劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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下校デート?


駅までの帰路

 生徒会業務をある程度終わらせると、服部が申し訳なさそうに真由美に申し出る。

 

「会長、まことに申し訳無いのですが……」

 

「大丈夫、はんぞー君の事も分かってるから。それにリンちゃんも用事あるんでしょ? 後は私と深雪さんでやっておくから」

 

「申し訳ありません」

 

「良いって。その代わり明日は働いてもらうからね」

 

 

 真由美の冗談めいた言葉に、鈴音は微笑み、服部は律儀に本当だと受け取って頭を下げた。この真面目さが真由美にからかわれる原因なのだろうが……なおあずさは明日の事を考えて早々に帰している。

 

「では会長、また明日」

 

 

 服部と鈴音が生徒会室から居なくなり、すぐに真由美は深雪に話しかける。

 

「深雪さんも帰っていいわよ。後は私がやっておくから」

 

「いえ、今帰れば服部先輩が気に病みますし、もう少し此処で待たせてもらいたいのですが」

 

「ひょっとして達也君?」

 

「はい、電波の入らない場所に居るようでして」

 

「地下にでも潜ってるのかな?」

 

 

 図書室の地下閲覧室は授業には使われないが貴重な資料を保管してある為に通信端末を使えない。情報を端末に打ち込んで外部に持ち出すことも出来ないようにしてあるのだ。

 

「それなら仕方ないわね。それじゃあもう少し手伝ってもらいましょうか」

 

「畏まりました」

 

 

 真由美の申し出に深雪は素直に頷き、残っていた作業を片付け始める。暫く作業していると、ID登録者の入室を知らせる音が聞こえた。

 その音を聞きつけ深雪は颯爽と立ち上がり入ってくる人間を待ち受ける。そして深雪の想像通りの人物が生徒会室に入ってくる。

 

「待たせたね」

 

「お兄様、お疲れ様です」

 

「深雪もご苦労様」

 

「貴方たちホントに兄妹なの?」

 

「おや、会長一人ですか?」

 

 

 達也があっさり流したので、真由美もそれ以上余計な事は言わないで会話を続けた。

 

「見ての通り一人よ。達也君を待ってた深雪さんと仕事を片付けてたの。それで達也君は地下に潜って何を調べてたの?」

 

「賢者の石についての文献を。データ化された資料にはめぼしいものは無かったもので」

 

「随分とマニアック……いえ、本格的な調べ物ね」

 

「才能の不足を道具で補えないものかと思いまして」

 

「そう……って!」

 

 

 一瞬達也に同情しかけた真由美だったが、九校戦で見せた達也の魔法を思い出して大声を出した。

 

「対抗魔法『術式解体』が使える魔法師が何を言うのよ! それが使えるだけで軍からでも警察からでも引く手数多でしょうが!」

 

 

 大声でまくし立てると、真由美は少し間を開けてから達也に真剣な眼差しを向けた。

 

「ねぇ達也君、あまり自分を『劣等生』だと言い触らすのは止めた方がいいわよ? 貴方は普通の魔法師とは少し違うんだから」

 

「別に言い触らしてはいないのですが……気をつけます」

 

 

 真由美にジト目を向けられて、達也はとりあえず言い訳をするのを諦めた。これ以上話していると墓穴を掘りそうだと感じたのだろう。

 

「ところで仕事はまだ残ってるのですか? もしそうならば手伝いますけど」

 

「あら珍しい。雪でも降るんじゃないかしら」

 

「俺には無理ですが妹には造作も無い事ですよ。深雪、会長が雪をご所望だ」

 

「畏まりました。如何ほどに致しましょうか、お兄様?」

 

「そうだな……十センチもあれば十分だろ」

 

「ストーップ! 雪なんて降らせなくていいから!」

 

「もちろん冗談だったのですが?」

 

 

 達也の人の悪い笑みに、真由美は全身の力を抜いた。イタズラでも何でも、達也に勝てそうに無いと理解した瞬間だったのだ。

 

「冗談はさておき、ホントに残ってるのなら手伝いますが」

 

「大丈夫よ。もう殆ど終わってるから」

 

「そうですか」

 

 

 達也があっさりと引き下がったのに、真由美は少し不満げに頬を膨らます。だがすぐ次の提案が深雪から発せられた。

 

「会長、よろしければ駅までご一緒に行きませんか?」

 

「あれ、みんなは?」

 

「調べ物に時間がかかるのは分かってましたからね。今日は先に帰しました」

 

「そうなんだ……じゃあご一緒しよっかな」

 

 

 少し考え、渋々ながら提案を受け入れた感じで答えた真由美だったが、表情が嬉しそうなのに達也も深雪も気付いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駅までの道程を半分ほど過ぎたところで、真由美は達也に話しかけた。

 

「ねぇ達也君。これって摩利に頼まれた事でしょ? お昼休みに話題になった反対派が襲ってこないように見張れって」

 

「良くお分かりですね」

 

 

 深雪が答えたのは、達也がバラしたのではなく自分が真由美に教えた事にすれば達也が責められないと思っての事だ。もちろん達也がバラしたとしても、摩利は責めたりしなかったのだが。

 

「大丈夫よ。CADも持ってるし、ボディーガードも居るからね」

 

「そうなのですか?」

 

 

 深雪が慌てて辺りを見渡すのを見て、真由美は噴出しそうになった。

 

「駅に待たせてるのよ」

 

「つまり家まで送る必要は無いと言う事ですか」

 

「そういう事」

 

 

 達也は周りから来る嫉妬の視線に気付き苦笑いを浮かべる。だが真由美にはその苦笑いの理由は別だと思って放って置く事にしたのだった。

 

「何故会長は深雪の申し出を受けたのですか?」

 

「う~ん……楽しそうだったからかな?」

 

「楽しそう?」

 

「うん。生徒会長になってから半年間も楽しかった。リンちゃんやあーちゃん、はんぞー君が居てくれたからなんだろうけども、残り半年の方が楽しかったの。きっと達也君や深雪さんが居てくれたからなんだろうね。だから一緒に帰ってみたいと思ったの」

 

「そうですか。でも深雪は兎も角俺は関係無いと思いますけど」

 

 

 達也が否定すると、真由美は面白そうに笑っていた。

 

「達也君ってさ、意外と照れ屋さんなの? 普段は年齢偽ってるんじゃないのって思うけど、こういとこは歳相応なのね」

 

 

 普段から年齢詐称を疑われている達也は、苦笑いの中でも特別苦味の強い笑みを浮かべた。

 

「達也君は否定したけど、やっぱり達也君も居てくれたからこんなに楽しかったんだと思ってるよ。だから、ありがとうね」

 

 

 並大抵の男子高校生なら鼻血を出すかもしれないほどの可愛らしい笑みを浮かべた真由美を、達也は眺めていた。

 

「(黙っていれば可愛らしいのだがな……)」

 

 

 年上だが何となく妹のような感覚に陥る瞬間がある先輩を眺めながら、達也はそんな事を考えていた。

 

「それじゃあここで。また明日ね、達也君! 深雪さん!」

 

 

 駅に着きボディーガードの壮年の紳士に真由美を引き渡し、達也と深雪はキャビネットに乗り込むのだった。深雪は達也が何か考えているのを横で眺めていたが、達也が何かを話してくれるまで待つ態度を崩す事は無かったのだった。




いったい誰に嫉妬するのが正解なんだろう……

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