劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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まぁ、仕方ないよな……


リーナの苦手分野

 待ちに待った達也がやってきたというのに、リーナの機嫌は下降気味だった。ミアから言われてた通り、達也は巳焼島に遊びに来たわけでも、リーナの様子を見に来たわけではない。彼はこの島に研究しに来ているので、リーナの相手をしている時間はないのだ。

 その事を理解しながらも心のどこかで期待していたリーナだったが、達也が軽く挨拶を交わしただけで研究施設に入ってしまったので、気持ちの切り替えが上手くできなかったのだ。

 

「ミア、少し付き合ってください」

 

「リーナ……顔を見ただけで満足、というわけにはいかないのですか?」

 

 

 リーナがそのくらいで満足するわけがないとミアも分かっているが、達也の立場を考えればすぐに研究施設に行ってしまうのも仕方がないのだ。こちらが我慢するしかないのではないか、というのがミアの考え方だ。リーナもその事は理解してくれたはずだとミアは思っているし、リーナもミアの考えが正しく、自分が駄々をこねているだけだという事も理解している。

 だが二週間も会えなかった相手と漸く会えたというのに、一瞬だけ言葉を交わせただけで満足しろと言われても、リーナは満足出来なかったのだ。

 

「確か達也が用意してくれた訓練施設があったわよね。あそこでストレスを発散するとしましょう」

 

「リーナが派手に魔法を撃ちまくった所為で、修理が大変だとこの間花菱さんが言っていましたが」

 

「四葉の技術のお陰で、スイッチ一つで直るんじゃない。何が大変なのよ」

 

 

 達也個人の力だけでなく、四葉家としての技術力も相当なものであると、リーナはこの島で生活した数ヶ月でその事を実感していた。同じようにこの島を整備しようとしても、自分たちにはこのような事は出来ないと思わせる程、その技術力は素晴らしいものであると。

 その四葉家の技術力があれば、例え自分が暴れたとしても次の日にはこの島は元通りになっているはずなのだから、修理が大変なわけがないと、リーナはそう思っていた。

 

「確かに四葉家の技術力はかなりのものだと私も思っています。ですが、戦略級魔法師であるリーナが暴れて、一晩で全て元通りというわけにはいきませんよ。ですから、ここ数日訓練施設への立ち入りは禁止されていたでしょうが」

 

「そうだったっけ? ここ数日は達也や深雪の試合を観てたから分からないわ」

 

「ちゃんと観てたんですね……」

 

 

 リーナが九校戦の中継を観ていたことはミアも分かっていたが、そこまでしっかりと観ていたとは思っていなかったので、訓練施設への立ち入り禁止を知らなかったことに驚いてしまった。

 

「なんか外がうるさいな、とは思ってたけど、あれって訓練施設の修復工事だったのね」

 

「壊した張本人が知らなかったとは……」

 

「だって、達也が参加する競技が始まったんだから、そっちに集中するに決まってるじゃない。というか、正直前半戦は殆ど興味なかったし」

 

「ほのかさんや雫さん、ミキさんたちが参加してたんですから、応援してたんじゃないんですか?」

 

「そりゃ応援はしてたけど、達也に会いたいなーって思いながらだから、それ程真剣に応援してたわけじゃないわよ? というか、応援しなくても勝てるとは思ってたから、達也の試合も応援せずに観戦してたんだけど」

 

「その気持ち、分からなくはないですが……」

 

 

 リーナが言うように、達也ならこちらが応援しなくても勝つに決まっているとミアも思っていた。だがそれでもテレビの前で応援していたのだ。だがリーナは達也の勝利を確信し、ただ観戦していただけだと聞かされ、ミアはガックリと肩を落とす。

 

「会えない寂しさがどうこう言っていた人が、婚約者の試合をただ観戦していただけとは……」

 

「だ、だって! 達也を負かせる魔法師がいるとは思えないし! 精々大怪我してより注目される展開にならないよう祈るくらいしかする事なかったんだもん」

 

「今年も確かに危ない場面がありましたが、今の達也さんは深雪さんの封印からも解放されていますので、あの程度の魔法で大人しくできるとは思えません」

 

「そりゃ達也なら将輝の攻撃を喰らったところで大丈夫だっていう事は分かってる。でもみんなが達也の事を知っているわけじゃないんだし」

 

「その事は達也さんだって分かっているでしょう。だから一条将輝の相手をする時は余計な事を考えないようにしていたんだと思います」

 

「……何でミアがそんな事知ってるの?」

 

 

 まさか自分に隠れて達也と話したのかと一瞬疑ったが、ミアの表情が自分が勘違いをしていると雄弁に語っていた。

 

「な、なにその眼は……」

 

「いえ、試合をしっかりと観ていれば分かる事だと思っただけです」

 

「ど、どうせ私には冷静な分析なんて出来ないわよ! というか、そういうのは殆どベンやシルヴィにまかせっきりだったし……」

 

「今はそのお二人は側にいないのですから、少しはご自身で観察してみるのをお勧めします」

 

「ひ、人には向き不向きがあるのよ……」

 

「はぁ……」

 

 

 まるっきり反省の色が見られないリーナに、ミアはこれ見よがしにため息を吐いてみせた。すると少し居心地の悪さを覚えたのか、リーナの表情に反省の色が現れ、ミアはとりあえず今はそれで良いかと思ったのだった。




これでも隊長だったんだよな……

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