劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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あまり広そうではないですよね


服部の交友関係

 結局初日の試合の大半を大学のカフェで観戦したあずさと服部だったが、彼らの端末にほぼ同時にメールが届いた。二人は同時になった端末に訝し気な視線を向け、それぞれがそれぞれの端末を操作した。

 

「壬生さんから?」

 

「桐原? 何の用だ、いったい」

 

 

 あずさの端末には紗耶香から、服部の端末には桐原からのメールが届いており、二人はその内容に目を通し苦笑する。

 

「服部君の方もお誘いのメールだったの?」

 

「ああ。桐原と三十野が同棲してる部屋で明日、一緒に観戦しないかと誘われた」

 

「防衛大学も明日はお休みだからかな?」

 

「卒業旅行の時に時間が取れないと言っていたが、こういう事なら時間が確保出来るみたいだな」

 

 

 卒業旅行の帰り、時間があえばまた旅行しようと約束したのだが、魔法大学と防衛大学とではカリキュラムが違う。演習が多い防衛大学のカリキュラムでは、夏休みも確保出来るかどうか分からないとの事だった。

 

「五十里くんや千代田さんも来るみたいだし、ちょっとした同窓会だね」

 

「まだ卒業して半年も経ってないだろ」

 

「そうだけど、なんだか懐かしいなって思って」

 

 

 同じ大学である五十里と花音とは時々顔を合わせるが、防衛大に進んだ四人とはあの旅行以来顔を合わせる機会が無くなっている。あずさのそんな思いは服部にもあるので、懐かしむあずさに対するツッコミは無かった。

 

「というか、アイツらの部屋はそんなに広いのか? 大学生が借りている部屋など、たかが知れているとは思うんだが」

 

「そうだね……ちょっと聞いてみよう」

 

 

 あずさが紗耶香にメールを送る間、服部は腕を組み友人たちの顔を思い浮かべる。入学して一年半は生徒会役員として、後半は部活連会頭として活動していたため、服部に近づこうとする生徒は少なかった。気難しいという印象があったのも原因だが、服部は友と呼べる人間がそれ程多くないのだ。

 

「(あいつらもちゃんとやってるんだろうな)」

 

 

 実力者だが、熱くなると周りが見えなくなる傾向に陥る桐原と、男前だが何処か残念な沢木、数少ない友人の中でも、その二人は特別だと服部も感じている。だがその事を二人に直接言う事はなく、何時も不満を述べていたと思い、自分の性格を反省していると、あずさが自分を見ている事に気付いた。

 

「どうかしたのか?」

 

「えっと、今四葉家が用意した新居、殆ど人がいない状況だから、司波君からの許可がもらえれば私たちが使ってもいいみたい」

 

「殆ど人がいない? ……あぁ、会場に行ったり選手として参加したりしてるのか」

 

「だから、日中なら問題無いと思うって壬生さんが」

 

「なら許可を貰ってから連絡するべきだと思うが」

 

 

 服部の正論に、あずさは苦笑した。服部の言っている事は間違いではないが、集まれるかどうか分からないのに許可を求めるのは憚れると感じても仕方ないと思えたからだ。だが服部はあずさのそんな考えを理解出来ず、自分の考えに同意して苦笑したのだと受け取っていた。

 

「全員集まれるか分からなかったし、五十里くんたちは二人きりの方がいいと思ったんだと思うよ? まぁ、集まれなかったら桐原君たちの部屋で十分だと思ってたのかもしれないし」

 

「桐原たちもだが、五十里たちも学生という自覚をもって生活してるんだろうな? 特に千代田は、いろいろと我慢してた節が見られたから、枷が外れて自由奔放に振る舞ってるんじゃないか心配だ」

 

「服部君だって、千代田さんとは講義で会ったりするでしょ? そこまで心配する事じゃないと思うけど」

 

 

 そもそも五十里と花音がどのような生活を送っているのか、服部が気にする必要は無い。両家が認めた許嫁で、五十里はしっかりと自分の意思を持っているので、花音に流されることは少ない――全く無いとは言えない――ので、節度ある生活は送っているのだ。

 

「あっ、許可が出たってさ」

 

「なら明日は四葉家の新居? とやらに行けばいいのか? 俺は場所を知らないのだが」

 

「私は知ってるから、一緒に行く?」

 

「そうだな。桐原たちは壬生が案内するだろうし、五十里たちは知っていても不思議じゃないしな。中条が迷惑じゃないのなら、案内してもらえるか?」

 

「私から言い出したんだし、迷惑じゃないよ」

 

 

 こういう律儀な所は相変わらずだなと、あずさは服部の申し出を受けながら笑みを浮かべる。一時期噂が流れた原因は、あずさが服部に対してよく笑顔を向けているからなのだが、二人はそんな事で噂になるとは思っていないので、今もこうして笑みを浮かべ、向けられても特に意識していないのだった。

 

「それじゃあ済まないが、明日の朝九時に魔法大学前で良いか?」

 

「駅の前で良いんじゃないかな? わざわざ歩く必要は無いと思うし」

 

「中条がそれでいいなら、俺はそれで構わない」

 

 

 互いに付き合っている相手がいるわけでもないので、見られたところで問題ないのだが、服部は一応その事を気にしての申し出をしたのだ。それが分かっているから、あずさは駅前で問題無いといい、服部もあずさの案で納得した。

 

「それじゃあ、また明日」

 

「あぁ、それじゃあな」

 

 

 あくまで自然に別れる二人に、周りにいた人間は下種の勘繰りはせずに見送った。自分たちが注目されていたなど思っていない二人は、見送られていたことにすら気づかずに、それぞれの帰路に就いたのだった。




この二人の自然な感じが良い

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