえ、少しでもミスをすればあっという間にやられてしまうという状況に変わりはない。文弥には光宣の精神状態など気にする余裕はないのだ。自分の方が下だと分かっているから、一瞬たりとも気が抜けないと思い込んでいる。その所為で光宣が心ここにあらずな状態だと気付けていない。もしその事に気付けるだけの精神的余裕が文弥にあれば、彼はここまで悩まずに済んだかもしれない。
集中しているようで集中していない……