劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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次世代組をやりたかったので


あっという間の決着

 一高VS四高の試合は、始まってすぐ決着したといっていいくらい盛り上がりに欠けた試合となった。四高の思惑としては、文弥に達也の足止めをしてもらっている間に幹比古の古式魔法を攻略しようとしていたのだが、その足止めが機能しなかったのだ。

 四高の中では文弥程の実力なら、多少なりとも足止めとして使えると思っていたのだろうが、達也の実力は四高が考えていた以上だったのだ。

 

「どういう事だ!? 黒羽がもうやられたというのか」

 

「司波選手がここにいるって事は、そういう事だろうな……」

 

 

 前方の幹比古と琢磨をどう対処するかに頭を悩ませていたところに、背後から達也の無系統魔法が飛んできたのだ。冷静な対処が出来なくなってしまっても仕方がない。むしろ、文弥が既にやられてしまったという事実に動揺しているのかもしれない。

 

「黒羽に任せていてばっかりだったし、これは終わったかもしれないな」

 

「無抵抗に負けるのは情けなさすぎる。せめて一太刀浴びせてやろうじゃないか!」

 

 

 覚悟を決め特攻を仕掛ける四高の二人だったが、幹比古の前にたどり着く前に琢磨の魔法に沈められた。二人の戦闘不能が確認されたのだろう。会場中に試合終了のサイレンが鳴り響いた。

 

「達也、早かったね」

 

「そうか? 少し手こずったと思ってたんだが」

 

 

 沈んでいた意識が回復していく中、そんな会話を聞いた四高選手は、自分たちとは次元が違い過ぎたと思い知らされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気絶していた文弥が意識を取り戻した時、最初に認識したのは自分の事を心配そうにのぞき込んできていた姉の顔だった。

 

「姉さん……」

 

「随分酷くやられちゃったわね」

 

「仕方ないよ、達也兄さんが相手だったんだから……」

 

 

 周りに他の生徒がいるが、文弥は何時も通りの呼称で達也の事を表現する。亜夜子が達也の婚約者の一人だという事は皆知っているので、脳内で勝手に『義兄』と変換してくれると確信しての事で、亜夜子もそれを理解しているので文弥を咎める事はしなかった。

 

「まだ貴方の『義兄』じゃないのだけど?」

 

「でも、姉さんの旦那さんなら僕にとって『兄』も同然だろ?」

 

 

 万が一疑念を懐いた人がいた場合を考え、わざとらしくないようこのような会話を交わす。それで完全に疑いが無くなったようで、文弥は亜夜子にだけ見える角度で笑みを浮かべる。

 

「他の二人は?」

 

「既に意識も回復してるし、達也さんにやられたわけじゃないから大丈夫よ。というか、文弥……貴方ちょっと軟弱すぎるんじゃない?」

 

「準決勝が死闘だったんだ。それを考慮して発言してよ」

 

「死闘だったのは向こうも同じでしょ。達也さんはクリムゾン・プリンスとカーディナル・ジョージの二人を相手にしてたんだから……まぁ、一瞬で片づけたからカーディナル・ジョージを相手にしてた意識はないでしょうけども」

 

 

 達也は真紅郎の魔法を無効化していただけで、実際に戦っていたのは幹比古たちなのだが、文弥はその事にツッコミを入れる事はしなかった。

 

「僕だってその二人とは戦ったんだけど」

 

「貴方は殆ど死に体だったじゃない。私の言葉で奮起したとか言ってたけど、それが無かったら負けてたのよ?」

 

「それはそうかもしれないけど……」

 

 

 事実亜夜子の声が届かなかったら諦めていたので、文弥はシュンとしてしまう。その仕草が女子生徒を――男子生徒の一部も――キュンとさせているのだが、文弥はその事を知らない。亜夜子も文弥にその事を教えたりしない。

 

「とにかく準優勝だったんだから、必要以上に落ち込む事はないんじゃないかしら」

 

「誰が落ち込ませてるのさ」

 

「あら。文弥は私が貴方の事を苛めて楽しんでいるとでも言うのかしら?」

 

「別にそうは言って無いけど、姉さんがいろいろと考えさせているのは否定しないよね?」

 

「反省が貴方を成長させるのだから、色々と考えさせるのは当然でしょ? 貴方一人じゃ何時まで立っても反省しかしないから、こうやって私が指摘してあげてるの」

 

「もうちょっと容赦してくれたって良いじゃないか。僕だって鈍感じゃないんだから」

 

「それはどうかしらね?」

 

 

 周りの女子生徒からの視線に気づけていない弟に、亜夜子は皮肉めいた視線を向けるが、文弥はその視線の意味を正しく理解していない。何故亜夜子がそんな視線を向けてくるのか分からずにもう一度首を傾げながら亜夜子の顔を眺める。

 

「姉さんは何を言いたいのさ」

 

「少しは自分の頭で考えなさい。何時までも私が教えてあげられる問題じゃないの」

 

「だから何なのさ……」

 

 

 自分が人から向けられている好意に鈍感なのは文弥も自覚している。だがそんな事を亜夜子が心配しているなどと思っていないので、文弥はますます首を傾げて亜夜子の真意を覗き見ようとする。

 

「とにかく意識が戻ってよかったわ。達也さんも心配してたみたいだから、後で報告しておくわね」

 

「達也兄さんが?」

 

「……貴方、本当に達也さんの事が好きなのね」

 

 

 最後の言葉は文弥に聞こえる程度の声量だったので周りには聞かれなかったが、亜夜子の言葉に文弥は顔を真っ赤にして口をパクパクさせたのだった。




光宣と文弥は来年がある……はず

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