劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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原作で出番が無いので、番外の番外で出しちゃいました


九校戦番外編 あずさの観戦方法

 大学での課題や元々人が多い場所が苦手なあずさは、今年の九校戦はテレビで観戦する事にしていた。進学してからも一高の事は気に掛けているし、憧れていた技術者の一人が高校の後輩だと正式に発表された事で、今年は達也の技術力がより注目されることになると思っていたからだ。

 しかも技術力だけでなく、達也が四葉家の次期当主として発表された事で、今年は選手としても注目されることが確実視されているのだ。真由美に誘われた時は少し考える素振りを見せたが、内心では即答したかったのかもしれない。

 

「魔法大学でも九校戦は注目されているから、大抵の試合はカフェのテレビで見られるのが救いかな」

 

 

 先ほどまで課題を片付ける為に図書室に籠っていたのだが、丁度雫の試合が始まるタイミングであずさはカフェに顔を出し、少し離れたテーブルに見知った人物を見つけ声をかけた。

 

「服部君もここで見てたの?」

 

「中条か。少し気になることがあって調べに来ていただけだ」

 

「そうなんだ。でもそれだけなら、早く帰ってても良かったんじゃない?」

 

 

 服部が素直ではないことを知っているあずさは、服部の言葉を照れ隠しだと受け取った。これだけ大勢の人間が見ているなか、家で一人で観戦するのが寂しいとでも思ったのだろうとあずさは考え、小さく笑みを浮かべた。

 そんなあずさの表情を見て、服部はムスッとした表情を浮かべるが、あずさの言葉に対する反論はしなかった。彼もあずさと付き合いが長い事は自覚しているので、自分の照れ隠しを見破られても仕方ないと思ったのだろう。

 

「相席良いかな?」

 

「好きにしろ。別にこの席は俺の場所だというわけではないからな」

 

「ありがとう」

 

 

 大学に進学してからも、あずさと服部は交流を持ち続けている。さすがにすべて同じ講義というわけではないのだが、同じ講義に出ている時は近くに席を取る事が多い。

 

「服部君は会場に行かなかったんだね」

 

「中条だってそうだろ。そもそも今年の九校戦は大学関係者が大勢押し寄せるからか、立ち見客が大勢出ると予想されていたからな。そこまでして生で観たいわけでもない」

 

「くすっ」

 

「? 何が可笑しい」

 

 

 何故あずさが笑ったのか分からなかった服部は、素直にあずさに笑った理由を尋ねる。ここで自分一人で考え込まないのが、服部の良いところだとあずさは思っている。

 

「服部君も後輩の事が心配なんだなって思っただけだよ」

 

「べ、別に心配などしていない。女子の方は司波さんや北山、光井といった実力者がいるし、男子の方も吉田や七宝といった選手がいるからな。無様に負ける心配はしていない」

 

「そうだね。でも今年は司波君も選手として参加する事になってるし、そこが見物なんじゃないの?」

 

「アイツが負けるなど思えん。吉田や七宝もそれなりに戦力となるだろうし、そもそもアイツは一度一条の御曹司に真正面から戦って勝ってるわけだからな」

 

「素直に認めればいいのに」

 

 

 達也たちが入学してすぐにあった衝突を未だに気にしているからか、服部は素直に達也の実力を認めようとはしない。内心では認めているのだが、それを口にする事はしていない。あずさはそんな服部の複雑な思いを知ってか知らずかそんな風に応えた。

 

「別に認めてないわけじゃない。だがアイツはいろいろとイレギュラーだったからな。どうも素直に称える事に拒否反応を……」

 

「まぁ、真由美さんとの関係もあるし、服部君からしたら面白くないのかもしれないけど」

 

「七草先輩は関係ないだろ?」

 

「でも服部君、入学した時から真由美さんの事を意識してたでしょ?」

 

「な、何のことだ」

 

 

 自分の淡い恋心を知られていたことは服部も自覚しているが、今更その事であずさに茶化されるとは思っていなかった。だから彼は大げさに慌てたのだ。

 

「別にからかおうと思ってるわけじゃないよ。ただ服部君からしてみれば、司波君に真由美さんを取られた構図になるのかなって思っただけ」

 

「七草先輩ご自身が選んだんだ。そもそも俺はからかわれていただけで、最初から釣り合っていない」

 

「そうかな? 服部君の魔法力なら、十師族の縁者になるには十分だと思うけど」

 

「俺なんかダメだろ。中条だって十師族の直系がどれだけ凄いかは知ってるだろ」

 

「まぁね。十文字先輩や真由美さんが側にいたから、同年代の子たちよりかは知ってると思うよ」

 

 

 当時次期当主だった克人と、七草家の中でも高い魔法力を有している真由美の事を側で見てきたあずさと服部は、同年代の中でも十師族の凄さをより近くで感じていた。だからではないが、服部のセリフからは謙遜や卑屈な感じは全くしなかった。

 

「俺の事はもういいだろ。北山の試合が始まる」

 

「そうだね。でも北山さんの実力と、司波君の技術力が合わされば、予選程度で後れを取るとは思えないけどね」

 

「あの魔法は……少し前に問題になった魔法か……」

 

「アクティブ・エアー・マインだね。戦争に用いられたのは残念だけど、この競技で使う分には問題ないよ」

 

「そうだな。そもそも競技用に開発した魔法をインデックスに載せたのは魔法大学で、それを見て戦争に用いたのは海外の魔法師だ。司波が責められる謂れはない」

 

 

 服部の言葉を聞き、あずさは少し意外に思えた。大抵の魔法師は達也の事を責めたり、実戦で用いられればどうなるか分からなかったわけがないと言っているが、服部はあくまでも使った人間を責めるべきだと思っている。それが普通なのだが少数派になってしまっているのが少し残念に思いながらも、服部が自分と同じ少数派であることに喜びを覚え、試合を見ながらチラチラと服部の横顔を盗み見るのだった。




仲良しなのは変わってないです

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