劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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効果は絶大な脅しです


強すぎる脅し

 研究施設内にいても、リーナが起こした爆発音は聞こえていた。達也以外の技術者はその爆発音が敵襲ではないかと身構えたが、達也はリーナが起こしたものだと気配で分かっているので慌てる事無く作業を続けた。だがあまりにも研究者たちが狼狽えるので、自分が様子を見てくるといい立ち上がり、研究施設から訓練施設へと移動する事にした。

 達也が研究施設に入った時はまだ日が昇る前だったが、既に日は傾き始めている事から、自分が随分と研究に集中していたのだなと思い知らされた。

 

「リーナ……壊すなとは言わないが、あまり派手に音を立てるのは止めろ。研究者たちが敵襲と間違えて作業が滞るだろ」

 

「達也……そんな派手に爆発させたつもりは無かったんだけど……」

 

「壁が吹き飛び、外の景色が見えるようになっているというのに『派手に爆発させたつもりは無い』のか」

 

「ご、ゴメンなさい……」

 

 

 壁の一部に穴をあけた程度なら、達也もここまで嫌味な言い方はしなかっただろう。だが達也の眼前には、水平線が広がっているのだ。施設の中にいるのならありえない光景を目の当たりにし、さすがの達也も呆れているのだろうとリーナは思い、肩を落とし反省する。

 

「ヘヴィ・メタル・バーストでも使ったのか?」

 

「さ、さすがにそれは使わないわよ! というか、ヘヴィ・メタル・バーストを使えば達也にバレるじゃないの」

 

「そうだな」

 

 

 リーナがヘヴィ・メタル・バーストを使う際に必要なCAD『ブリオネイク』はUSNAから逃げ出す際に持ち出せなかったので、今のリーナに戦略級魔法を使う術はない。だがあまりの酷さにそう思いたくなる気持ちは、ミアにも理解出来た。何せ壁一面が吹き飛び、オーシャンビューになっているのだから。

 

「とにかくこれは早いうちに直しておいた方がいいだろう」

 

「分かってるわよ……部屋に戻って花菱さんに連絡を――」

 

「その必要は無い」

 

 

 そう言って達也は壁だった場所に手を伸ばし、体内の想子を活性化した――と思った次の瞬間には、壁が元通りになった。

 

「な、なにをしたの?」

 

「リーナ……四葉家御当主からの説明を覚えていないのですか? 達也さんは生まれつき高難度の魔法に演算領域を支配されており、普通の魔法を使う際には後から植え付けた人工魔法演算領域を使っていると」

 

「それは聞いてるわよ。でも、高難度の魔法って何かって話は聞いてないような気も……」

 

「ちゃんと聞かされてますよ。達也さんの魔法は『分解』と『再成』だと。今回の魔法は『再成』でしょう」

 

 

 ミアの話を聞き、リーナはこれまで起きた様々な疑問が一気に解決したと思えた。間違いなく消し飛ばした右腕が生えたのも、ミアが自爆した時無傷だったのも、その他もろもろは達也の魔法のお陰だったのだと。

 

「こんな便利な魔法があるなら、毎回四葉家に頼まなくたっていいじゃないの。なんで隠してるの?」

 

「この魔法にはいろいろと代償があるからな。無機物なら問題ないが、エイドスを遡る際に、その人が経験した痛みも凝縮して襲いかかってくる」

 

「っ!?」

 

 

 その説明だけで理解出来たのは、リーナが優秀な魔法師だからだ。一度説明を受けており、その言葉で思い出したという可能性もあるが、驚き方から初めて聞いたのだろうと達也は判断した。

 

「だからあまりおおっぴろげに使う事が出来ない。俺個人としては問題ないが、この魔法を使うたびに深雪が悲しそうな顔をする。ほのかと雫が心配そうに人の顔を見る。知っている人間に心配させる結果にしかならないから、あまり使わないんだがな」

 

「そうだったの……それなのに使わせてしまって、ゴメンなさい」

 

「壁を直すくらいは問題ない。だが、あまり壊されるのは問題だな」

 

「だから、私だって壊したくて壊してるわけじゃないんだから! でもまぁ、達也が話し相手になってくれたお陰で、イライラは解消されたかも」

 

「リーナはもう少し我慢する事を覚えた方がいいと、何度も言ってきたのですが……」

 

 

 申し訳なさそうに頭を下げるミアに、リーナは居心地の悪さを覚え視線を逸らす。自分の所為でミアと達也に迷惑をかけたという自覚はあるのだ。

 

「ミアが気にする事じゃないわよ。私が魔法制御に失敗した所為でこうなってるんだから」

 

「そうです! 反省してください!」

 

「は、はい……」

 

 

 突如強気に出てきたミアに、リーナはそう答えるしか出来なかった。初めて日本に来た時は自分に対して緊張しまともに話せなかったはずのミアが、今ではこうして自分を注意するまでに成長していると実感し、嬉しさと共に恥ずかしくもなってきたので、リーナはますます気まずげに視線を逸らす事しか出来なかった。

 

「それくらいにしておけ。リーナ、これ以上破壊するようなら、君に封印魔法を掛ける必要が出てくるとか言い出す連中が現れるかもしれないから気を付ける事だな」

 

「ふ、封印魔法……そんなのがあるのね、四葉家には」

 

 

 今のところその技術を使えるのは達也だけだが、リーナはその事を知らない。脅しには十分すぎる威力があったのか、リーナは今日のところは訓練を引き上げるといい部屋に戻っていったのだった。




施すのはもちろん達也

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