劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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達也の邪魔さえしなければ安全なのに


母国の現状

 いくら研究に来ているからと言って、少しくらい会う時間くらいあるだろうと思っていたリーナだったが、達也は一向に施設から出てこない。その事が苛立ちに繋がり、修復作業を終えたばかりの訓練施設を再び派手に壊してしまった。

 

「リーナ、貴女……」

 

「か、加減してたんだからね! ただちょっと、達也の様子が気になって力が入っちゃっただけで……」

 

「それは加減してたとは言いません」

 

 

 爆発音を聞き訓練施設に飛び込んできたミアは、その惨状に頭を押さえている。普段自分の前でそんな態度を見せないミアが我慢出来ないくらいの事をしたのかと、リーナはとりあえず反省する。

 

「いったい何をどうしたらここまで派手に破壊できるんです?」

 

「腕が鈍らないように的を出して攻撃してたんだけど、つい力んじゃって……」

 

「USNAから逃げ出した時を思い出したんですか?」

 

「そうじゃないわよ……だいたいあの時は、相手を消し去るつもりなんて無かったし」

 

 

 自分が殺されそうになっても、仲間を殺す事に躊躇いを覚え、本気で戦えなかったことを反省しているが、今同じ状況に陥っても相手を殺せるわけがないとリーナは思っている。家族同然に育った仲間を殺す事は、アンジー・シリウスとして活動していた時でさえ抵抗があったのだ。アンジェリーナ・クドウ・シールズとして出来るわけがない。それは九島リーナになったからといって変わらない。

 その事をミアも知っているので、リーナがそのような状況に陥らないよう身の回りの世話を理由に行動を共にしているのだ。日本にくればとりあえず落ち着くだろうと思っていたのだが、リーナの心はUSNAにいた時より乱れているようにミアには思えていた。

 

「これは少し相談した方がいいでしょうね」

 

「相談? 誰に、何を?」

 

「リーナがこれ以上施設を破壊しないよう、四葉の方たちに相談をしてどうにか出来ないかと思いまして」

 

「わ、私だって壊したくて壊してるわけじゃないんだけど……そもそも、達也が私の相手をしてくれないからこういう事になってるんだから、少しくらい達也が私の事を気に掛けてくれさえすればこんなことにはならないのよ!」

 

「責任転嫁も甚だしいですね……そもそも達也さんはこの島に、貴女の相手をしに来たわけではないのですよ? 我々の母国でもあるUSNAからの要請を撥ね退ける為にこの研究を進め、魔法師のあり方を変える為に努力しているのです。その事はリーナも理解しているはずですよね?」

 

「ディオーネー計画には裏の目的がある、そう教えてくれたのはミアじゃない……」

 

 

 リーナが独自でディオーネー計画の裏を見破れるわけがない。それはリーナ自身が理解している事でもあるので、ミアから裏の目的を聞かされた時はクラーク家を爆破しようとすら思った。無論、そんな事をすれば問題になると諫められ諦めたのだが。

 その後も達也の邪魔をしようとするUSNA軍の動きに苛立ちを覚え始めた時にあの叛乱が起き、リーナは良く分からないまま日本へ逃げてきた。元々日本に戻りたいと願っていたので、結果的にはリーナの望み通りになっているのだが、その所為で再び達也の迷惑になっている事をリーナは少し気にしているのだ。

 だから本気で達也の邪魔をしようとか、研究の時間を削って自分の相手をして欲しいと思っているわけではないのだが、二週間顔を合わせる事無く過ぎ、久しぶりに顔を合わせたと思っても少し言葉を交わしただけでお預けを喰らっている状況には耐え難い苦痛を覚えるのだ。

 

「この研究が終われば、達也さんにももう少し自由に使える時間が増えるでしょうから、それまでの辛抱です」

 

「そんな事言ったって、私はUSNA軍からしてみればお尋ね者なのよ? この島から出る事は難しいでしょうし、日本軍にだって私を引き渡せって要望が来てるでしょうし、達也がこの島に来る必要が無くなった途端、私の存在は忘れ去られるんじゃない? 私が達也たちと一緒にあの家で暮らすのは難しいだろうし」

 

「USNAで起こっている問題の根源はパラサイトだと四葉家の方から報告を受けています。達也さんがそちらの方も解決策を授けてくださったようですし、日本に攻め込んできたパラサイトは一匹残らず封印されたそうです」

 

「それはまぁ、私だってその封印を目の前で見てるわけだし、知らないわけじゃないわよ。でも、全てのパラサイトが日本に来るわけじゃないでしょ? 日本の魔法師がUSNA軍に乗り込むとも思えないし……」

 

「日本軍の中にもUSNAの言いなりになるだけじゃないって思ってる人間もいるでしょうし、四葉家に逆らえばどうなるか、日本の魔法師の方がよく知っているのではないかと思います」

 

「それに国防軍の中には、達也が戦略級魔法『グレート・ボム』の使い手だって知ってる人間もいるんでしょうし、それを敵に回せばどうなるかなんて、考えるまでもなく分かるわよね」

 

 

 達也の魔法『マテリアル・バースト』は真田が作った特殊なCADを必要とするのだが、それが無くても達也に歯向かえば跡形もなく消し去られるという事は独立魔装大隊の首脳陣は知っている。だから達也が自発的にリーナを差し出すまで待つべきだと進言しているのだ。

 その事はリーナたちは知らないのだが、達也が自分たちの身の安全を確保してくれているのだという事は知っているので、日本の魔法師がこの島に攻め込んでくる心配はしていないのだった。




攻め込んだら最後、二度と朝日は拝めない……

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