劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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珍しく女子が少ない


達也の周りには

 後夜祭ということで、学校の垣根を気にする必要が薄れている。試合で活躍した相手に声をかける勇気があるものは、他校の生徒だろうが関係なくダンスに誘っている光景があちらこちらで見られる。

 そんな中達也は他校の女子生徒――ではなく男子生徒から声を掛けられていた。

 

「達也さん、今回は僕の負けです」

 

「今回『は』ってどういう意味です? 達也兄さんは今年で卒業しちゃうんですから、次回なんて無いと思いますが」

 

 

 達也の正面から声をかけてきた光宣に反論したのは、達也の背後から声をかけてきた文弥だった。光宣の事は目で、文弥の事は気配で認識していたので驚きはしなかったが、文弥が光宣に敵愾心むき出しな事には少し驚いた。

 

「ごきげんよう、達也さん」

 

「亜夜子か。文弥のやつ、どうしたんだ?」

 

「嫉妬してるんだと思いますよ」

 

「嫉妬?」

 

 

 まるで自分の質問を予期していたかのような返答に、達也はその意味と共に何故亜夜子が予期できたのかを考える。

 

「文弥は達也さんに認められている光宣さんの事が羨ましいんです」

 

「俺は文弥の実力も認めてるつもりなんだがな。長引かせると厄介だから、文弥の事は素早く戦闘不能にしたんだ」

 

「それは私も理解しています。ですが文弥の場合、少しでも達也さんと戦っていたい、見かけだけでも善戦していたかったという気持ちが強いのです。それをした光宣さんが羨ましくてしょうがないのでしょう」

 

 

 年の離れた姉が幼い弟を見詰めるように、慈愛に満ちた視線を文弥に向けている亜夜子。そんな視線を向けられているとは思っていなかった文弥は、達也の方へ視線を向けて同時に視界に入った亜夜子に気づき首を傾げる。

 

「姉さん、何でそんな目で僕を見てるのさ」

 

「なんでもないわよ。それよりも、ちゃんと達也さんに挨拶しなさい」

 

 

 表向き未来の義兄という事になっているので、達也は文弥に対してよそ行きの態度で接する。

 

「久しぶりだね、文弥君」

 

「は、はい。お久しぶりです、達也義兄さん」

 

「文弥、何度も言っているけども、まだ貴方たちは義兄弟じゃないのよ? その呼び方は早いんじゃないかしら」

 

「でも、達也義兄さんが卒業したらすぐに籍を入れるんだろ? だったらそう遠くない未来の事じゃないか。姉さんは気にし過ぎなんだよ」

 

「じゃあ僕もそう呼んでもいいですか? 僕にとって姉同然である響子さんが結婚するんですから、僕にとっても達也さんは義兄当然の関係になるわけですし」

 

 

 黒羽姉弟の茶番を他所に話を進める光宣に、またしても文弥が噛みつく。自分と同じポジションを狙っていると理解し焦りを覚えたのだろう。

 

「君と藤林さんは実の姉弟じゃないだろ! 何で君が達也さんの事を『義兄』って呼ぶんだよ」

 

「どう呼ぶのかは僕の自由じゃないか。それに、達也さんが嫌がれば呼ぶつもりは無いけど、達也さんはこんなことを気にするような人じゃない。それは君だって分かってるだろ?」

 

「当たり前だ。達也義兄さんはそんなに心の狭い人じゃない」

 

 

 文弥と光宣の衝突を、周りの人間は小動物の言い争いを見ているような、何故か和んでいる雰囲気を醸し出している。達也と亜夜子も特に止めようとはせずに、思う存分やらせておけばいいという感じで二人を眺めていた。

 

「ちょっといいか、司波達也」

 

「何か用か、一条」

 

 

 二人の言い争いを他所に近づいて来ていた気配に返事をし、達也は身体ごとそちらに向きを変える。声をかけてきたのは真紅郎だが、その隣の将輝が本命だろうという事で、達也は将輝の名前しか呼ばなかった。その事に真紅郎がムッとした表情を浮かべていたが、達也は取り合わずに将輝に視線を固定し、用件を言うように視線で促した。

 

「術式解体は射程が短いのが欠点だったはずだ。普通ならあの距離の魔法を撃ち落とす事は出来ない。なのになぜお前はあの時ジョージの魔法や吉田幹比古を狙った俺の魔法を撃ち落せたんだ」

 

「僕は一瞬、君が『術式解散』を使ったのかと思ったけど、あの魔法は研究所内ですらまともに成功しない魔法だ。君が使えるわけがない」

 

 

 この真紅郎のセリフに、文弥と言い争っていた光宣が笑みを浮かべた。その笑みに真紅郎は気づかなかったが、文弥はいきなり笑みを浮かべた光宣を不審に思ったが、達也から光宣の『眼』のことは聞かされていたので、すぐにその意味を理解した。

 

「達也さんはトーラス・シルバーの片割れ――ソフトウェアの開発を担当されていたんですから、術式解体の欠陥を補う術式を開発していたとしても不思議ではないと思いますが? 達也さんの技術力の高さは、貴方たちの方がよく知っていると思っていましたが」

 

 

 光宣の言葉を受けて、将輝と真紅郎は同時に視線を逸らす。将輝の戦略級魔法を開発したのは達也で、真紅郎は最後の調整をしただけに過ぎない。もし一からあの魔法を創れと言われても、真紅郎には出来ないだろう。

 

「というか一条さん。あれだけ勝つ気満々で挑んで、決勝にすら進めなかったんですよ? 次期当主として恥ずかしくないんですか?」

 

「な、なんだと!」

 

「達也さんをライバル視してたみたいですけど、僕や黒羽文弥君にすら勝てなかったんですから、少し大人しくしてたらどうでしょう」

 

 

 光宣の容赦のない侮蔑に、将輝と真紅郎は言い返そうとしたが出来ず、すごすごとその場から逃げ去ったのだった。




情けないぞ、将輝……

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